第五話 魔物の進化条件
シャドウウルフを倒してから、僕はしばらくその場を動けなかった。
体は疲弊し、魔力もほとんど空っぽ。けれど、それ以上に胸の奥がざわついていた。
(……僕が……倒したんだ、ランクFの魔物を)
まだランクG、レベル4の小狐の僕が、格上を倒した。
チートスキルと転生者特有の知識、そして魔法と幻術の組み合わせ。すべてをフルに使ってようやく勝てた。
そのときだった。
『やっほー、よくやったわね、レン♪』
耳に、聞き覚えのある声が届いた。
光が空から差し込み、小さな人影が現れる。
銀髪、琥珀色の瞳、軽く笑みを浮かべた少女――
「アルメリア……!」
『正解っ! 転生を司る美少女女神、アルメリア様のおでましよ♪』
相変わらず軽いノリ。でも、僕の命を救い、導いてくれる存在でもある。
『レン、シャドウウルフを倒したわね。おめでとう、これでレベルも上がったし、スキルも育ってきた』
「ありがとう。……それで、聞きたいことがある」
『うん? なに? アルメリアちゃん、なんでも答えちゃうわよ~?』
「――進化のこと」
アルメリアは一瞬、真顔になる。そして、微笑んだ。
『なるほど、そろそろ知っておくべき頃ね。じゃあ教えてあげる』
彼女の指先が光を描き、空中に魔法の文字が浮かんだ。
『魔物の進化条件』
――
【進化ルール】
・すべての魔物は進化可能。
・最初の進化はレベル10で発生。
・以降は、進化するたびに必要レベルが倍に増える。(例:20、40、80…)
・進化後、種族や能力が大きく変化する。
・一部スキルや魔法も進化により派生・進化可能。
【スキル進化】
・スキルはLv10で進化。
・進化すると効果や応用性が向上する。(例:雷魔法Lv10 → 上級雷魔法)
――
『つまるところ、今のレンはまずレベル10を目指すべきってことね』
「それで、進化したら僕はどうなる?」
『ふふ、それは見てからのお楽しみ。……ただ、一つだけ。』
アルメリアはそっと僕に顔を寄せ、悪戯っぽく囁いた。
『キミの進化は、普通の魔物とは――ちょっと違うわ』
「……それって?」
『9回。キミは、9回進化できる。これは他の魔物にはない、特別な仕様。』
「……九回……」
『最終進化は――九尾。世界に一体しか存在しない、神話級の存在よ』
息を呑んだ。
最初の進化すらしていない僕が、そんな存在になれるなんて――。
『だから、死んじゃダメ。焦らず、でもしっかり強くなっていくのよ?』
アルメリアはそう言って、くすっと笑った。
『じゃ、また成長したら遊びに来るね♪』
光と共に、彼女の姿が消える。
僕は一人、静かに呟いた。
「九回進化して、九尾に……か」
遥か遠い道のりだ。でも――
「やってやるよ。だって僕は、天才なんだから」
そして何より、追いつきたい人たちがいる。
――天宮天音。聖女となった幼馴染。
――天宮陽菜。賢者となったもう一人の幼馴染。
二人が僕の死と同時に異世界召喚され、今は人間の国で活躍している。
僕が彼女たちに再会するためには、この森を抜け、強くなり、魔物として人間社会に紛れなければならない。
(まずは……レベル10だ)
その時、進化が始まる。
次回:第六話「進化へのカウントダウン」へ――
襲い来る魔物、忍び寄る謎の影。そして、初めての仲間との出会いが……!