第三話 狩りの始まり
僕は静かに草むらに身を伏せ、耳をぴくりと動かす。
小狐の身体は軽く、そして柔軟。音も立てずに動けるこの体は、まさに狩りに最適だった。
(目標発見……)
目の前、十メートルほど先の茂みに、小さな魔物――《ホーンラビット》がいた。
ウサギのような見た目だが、頭に小さな角が一本。毛並みは灰色、ランクは同じG。
こっちは転生者で、スキルと魔法の差がある。負けるはずがない……そう思いたい。
(でも、魔物同士の戦いは、油断したら即死ってアルメリアが言ってたな)
転生女神・アルメリア――僕をこの世界に送った、小悪魔系美少女。銀髪で琥珀色の瞳が印象的で、なんだかんだ面倒見がいい。
『魔物は進化する。だけど、進化する前に死んじゃったら意味がないわよ? 最初のうちは慎重に、慎重にね♪』
そう、確かに彼女は笑って言っていた。
(よし、慎重に、確実に――)
「〘鑑定〙!」
《ホーンラビット》
【ランク】G
【レベル】2
【生命】90
【敏捷】80
【スキル】〘突進Lv1・跳躍Lv1〙
(……意外と素早いな)
でも、こっちにはある。チートスキルが。
「〘韋駄天〙、発動」
時間制限は三分。敏捷が5倍になり、僕の体が風のように軽くなった。
(いける――!)
地面を蹴った。草をかき分け、一直線にホーンラビットへ突進する!
相手も気づいて跳ねたが、こっちの速度が違う!
「〘突進〙!」
ガンッ!
小さな体がぶつかり、ホーンラビットが転倒。すかさず首元に牙を突き立てる。
「〘噛み付き〙!」
ギャッという悲鳴。体を震わせて暴れるが、こっちは負けない。
数秒後、ホーンラビットの体がぐったりと動かなくなった。
(やった……!)
人生初の、異世界での勝利。
体は小さくても、魔物でも、僕は生きてる。
そして、確実に――強くなっている。
【ホーンラビットを討伐しました】
【経験値を獲得しました】
【スキル『噛み付き』がLv2になりました】
【レベルが2になりました】
(……これが、この世界のルールか)
戦えば強くなる。生き残れば進化できる。
そしてこの先、僕には九つの進化が待っている。
最終進化、《キュウビ》。
でも、それまでに越えるべき壁は、無数にある。
(天音、陽菜……僕も頑張ってるから)
君たちにまた会えるその日まで。僕は、ここで、生き抜いてみせる。
次回:第四話「新たな気配」へ――
森の奥に潜む、異形の影。それは、ただの魔物ではなかった――。