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第二十三話「黒衣の女」

封印の魔法陣が煌めきを放ち、夜の森に現れた黒衣の女。

レンの鋭い視線と、ユノの震える声が場の緊張を物語っていた。


「君、見た目はただの狐のくせに……なかなかやるじゃない」


ローブの中から現れた女の口元が、薄く笑う。

その瞳――紅玉のような赤い目が、レンを見据えていた。


「《鑑定》……!」


――――――――――――――――

【名前】不明

【種族】魔族?(鑑定不能)

【職業】???(鑑定不能)

【状態】抑制中/魔力遮断/契約完了(未知)

――――――――――――――――


「……情報がまるで見えない」


レンが低く呟く。

鑑定スキルが通じない――それは“格上”か、“異常存在”のどちらか。


「私の力じゃ……あの人、正体が全然掴めないよ……」


ユノも不安そうにレンの肩に浮かび寄る。


「ふふふ……名前は教えてあげてもいいけど、今はまだ“そのとき”じゃないわ」


女は、まるでこの空間すら自分のもののように歩み出る。


「目的はなんだ?」


レンの問いに、女はピタリと足を止めた。


「そうね――この世界の“鍵”を探しているの。あなたも、その一つかもしれないわよ? 可愛い九尾のたまごさん」


レンの背に、ぞくりとした悪寒が走る。


「九尾……僕の進化先を、知ってるのか……?」


「もちろん。転生者で、なおかつ九尾の因子を持つ魔物なんて、そうそういないもの」


ユノの瞳が大きく見開かれる。


「ねえレン、あの人、どこまで知ってるの……?」


「少なくとも、僕のことを調べた上で、ここに来てる」


警戒心を強めるレンだったが、女はそれを見透かしたように笑った。


「でも安心して。あなたを殺しに来たわけじゃない。むしろ、“契約”を持ちかけに来たの」


「……契約?」


女が手をかざすと、空間が裂けるように紫紺の魔法陣が広がった。


「選びなさい。私の契約を受け入れるか、それとも――」


ゴッ……


突然、レンの視界が揺れた。

重い衝撃――気づけば後ろから放たれた衝撃波に吹き飛ばされていた。


「ッ……っ、誰だ……!」


そこに立っていたのは、漆黒の鎧に身を包んだ騎士――否、“魔騎士”のような風貌をした異形の存在。


「《鑑定》!」


――――――――――――――――

【名称】魔騎士グランゾルド(ランクB)

【種族】魔族(精鋭)

【スキル】黒刃術/影鎧展開/命喰いLv2

【状態】命令待機中/主従契約

――――――――――――――――


「くっ……!」


ユノが慌てて魔力障壁を張るが、グランゾルドの黒い剣圧が空間を切り裂く。


「邪魔を、するな」


女が静かに声を上げた瞬間、魔騎士の動きが止まった。


「彼はまだ“選んでいない”。こちらから無理に命を奪うことはしないわ」


「なぜ……こんな面倒な手を?」


「それが契約というものよ。自由意志の上にこそ、真なる力は宿るもの」


レンは額の血を拭いながら立ち上がる。


「選ぶ理由が、ない」


「ふふ、そうかしら?」


女は懐から“黒い石”を取り出し、それを空中に浮かべた。


「これは、かつてこの世界の“神々”が恐れた力。

 あなたがこれを受け入れれば、さらなる強さを得られる。

 だが代償として、あなたの“存在”は――」


「ふざけるな。僕は僕だ。誰かの道具にも、駒にもならない」


レンが断言する。その瞳に、一点の曇りもない。


「なら、いいわ。今はそれで。だけど、いずれまた会うことになる。

 “運命の大戦”が始まる前に――ね」


女が指を鳴らすと、彼女と魔騎士は霧のように消えた。


静けさが戻った森の中、レンはしばらくその場から動けなかった。


***


「……レン。怖かった?」


「少しだけな。でも、もっと怖いのは……自分が誰かの意志に流されることだ」


「……私、ずっと傍にいるよ。どんな選択でも」


レンは頷き、夜空を見上げた。


「神や運命に負けないって、そう決めたんだ。僕は――僕の道を進む」


夜の空に、無数の星が瞬いていた。


次回 第24話「旅立ちの誓い」

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