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第二十二話「影に蠢くもの」

エルツ村の調査報告から三日後。

王都レインの冒険者ギルドでは、レンの報告により封印区域の再調査が決定され、王国直属の調査団が組織された。だが――


「村の封印の核心部までは到達できなかった、か……」


ギルドの一室。レンは渡された報告書を手に、眉をひそめていた。


「レン、その顔……もしかして、また行くつもり?」


ぽわんと浮かんだユノが、心配そうに彼を見上げる。


「ああ。放っておけば、また瘴気が溢れる。しかも今回は“人為的に”封印が解かれようとしていた」


彼の瞳が鋭く細められる。


「……あそこには、誰かがいる。“封印を壊そうとしている”奴がな」


***


――エルツ村・夜。


再び封印区域へと足を踏み入れたレンは、森の奥で異様な“気配”を感じ取っていた。


「来るぞ――」


一瞬、空気が変わる。足元の影が揺らぎ、そこから異形の存在が姿を現した。


「……《鑑定》!」


――――――――――――――――

【名称】影の使徒(Cランク)

【種族】異形種/魔法生物

【スキル】影歩き/瘴気生成/再生Lv1

【状態】瘴気融合体・不完全

――――――――――――――――


「影の……使徒?」


その姿は人型でありながら、輪郭が曖昧で影そのものが形を成したかのようだった。

歪に伸びた手足、ぼやけた顔、そして身体の中心に浮かぶ“黒い宝珠”。


「おそらく……封印の守護者じゃない。“何か”の命令でここに生まれた存在だ」


「レン、慎重にね! あの核みたいな宝珠……きっと弱点だよ!」


「任せろ!」


レンは《幻術Lv2》で自身の影を四体分身させると、影の使徒を包囲する。

しかし――


「《影歩き》……っ、逃げたか!?」


影の使徒の身体がふっと歪み、分身の一体に瞬間移動する。

一瞬で爪の一撃を叩き込み、幻影を霧散させる。


「瞬間移動と再生能力……厄介だな!」


レンは歯を食いしばり、《変化魔法Lv3(完全擬態)》を展開。

影の使徒の死角から滑り込む。


「《影操作・貫穿》!」


地面から伸びた鋭い影が、敵の腹部を貫いた。


だが、影の使徒は苦悶の声もなく、腹部の穴を瞬時に再生して立ち上がる。


「なら、核を直接――!」


レンは跳躍し、敵の胸元の宝珠を狙って拳を構える。


「《幻影強化・破魔》!」


拳が純白の魔力に包まれ、強烈な一撃となって影の核に炸裂する。


――ガキィン!


澄んだ音と共に、核がひび割れ……そして砕けた。


影の使徒はひとつ呻きもあげずに霧散し、残された瘴気が空へと吸い込まれていく。


***


「……終わった?」


レンが深呼吸しながら辺りを見回す。


「どうやら、核が本体だったみたいだね」


ユノが胸を撫でおろす。


だが、そのとき――空気が震えた。


「っ、これは……!」


大地が微かに揺れ、村の中心に眠っていた“封印の魔法陣”が、再び光り始める。


「おかしい……瘴気の源は消えたのに、なぜ……?」


封印の光が螺旋を描くように回転し、その中心から、ひとりの“人影”が姿を現した。


――黒いローブを纏った女。顔はフードに隠されていたが、ただならぬ魔力が全身から溢れ出している。


「やっと……ここまで辿り着いたのね。小さな妖狐くん」


低く、女の声が響いた。


「お前が……封印を壊していた張本人か」


レンの声は鋭くなり、影が再び動き出す。


「この世界のバランスは崩れるべきなの。秩序の時代は、もう終わった」


女の言葉に、ユノが震えた。


「……あれ、レン。あの人、普通の人間じゃない……!」


「わかってる。だけど、今ここで逃がせば……次はもっと大きな災厄になる」


レンは構えを取り、ローブの女と対峙する。

その瞳に迷いはない。仲間を守ると誓った、戦士の光が宿っていた。


***


夜の森に、再び戦の気配が満ちていく。


まだ見ぬ“世界の真実”と、“背後にいる黒幕”。

そして、封印の奥に眠る“災厄”――。


神谷レンの戦いは、次なる運命の扉を開こうとしていた。


次回予告:第二十三話「黒衣の女」

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