第十四話「王都へ」
「ここが……ライン王国の首都、レインか」
高くそびえる城壁と荘厳な門、行き交う人々の喧騒、騎士団の鋭い視線――
まさに“王都”と呼ぶにふさわしい威容だった。
「すごい……まるで別の世界みたい」
肩の上で、銀髪の精霊ユノがキラキラと目を輝かせている。
数日前、王女姉妹を助けたことで、彼女たちの護衛という名目でここまで同行させてもらった。
名前も身分も偽っているけれど、今の僕には〈神谷レン〉という人間の姿がある。
変化魔法Lv2の力と、幻術の応用。姿も気配も、人間としての違和感は完璧に抑えていた。
「入城手続きはこちらです。アリシア様、エリナ様。――そして神谷様も」
「ありがとう。レン、こっちよ」
王女姉妹に導かれ、正門を抜けた瞬間――
熱と人の気配に満ちた大都市が、眼前に広がった。
石畳の通りには露店が並び、商人の掛け声が飛び交う。
旅人、兵士、貴族、冒険者、様々な人種が行き交い、その中には獣人やエルフ、さらには魔族の姿も混じっていた。
「種族が混ざってる……共存してるのか」
「ええ。ライン王国は中立国家ですから。帝国と違い、すべての種族に門を開いています」
エリナが穏やかな口調で説明する。
ユノが、興味深そうに空を漂いながらつぶやく。
「この都市、魔力の流れが安定してる……大規模な転移陣がどこかにあるかも」
「ほう。よく分かるな」
「ふふーん、伊達に時間と空間の精霊やってないもん」
精霊ユノの能力は未だ底が知れないが、彼女の存在は確実に僕の力となっていた。
***
宿へ案内された後、僕は一人の時間を取り、部屋で深く息をついた。
「鑑定スキル――ステータス確認」
⸻
【名前】神谷レン
【種族】妖炎狐(ランクE)
【レベル】40
【職業】なし(魔物)
【スキル】
・変化魔法Lv2(人化・擬態)
・幻術Lv2
・火球Lv2
・火炎牙Lv1
・韋駄天Lv2
・鑑定Lv2
・空中戦Lv2
・言語理解(加護)
【称号】転生者/加護持ち(女神アルメリア・女神カグヤ)
【契約精霊】ユノ(属性:時間・空間)
⸻
「ふむ……スキルは少しずつ育ってるな。レベルも40。次の進化条件は満たしてるけど……」
僕は“今はまだ進化しない”という選択をしていた。
街中での不用意な進化は、危険が大きすぎる。
「進化は……王都の生活に慣れてから、かな」
「お、ちゃんと冷静な判断できるんだね。えらいえらい」
ユノがにこにこと頭を撫でてくる。
その姿はまるで妹のようで、でもどこか母性的でもあって、不思議な安心感を与えてくれる。
「それにしても、王都って何があるの?」
「図書館、魔法塔、冒険者ギルド、それから大聖堂に……うーん、あと王立学園?」
「……全部、行ってみたいな」
「うん! 絶対に!」
***
その夜――
僕は再び、夢の中であの女神と出会った。
白銀の髪と琥珀色の瞳を持つ少女――
転生を司る女神、アルメリア。
「レン、王都まで来たのねー。よく頑張りましたっ♪」
「また出たな、小悪魔女神……」
「ひどーい。かわいいアルメリアちゃんに向かってぇ」
彼女は悪戯な笑みを浮かべながら、ふわふわと浮いて僕の頬をつついてくる。
「でも、警告しておくわ。王都は平和だけど、裏では……動いてるわよ」
「……何が?」
「さーて、それはレンくんの目で確かめてね。ふふふっ」
そう言って、女神は煙のように消えていった。
残された僕は、胸の中にうっすらとした不安を感じていた。
(この都市の奥には……何かがある)
***
朝。
王都レインの街並みが朝日を受けて輝いていた。
人々の活気と、どこかに潜む影。
僕は、ついに人間たちの社会に踏み出した。
「さあ、ユノ。――世界を見に行こう」
次回、第十五話「冒険者登録」