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第二十一話「封印の村」

エリナから託された地図を頼りに、レンとユノは王都レインの西、山間にある小さな村――エルツ村へと向かっていた。


「この辺りの魔力濃度、かなり高いね……」

肩の上に乗ったユノが、眉をひそめる。


「だな……普通の森とは違う。封印が解けたって話も、あながち誇張じゃないかも」


数日ぶりに人里を離れた森の中。だが、空気は明らかに異質だった。

ひんやりと肌を撫でる風には、どこか“怨念”めいた何かが混じっている。


「……ん?」


レンの足が止まった。


「《スキル:鑑定》」


――――――――――――――――

【対象】瘴気結晶

【効果】周囲の魔力を不安定化させる。長期接触は精神汚染の危険あり。

【備考】高位魔物の封印の副産物。古代魔術の遺産。

――――――――――――――――


「……瘴気の結晶、か。やっぱりただの異変じゃなさそうだな」


「気をつけて、レン。もうすぐ村だよ」


***


レンたちが辿り着いたエルツ村は――静まり返っていた。


人気がない。物音すらしない。

あたりは整然としていて、荒れた様子もないのに、“何かが完全に止まっている”ような異様な静けさ。


「誰も……いない?」


レンは耳を澄ませ、視界に魔力探知を重ねる。

そのとき――


「ッ!」


レンが咄嗟に飛び退くと、そこに突き刺さったのは一本の槍。


「ぉぉぉぉぉぉ……!」


突如現れたのは、緑色の肌に鎧を着た、異様な魔物――


「《スキル:鑑定》!」


――――――――――――――――

【名称】呪槍オーク(Dランク)

【種族】魔族種

【スキル】狂化/呪槍術Lv2/暗視

【状態】精神汚染/自我喪失

――――――――――――――――


「……やっぱりか、村の住人は全滅。生き残ってた連中も……この呪いで操られてる」


「レン、あれ……普通のオークじゃない。瘴気に染まりきってる」


「なら、全力でいく」


レンの瞳が光を帯びる。


「《変化魔法Lv3・完全擬態》《人化》」


彼の体が赤い光に包まれ、人間の姿へと変わる。銀髪、琥珀の瞳。

その美貌はまさに“絶世の美少年”そのものだった。


「《幻術Lv2・四重影分身》!」


レンの姿が一瞬で四つに分かれ、呪槍オークを包囲する。


「ぁああアア……!」


「こっちだよ」


幻影が動き、レン本体が影から抜け出すと――


「《影操作・穿影》!」


地面から鋭い影の槍が伸び、オークの胸を貫いた。


「グォォ……アア……」


呻き声とともに、呪槍オークは力尽き、その場に崩れ落ちた。


***


「ふぅ……危なかったな」


「レン、すごい……!」


ユノがぱちぱちと手を叩くように宙で舞う。


「でも、これは……ほんの入り口だ」


レンは視線を村の奥へと向ける。

村の中心、かつて広場だった場所に、不気味な瘴気の渦が生じていた。


「“封印”は、まだ完全には解けていない。だけど……その扉は、すでに開きかけている」


「レン、これ……封印術じゃないよ。もっと……古くて、もっと“神聖”な何か」


「神聖……?」


その瞬間、レンの頭の中に――あの蒼髪の少女、魔法神ルミナスの姿がよぎった。


(これは……“神の技”か……?)


「ユノ、ここは一度戻る。これ以上は、下手をすればこっちが呑まれる」


「うん……でも、必ず戻ってくるよね?」


「ああ、必ずな。俺たちで……この封印を、完全に終わらせる」


***


その夜、王都へ戻ったレンは報告を終え、ギルドの一室でひとりつぶやいた。


「瘴気の結晶……呪槍オーク……そして神の封印か」


その全ての影に潜むのは――


「何か、もっと大きな“存在”がいるな……」


ぽわっと揺れるランタンの火の下で、レンの瞳が一瞬、金色に光った。


その光はまるで――この世界に新たな運命の風が吹き始めていることを告げているかのように。


次回予告:第二十二話「影に蠢くもの」

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