第十八話「再起の焔(ほのお)」
真っ黒な闇の中――意識の海に沈んだ神谷レンは、何も見えず、何も聞こえなかった。
(僕は……あのまま、負けたのか……?)
ぼんやりとした記憶の中に浮かぶのは、倒れゆくユノの姿、ゴブリンキングの咆哮、自身を貫く鋭い痛み――。
(……いや、まだだ)
その瞬間、胸の奥が熱くなった。
(僕は、まだ……終わっていない……!)
闇が、一筋の光に切り裂かれる。
「――起きなさい、“焔を纏う者”よ」
聞き慣れない女性の声。それは、どこか柔らかく、けれど神聖な威厳を帯びていた。
光の中に現れたのは、紅の髪を揺らす美しい女性――
炎神フェルミナ。
「あなたの魂は、まだ燃えている。ならば立て。“焔”は絶えることなく、再び立ち上がる」
「……君は、誰?」
「私は焔の神。そして、君の“未来”の可能性を見た者よ」
そう言って、フェルミナは炎の指先で彼の胸に触れる。
「君に加護を与える。“不屈の焔”の名のもとに」
【加護獲得:炎神の加護】
効果:HPが0になる攻撃を1度だけ無効化し、10秒間すべてのステータスを2倍にする“焔の覚醒”を発動可能
「……ああ、もう一度……立つよ。絶対に、ユノを、皆を……守る!」
***
「――レンっ!!」
意識を失っていた彼の身体が、再び動いた。
ゴブリンキングの棍棒が振り下ろされる寸前――レンの瞳が、紅蓮に染まる。
「――焔の覚醒!」
全身に紅い炎が走り、黒い毛皮の狐が、幻影を纏いながら起き上がる。
「う、うおおおおおおおおおっ!!!」
爆発するような咆哮と共に、全身の力がみなぎる。
ステータス上昇中――2倍。
ゴブリンキングの一撃を、まるで読んでいたかのように影で回避。
そのまま地面を跳ねて跳躍し、背後へ。
「――影牙・紅蓮穿!!」
影と炎を合わせた爪撃が、ゴブリンキングの背中を貫き、絶叫を上げさせる。
ユノが空中から支援の魔法を放つ。
「――時空歪曲!」
空間を割くような魔法が放たれ、周囲のゴブリンたちが次々と時の彼方へ弾き飛ばされていく。
「レン、いける! 今が……!」
「――終わりだッ!!」
最後の一撃。レンの全身が影に包まれ、火と幻の牙が螺旋を描いて突き刺さる。
影牙・終焉ノ狐火――発動。
それは、あらゆるものを焼き尽くす終焉の炎。
ゴブリンキングは絶叫と共に、爆音を残してその場に崩れ落ちた。
***
戦いの後――
辺りにはただ、静けさだけが残っていた。
焦げた地面に立つレンとユノ。
「……大丈夫?」
「うん。ありがとう、ユノ。君のおかげだよ」
「……レンが、起きてくれて、よかった」
彼女はふにゃりと笑い、空に浮かぶ星のような光を見上げる。
「ねえ、レン。今の君……すごく、かっこよかったよ」
「……はは、それは照れるな」
二人は、静かに笑い合った。
次回予告:第十九話「王城にて」