第二十話「新たなる任務」
王都レインの朝は早い。
市場には活気が戻り、通りを行き交う人々の声が交差する中――
神谷レンは、王都の冒険者ギルドの一室にいた。
「お待ちしておりました、レン様」
応対に出てきたのは、ギルドの受付嬢。
王都支部の職員らしく、整った身なりに丁寧な所作だ。
「今日から、正式に特別冒険者としての任務をお願い致します」
「……よろしくお願いします」
レンは軽く頭を下げつつも、ギルドの建物を見渡す。
地方都市とは比べ物にならない広さと規模――それだけ、ここに集まる冒険者の実力も高いということだろう。
「ところでレン様」
「はい?」
「本日、王城より任務のご指名がございます。直接、王女殿下からのお達しです」
「……王女、ってことは……アリシア様?」
「いえ――妹君、エリナ殿下からです」
***
王都の城の西塔、文官たちの詰める静かな執務室。
そこにいたのは、あの清楚な雰囲気を纏った少女――エリナ・フォン・ライン。
「レン様……来てくださって、ありがとうございます」
「いえ。こちらこそ、呼んでいただき光栄です、エリナ様」
レンはきちんと礼を取って一礼する。
彼女は姉のアリシアとは対照的で、落ち着いた物腰と丁寧な口調を崩さない、品のある少女だった。
「実は……ある村で、不審な魔物の出現が報告されています。近隣の冒険者を派遣しても、戻ってきませんでした」
「……魔物の種類は?」
「正確にはわかっていません。ただ、魔力の痕跡から“古い封印が解かれた可能性がある”との報告が……」
エリナの声はわずかに震えていた。
だがそれでも、王女としての責務を果たそうとする彼女の瞳は、まっすぐレンを見つめていた。
「レン様。どうか……その村を調査していただけませんか?」
「もちろん、引き受けます。命に代えても、王国の人々を守ります」
「……ありがとうございます」
エリナはほっとしたように、微笑んだ。
その笑顔を見た瞬間、レンは自然と胸の奥が温かくなるのを感じていた。
***
ギルドを後にして、王都の郊外へ。
道中、レンの隣を浮かぶのは――ぽわぽわ精霊ユノ。
「レン……あの王女、優しそうだったね」
「うん。すごく、真面目な人だった。責任感もある。きっと……王国の未来を背負っていくんだろうな」
「レンも、未来を背負うんだよ?」
「……俺は、背負えるだけの力が欲しいだけさ」
レンはそう言いながら、空を見上げた。
その瞳に浮かぶのは――確かな決意。
***
その日の夜、レンは宿の一室で静かにスキルの確認をしていた。
「《スキル:鑑定》」
魔法陣が輝き、自身の情報が浮かび上がる。
――――――――――――――――
【名前】神谷レン
【種族】幻影狐
【ランク】E
【レベル】40
【職業】―(なし)
【スキル】
・変化魔法Lv3(完全擬態)
・幻術Lv2
・火炎耐性
・影操作
・鑑定
・言語理解
・人化
【契約精霊】ユノ(時間・空間属性/下級精霊)
【加護】
・女神アルメリアの加護(転生)
・魔法神ルミナスの加護(全魔法威力上昇/魔法知識自動取得)
・叡智の女神カグヤの加護(言語理解・知識獲得)
――――――――――――――――
「……ずいぶん増えたな、スキルと加護」
「レン、進化の影響だよ。だって今、レンは“幻影狐”……影と幻の力を持つ存在なんだから」
ユノがちょこんと肩に乗り、銀髪を揺らす。
「……ありがとうな、ユノ」
「うんっ。これからも、一緒に強くなろ?」
***
翌朝――
レンとユノは、エリナから依頼された村へ向けて出発した。
その道中で彼らを待ち受けるのは、再び迫り来る魔物の影、そして王都に隠された“真実”だった。
そして――
その背後には、ある“存在”が静かに微笑む。
「ふふ……さあ、次はどんな“選択”をしてくれるのかしら、レン君?」
――転生を司る小悪魔女神、アルメリアの気まぐれが、また世界を揺らす。
次回予告:第二十一話「封印の村」