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過労で異世界転生したら、神童錬金術師の幼女になりました〜幼馴染達と楽しく成り上がって過ごしながら生活をよくしていく〜

作者: リーシャ

「んぎゅぅ……」


 目を覚ますと、視界には柔らかな天蓋の付いたベッド。ぼんやりと霞む視界の先に、優しげな笑みを浮かべた女性が見えた。


 白いフリルがふんだんにあしらわれた、それはそれは豪華なドレスを身につけたその人が、どうやら母らしい。


(え、私、死んだはずじゃ……?)


 前世は、しがない研究者だった。寝食を忘れ、ひたすら研究に没頭する日々。

 気づけば過労で倒れ、そのまま呆気なく人生の幕を閉じた、はず。それがどういうわけか、こんな赤ん坊になって、異世界に転生してしまったらしい。


 今現在の身体は、生後数ヶ月といったところだろうか。手足をばたつかせると、周りにいた侍女たちが「おお、お目覚めですか、お嬢様!」と歓声を上げた。

 この身は、貴族の家で生まれたようだ。そして、転生特典というべきか、チート能力が備わっていた。


 それは、この世界の常識を覆すほどの錬金術と、前世の科学知識を融合させる力。素材の構成を原子レベルで理解し、自由に組み換えられる。


 そんな感覚。言葉を理解できるようになる頃には、奇妙な行動はすでに始まっていた。


「ママン、これ、きらきら!」


 庭で見つけた小石を手に、私は目を輝かせ心の中で「鉄、精製」と念じると手のひらの小石が輝きだし、みるみるうちに光沢のある小さな鉄の塊へと変わった。


「まぁ、ラミュルス!なんて素晴らしいのでしょう!」


 母は目を丸くして驚き、すぐさま父を呼んだ。


「あなた、来て」


「なんだい」


 父もまた、その光景に信じられないといった表情を浮かべたが、歓喜の声を上げた。


「まさに神童!我がラミュルスは、この国の未来を担う逸材となるだろう!」


 以来、神童錬金術師のラミュルスとして、周囲から絶大な愛と期待を一身に受けることになった。


「欲しいものがあれば言ってごらん!」


 両親は望むものを何でも与え、屋敷の使用人たちは皆、笑顔に癒されると言って、常に優しく接してくれた。最も熱中したのは、前世の知識をこの世界の錬金術での再現。


「この世界の医療は、まだまだ未熟だからなぁ。衛生概念も薄い」


 ある日、侍女が軽い風邪をこじらせて寝込んでいるのを見て、決心した。


「清潔な水が必要だし。消毒液も」


 屋敷の庭にある井戸の水を見つめ、心の中で「純水、生成」と念じた。水がまばゆい光を放ち、やがて透明度の高い、完璧な純水へと変化。純水を原料に、アルコールを生成。


「これで、傷口の消毒もできるし、清潔な医療器具も作れる!」


 発明は、まず屋敷の中で大いに活用された。侍女たちの病気はみるみるうちに回復し、皆がこの錬金術に感謝する。錬金術は、それだけに留まらなかった。


 ある日。街に出かけた際、貧しい子どもたちが泥だらけの服を着て、空腹を抱えているのを見た私の心は、ギュッと締め付けられた。


「錬金術で、この子たちを助けられるはず」


 街のあちこちで見かける土や石を素材に、高品質な布を作り出した。さらに、栄養価の高い穀物を大量に生成し、パンを焼く。


「ほら、これ、あったかいよ!」


 すかさず相手にサーブ。差し出した焼きたてのパンを子どもたちは目を輝かせて受け取った。彼らの笑顔は温かく満たしてくれる。


 その才能は、やがて大きな波紋を呼び始める。錬金術によって生み出される高品質な布や食料は、市場の価格を大きく揺るがしていたらしい。


 既存の商会の利益を脅かした。父の書斎に、剣を携えた男たちが押し入ってきた。彼らは、街の有力な商会の人間だという。


「貴様の娘が、我々の商売を邪魔している!錬金術などというインチキで市場を乱すな!」


 彼らは激昂し捕らえようとした。


「うるさい」


 小さな身体で彼らの前に立ちはだかり、目の前の空間に手をかざす。


「鉄、生成。形状、網状」


 空中から無数の鉄の網が突如現れ、男たちを捕らえた。男たちは身動きが取れなくなりその場に崩れ落ちる。


「お嬢様……!」


 父や使用人たちは私の予想外の行動に呆然としていたが、すぐに駆け寄って男たちを取り押さえた。


 すぐに警邏や警備が駆けつけて、掴まえていく。貴族に平民がこうした場合、厳しい罰が下されるはず。この事件をきっかけに改めて決意した。


「この錬金術の力で、皆が笑顔で暮らせる世界を作る」


 目標は、貧困や病気のない豊かな世界を築くこと。齢五つになった頃、錬金術の噂はついに王都にまで届いた。


 国王直々の召喚命令が我が家にもたらされたのだ。両親は不安と期待が入り混じった表情をしていたが内心、胸を躍らせていた。

 より大きな舞台で、錬金術を活かせると考えただけで、好奇心が抑えきれなかった。それに、万が一があろうと、相手を威圧する自信がある。


「ラミュルス、無理はしなくていいのよ。もし嫌なことがあったら、すぐにパパとママに言うのよ」


 馬車に乗り込む私を、母は心配そうに見つめた。父もまた、口には出さないものの、その瞳には同じ感情が宿っていた。


「うん!大丈夫だよ、ママン、パパン!」


 満面の笑みで答えた。前世では、研究室に籠りきりで人と交流することも少なかった。


 この世界では、皆が私を愛し、大切にしてくれる。温かさが、心を強くしていた。王都は、想像を遥かに超える場所だった。


 巨大な城壁に囲まれ、石畳の道には人々が行き交い、活気に満ち溢れている。王宮は、まさに威厳の象徴。壮麗な建築物に、思わず息をのんだ。

 とは言っても、テレビで見たことのある都会と比べたら少ないけどね。




 国王謁見の間。豪華絢爛な装飾が施されたその部屋で、国王陛下と対面した。


 威厳のある国王は、じっと見つめ、その目はまるで私を見透かそうとしているかのようだった。流石にさぁ、大人気ないよ?がっかりした。


「其方が噂の神童、ラミュルスか。錬金術の腕前、見せてみよ」


 本当に偉そうだなこの人。国王の言葉に臆することなく、事前に用意していた道具を取り出した。この世界の錬金術師が使うものとは全く異なる、簡素なガラス製の器具。


「では、まずはこちらを」


 小さなガラスの容器に王宮の庭から採取した土と水を入れると心の中で「栄養豊富な土壌、生成。高効率栽培用」と念じた。


 すると、容器の中の土と水が混ざり合い、みるみるうちに色が変化し、驚くほど生命力に満ちた黒い土壌へと変わる。


「これは、通常の土壌の何倍もの速さで、作物を育てることのできる土壌です。食糧問題の解決に役立つでしょう」


 空のガラス瓶を取り出した。


「こちらは病に効く薬です」


 瓶に空気と、僅かな魔力を込める。心の中で「広範囲抗菌作用を持つ液体薬、生成」と念じた途端、瓶の中に青白い液体が生成された。


「こちらは、様々な病原菌を殺す力を持つ薬です。衛生環境の改善と、疫病の予防に役立つかと」


 国王は錬金術に目を丸くし、その表情には驚きと同時に、深い感銘の色が浮かんでいた。


「素晴らしい……!これほどの才能が、この世に存在しようとは……」


 国王は立ち上がり、私の手を取った。


 今更手のひら返しされてもなあ?


「ラミュルス、そなたには、我が国の錬金術師の最高位を与えよう。そして、王宮錬金術研究所の設立を許可する。そなたの力でこの国を世界を、より良き場所へと導いてほしい」


 こうして、王宮で自由に錬金術の研究に没頭できることになった。うんって、言ってないけどね?


 幼女をブラックに使おうとしても、こっちの方が上手だよと笑う。そうは言ってもこっちは幼児。

 すべてが順風満帆に進むわけではなかった。錬金術は、既存の錬金術師たちの反発を招く。彼らは、この錬金術を「邪道」と呼び、異端視。


「あのような小娘のまやかしが、真の錬金術であるはずがない!」


「王様は、あの子に騙されているんだ!」


 陰口を叩かれたり、研究を妨害されそうになったりすることもあったけども、前世で培った諦めない精神で、彼らの妨害に屈することなく、研究を続けた。


 王からの王命にそんなことをしてくるなんて、命知らずであろうそんな中、心強い味方も現れる。

 一人は、国王の娘であるロゼッタ王女。彼女は錬金術に強い興味を示し、いつも私の研究室に顔を出しては、目を輝かせながらこちらの話を聞いてくれた。


「ラミュルスの錬金術は、まるで魔法みたいね!私、ラミュルスみたいになりたいわ!」


 ロゼッタ王女の純粋な憧れの眼差しは、大きな励みとなった。もう一人は、王宮騎士団の若き隊長、オルム。彼は、錬金術を披露した際に、その可能性にいち早く気づき、護衛を務めてくれることになった。


「ラミュルス様の発明は、この国の未来を変える力がある。必ず、私が守り抜きます」


 オルムは真面目で朴訥な性格だが、その言葉には揺るぎない決意が感じられた。文句を言う人をリストにして、後に提出しておこう。


 そんなこんなで。彼がいてくれるおかげで、安心して研究に打ち込むことができた。


 ロゼッタ王女とオルム。信じてくれる人々のためにも、この世界の技術と人々の生活を向上させることを誓う。


 病に苦しむ人々を癒し、飢えに喘ぐ人々を救いたい。争いのない、平和な世界を築くために。というのも、言い過ぎかなー。

 今日も、研究室でフラスコを傾け、ビーカーを覗き込む。前世で培った科学知識と、この世界で得た錬金術の力を融合させ、新たな発明を生み出すために。


 この小さな手から、この世界の未来が作られていく。言い過ぎじゃないよ。




 突如隣国から無茶苦茶なことを言われたと、王女から聞いた。ヴァルキリー帝国からの要求は、王宮内に重苦しい空気を漂わせた。


 ラミュルスが欲しいのだと言う。国王は憔悴しきっており、ロゼッタ王女は身を案じて涙をこぼし、オルムはただ静かに、剣の柄を握りしめていた。


「ラミュルス、どうするつもりだ?」


 国王は、縋るような目で見た。彼らの不安を少しでも和らげたいと願った。あそこは軍事大国。


「陛下、私をヴァルキリー帝国に引き渡すことは、絶対にやめてください」


 一同は驚いた。


「彼らの真の目的は、私の錬金術の技術を軍事転用することにあります。もしそうなれば、この世界はさらなる争いの渦に巻き込まれるでしょう」


 知識から、科学技術が戦争に利用される恐ろしさを知っていた。平和に導くという目標に、それは真っ向から反する行為だからね。


「では、どうすると言うのだ?戦争を避ける道はないのか?」


 遣わなければ、侵略すると言われているらしい。国王の問いに、深く考えた。


 ヴァルキリー帝国が本当に欲しいのは、“知識”と“技術”。ならば、それを逆手に取って、戦争を回避する手はないだろうか。


「あります。私が、彼らが本当に欲しがるものを提供するのです」


 ヴァルキリー帝国の使節団との面会を申し出た。国王は不安そうだったが、強い意志に押され、許可を出す。


 ヴァルキリー帝国の使節団は、いかにも傲慢で威圧的だった。目的は、帝国に連れ去り、錬金術を独占することだということは明らか。


「神童錬金術師とやら。大人しく我々の帝国に来るならば、貴様に不自由はさせぬ」


 使節団のリーダーは、私を見下すように言った。


「お断りします」


 毅然として答えたら彼らの顔に、怒りの色が浮かぶ。


「しかし、私はあなた方に、この世界を変える新たな技術を提供しましょう」


 小型の動力機関の設計図と、それを錬金術で生成する方法を提示。蒸気機関よりもはるかに高効率で、安全に稼働できるもの。


「これは、軍事利用も可能ですが、それ以上に、人々の生活を豊かにする力を持っています。この技術があれば、水車や風車に頼らずとも、あらゆる場所に工場を建設し、大量生産が可能になります。農作業も飛躍的に効率化され、交通網も整備されるでしょう」


 使節団の面々は、提示した設計図と説明に、最初は半信半疑だったが、錬金術の実演を見て、その表情は驚愕へと変わった。


「こ、これは……まさか、これほどまでの技術が……!」


 彼らは、彼らの欲しがっていた軍事転用の錬金術以上に、はるかに大きな可能性を秘めた技術を示したことに気づいたのだ。さらに続ける。


「この技術を、ヴァルキリー帝国が独占するならば、いずれ他の国々も追いつき、再び争いの火種となるでしょう。もしこの技術を世界中に広めるならば、全ての国が豊かになり、不必要な争いは減るはずです」


 この技術を独占するのではなく、平和的な利用のために、国際的な協力体制を築くことを提案した。


 ヴァルキリー帝国の使節団は、最初こそ反発したが、示した技術のあまりの可能性と、それに伴う莫大な利益を前にして。最終的には、提案を受け入れざるを得なかった。




 こうして、ヴァルキリー帝国との戦争は回避された。提案は、国際錬金術技術協力機構の設立へと繋がる。機構は、中心となって、この世界の技術革新を推し進め。


 その恩恵を、全ての国が享受できるようにすることを目的としていた。ロゼッタ王女は、活動を積極的に支援し、国際会議の場で考えを代弁してくれた。

 オルムは、国際錬金術技術協力機構の警備隊長となり、身の安全を確保し続けてくれる。世界は急速に変化していった。


 高効率な動力機関によって工場が建設され、大量生産が可能になり、物資は豊富に。病気治療薬の普及により、人々の寿命は延び、健康に。


 新しい農業技術によって、食糧問題は大幅に改善。もちろん、全てが順調に進んだわけではない。新しい技術がもたらす変化に抵抗する者。依然として、争いを望む勢力も存在した。決して諦めなかった。


「疲れたなぁ」


 時に、疲れを感じることもあった。信じ、愛してくれる人々の笑顔が、奮い立たせた。特に、抱きしめてくれる両親の温もり。ロゼッタとオルムの信頼の眼差し。


 何よりも支えとなった。まだ幼いけれど、この世界を変えるという大きな夢を抱いている。錬金術は、これからも無限の可能性を秘めているのだ。特別な力を。ゆっくりと、確実に紡がれていく。




 国際錬金術技術協力機構の、代表として多忙を極めるラミュルスは十六歳になった今も、研究と世界の発展に心血を注いでいた。


 彼女にとっての最優先事項は、錬金術の力でこの世界をより良くすること。個人的な感情に目を向ける余裕はなかった。


 そんなラミュルスの傍らで、二つの心が静かに、そして深く揺れ動いていたのは知らない。ロゼッタ王女は、国際会議でのラミュルスの右腕として、連日のように各国要人と渡り合っていた。


 その聡明さと気品は、国内外で高く評価されていたし。心の中には、オルム隊長への秘めたる想いが募るばかり。彼の真面目で寡黙な人柄。危機に際して常に冷静沈着で頼りになる姿。


 ラミュルスを守るために、どんな困難にも立ち向かうその揺るぎない忠誠心。ロゼッタは強く惹かれていたらしい。気づくわけがない。


 一方、オルムもまた、自身の感情に葛藤していた。彼にとってラミュルスは、守り抜くべき存在。世界を導く希望。


 その揺るぎない尊敬の念は、いつしか深い忠誠心へと繋がる。彼の行動の全てを突き動かしていた。ロゼッタ王女が自分を見つめる視線には、常に気づいていたらしい。だから知らんっての。


 彼女の優しさ、はにかんだ笑顔は彼の心の奥底に温かい感情を灯し始めていた。と、後に惚気られる。


 オルムはロゼッタがラミュルスと親しげに談笑する姿をよく目にしていた。二人が笑い合う姿は絵画のように美しい。


 オルムはそんな二人の姿を守りたいと心から願っていた。ロゼッタの自分に向けられた純粋な好意に、彼はどう応えるべきか迷っていた。一介の騎士。ロゼッタは王女。立場の差は彼に大きな壁となって立ちはだかっていた。




 ある日の午後。ラミュルスは王宮錬金術研究所で、新たな素材の生成実験に没頭していた。


 その日も、ロゼッタとオルムは彼女の傍らにロゼッタは、求める素材のリストを整理し、オルムは周囲の警戒を怠らなかった。


 実験中、ラミュルスが不意に手を滑らせ、高熱を発する試験管が床に落ちそうになった瞬間、ロゼッタはとっさに手を伸ばし、試験管を受け止めようとした。しかし、熱を帯びたガラスはロゼッタの手には危険すぎた。


「ロゼッタ様!」


 オルムは一瞬の迷いもなく、ロゼッタの手を強く掴む。試験管が落ちるのを阻止。彼の素早い行動に、ロゼッタの顔が赤くなる。


 ロゼッタの手は、オルムの大きな掌の中に包まれていた。温かさに、ロゼッタの心臓が大きく跳ねる。


「大丈夫ですか、ロゼッタ様?お怪我はありませんか?」


 オルムの声は、いつになく焦りを含んでいた。視線は、ロゼッタの顔をじっと見つめ、瞳には、安堵と隠しきれない心配の色が宿っている。


 ラミュルスは、二人の間に流れる特別な空気に気づく。たった今。彼女はただ静かに、二人の様子を見守っていた。


 二人は大切な友人であり、共に世界をより良くするために力を合わせる仲間だからこそ、二人の幸せを心から願っていた。




 その日の夜、ロゼッタはオルムを呼び出した。王宮の庭園、月明かりの下で、ロゼッタは意を決して口を開く。


「オルム隊長……私、貴方のことが、好きです」


 ロゼッタの声は震えていた。真っ直ぐにオルムを見つめる。オルムは驚きに目を見開くと彼は深く息を吸い込む。


「ロゼッタ様……私は、そのお気持ちに、応えることはできません」


 オルムの言葉に、ロゼッタの顔から血の気が引いた。


「っ」


 彼女は、来るべき答えを覚悟していたはずなのに、胸の奥が締め付けられるような痛みに襲われる。


「私は、ラミュルス様をお守りするという使命があります。そして、私の心には……ラミュルス様への敬愛が、あまりにも大きすぎます」


 オルムは、苦しげな表情で続けた。彼の言葉は、ロゼッタの心をさらに深く抉る。


 ロゼッタは彼の言葉に、ラミュルスへの特別な想いが込められていることを理解。同時に、オルム自身もまた、その感情に苦しんでいるのだと感じた。


「ですが、ロゼッタ様……」


 オルムは、ロゼッタの震える手を取った。彼の瞳は、真剣そのもの。


「あなたの優しさと、強さに、私はいつも救われています。あなたは、この国にとって、そして私にとっても、かけがえのない存在です」


 ロゼッタの心に希望の光が灯った。それは恋の感情とは異なる、温かい信頼と尊敬の言葉。ロゼッタは、オルムの言葉に涙を流した。失恋の涙であると同時に、彼の正直な気持ちを知れたことへの安堵の涙。


「ありがとう、オルム隊長……あなたの気持ちが、聞けてよかったわ」


 ロゼッタは、自分の恋が報われることはないと悟った。自分を大切な存在として認めてくれているという事実が、彼女の心を温かく包む。


 オルムもまた、ロゼッタの存在が、彼の心に大きな安らぎをもたらすことに気づいた。ラミュルスへの敬愛とは異なる、静かで穏やかな感情が、ロゼッタに対して芽生えていることを。


 ラミュルスは、その夜の出来事を直接知る由もなかったが翌日から、ロゼッタとオルムの関係が、以前とは少しだけ変化していることに気づく。


 今二人の間に流れる空気は、以前よりも柔らかく。互いを気遣い、支え合っているのが見て取れた。ラミュルスにとって、この世界は、まだ解明すべき謎と、錬金術の無限の可能性に満ち溢れている。


 彼女の人生の主軸は、これからも変わらないだろう。

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