第24話「旅立ちの誓い」
王都レインの夜は、煌びやかな光に包まれていた。だが、僕の心には影が差していた。
先日、黒衣の女との戦い――いや、惨敗――が、今も脳裏に焼き付いて離れない。
「強くならなきゃ、みんなを守れない……」
王都の中央広場。噴水の前に立つ僕の肩には、ユノが寄り添っていた。彼女は精霊としての姿を縮めて、僕の肩に乗るほど小さくなっている。
「レン、本当に行くの?」
「うん。セルディアへ行く。もっと強くなるために……剣を学びに」
思い返せば、今まで僕の力の大半は魔法とスキルに頼っていた。だが、黒衣の女――おそらく魔族の上位存在であろう相手に、まるで歯が立たなかった。
彼女の冷たい瞳に見下され、ただの子狐のように弄ばれた僕は、自分の無力さを痛感した。
「影と幻術の力だけじゃ、限界がある。剣も、学ばないと。」
そう決意したのは、ただ己の力を高めるためだけじゃない。
王都で出会った人たち――アリシアやエリナ、そして僕を助けてくれたルミナスやアルメリア……彼女たちを守る力が、今の僕には足りない。
「……私、信じてる。レンはきっと……誰よりも強くなれる」
ユノが静かに言葉を紡ぐ。オッドアイの瞳が月光を受けて輝いていた。
⸻
翌朝、僕は王都を発つ前に、アリシアとエリナの姉妹に別れを告げに向かった。王城の訓練場。朝早くから訓練をしているアリシアの姿があった。
「……来たか、レン」
「アリシア。剣のこと、少し教えてくれてありがとう。僕、セルディアへ行くよ」
「そうか。……正直、少し寂しいな。けど、お前ならどこへ行ってもきっと強くなる」
「エリナに、また会いに来るって伝えておいて。必ず、成長して戻ってくるって」
アリシアは微笑んで、僕の肩を叩いた。
「……剣の道は、厳しいぞ。覚悟しろ」
「うん。僕、覚悟はとっくにできてる」
⸻
獣王国セルディア――そこは獣人たちが暮らす、王国ラインから見て南の辺境にある独立した大地。
体術や武術が発展し、厳しい自然と共にあるその国では、魔法に頼らない戦いが主流だと聞く。
《武器術Lv5 → 剣閃術 習得》
王都を離れるその朝、僕のステータスに変化があった。
何度も剣術の修練に付き合ってくれたアリシアの指導、そして戦いの中で得た経験によって、ついにスキルが進化したのだ。
【剣閃術】
素早い連撃を中心に、魔力を刃に宿し、剣に閃きを与える剣術。
攻撃速度上昇・幻影を纏った連撃を可能とする。
「……よし、行こう、ユノ」
「はい、レン。私たちの旅が、また始まりますね」
この旅の先に何が待っているのか、まだ分からない。けれど――
もう、迷わない。僕は、強くなる。守りたいもののために。
剣と幻影、そして仲間たちの想いを胸に――
僕は獣王国セルディアへ向けて歩き出した。
次回 第25話「氷炎の交錯」