第十三話「邂逅の風」改良版
進化から数日が経過した。
僕――神谷レンは、妖炎狐へと進化し、以前とは比べ物にならない力を得ていた。
「ふぅ……今日で、森を出るのも終わりかな」
ユノの小さな身体が、僕の肩の上でふわりと揺れる。
彼女の銀色の髪とオッドアイが、朝日に照らされてきらめいた。
「レン、本当に出るの? もうちょっとだけいたって……」
「はは、それも悪くないけど、そろそろ文明に触れたいんだよね。服とかも人間のものが欲しいし」
僕は人化スキルを発動。
瞬時に美少年の姿に変化し、服も幻術で整える。完璧な擬態。人間と見分けがつかない。
「行こう、ユノ。――新しい出会いが、きっと待ってる」
***
森を抜けて、広い草原へ出る。道沿いにしばらく歩いていくと、馬車が倒れているのが見えた。
馬は既に逃げ、荷物も散乱している。周囲には、火炎に焼かれた痕跡と巨大な爪痕。
「……これは……」
鑑定スキルを使う。
『種族:ワイバーン ランク:B 属性:火 危険度:高』
「ランクBか……ちょっとキツいな」
背後から震える声が聞こえる。
「た、助けて……妹が……っ!」
金髪の少女が、岩陰から顔を出した。美しい騎士服を纏い、額には王家の紋章。
彼女を守るように、もうひとりの少女が倒れている。清楚なローブ姿の少女、双子に近い雰囲気――いや、本当の姉妹だ。
「……君たち、大丈夫?」
僕は自然に人間の少年として振る舞った。
「あなた……まさか、冒険者?」
「まあ、そんなところかな」
「お願い! 妹を……あの竜がまた来たら……!」
少女の叫びの直後、轟音と共に空から赤い影が降り立つ。
「ギギアアアアアア!!」
灼熱の吐息が大地を焼く。
「ユノ、風結界!」
「了解!」
風が渦巻き、周囲の温度を抑える。
「突進《炎脚》!」
炎と共に跳び上がる僕。身体強化と韋駄天を重ね、ワイバーンの首を狙う。
「雷撃!」
轟雷が翼を撃ち抜き、バランスを崩したワイバーンが地に叩きつけられる。
ユノの風刃が追撃し、鱗を削る。
「トドメ……っ!」
「焔牙!」
炎を纏った牙が、ワイバーンの首を貫いた。
【レベルが21になりました】
【スキル《火炎牙》を習得しました】
【スキル《空中戦》がLv2に進化しました】
少女たちが、呆然と立ち尽くす。
「つ、強すぎる……あなた、一体……」
「ただの旅人だよ。でも君たちの無事は確認できた。よかった」
そのとき、鑑定スキルで確認する。
⸻
【アリシア・フォン・ライン】
種族:人間
職業:姫将軍
レベル:36
スキル:剣技Lv4/指揮Lv3/騎乗Lv3
性格:誠実・勇敢
【エリナ・フォン・ライン】
種族:人間
職業:宮廷魔術師
レベル:31
スキル:魔導Lv3/回復魔法Lv4/精密詠唱Lv3
性格:清楚・温和・丁寧
⸻
「王女……姉妹か。これは面倒なことになりそうだ」
僕の心に軽い警戒が走る。
「……助けてくれたお礼に、王都まで案内します。それと……これを」
アリシアが金貨の入った袋を差し出す。
「報酬として受け取ってほしい。恩は忘れません」
「ありがとう」
王都ライン。人間の国の中心。
これからの展開を思えば、ちょうどいいきっかけだった。
「ところで、君……名前は?」
「神谷レン。よろしく」
ふっと風が吹き抜け、ユノの髪が揺れる。
「レン、これから面白くなりそうだね」
「……だね」
***
【回想:数日前】
僕は森の中で、もう一人の存在と出会っていた。
黒髪ロングに真紅の瞳を持つ、美しくも知的な少女――叡智の女神カグヤ。
彼女もまた、この世界の神であり、知識の管理者だった。
「ふむ、君か。転生者の一人にして、妙に適応の早い子狐……いや、妖炎狐か」
「あなたは……?」
「叡智を司る女神、カグヤ。君にひとつ、加護を与えよう」
【叡智の女神カグヤの加護を得ました】
効果:
・〘言語理解〙スキルの習得
・異世界の知識の自動獲得
カグヤはそれだけ言うと、紅い瞳でふっと笑った。
「また会おう、天才の少年」
【スキル《言語理解》を習得しました】
***
「レン、王都ってどんなところかな?」
「うーん、よく分からないけど――僕らの旅は、やっと本格的に始まるんだと思う」
ユノが嬉しそうに笑い、僕は空を見上げた。
高く、果てしなく広がる青空――
その先に、何が待つのかは、まだ知らない。
次回、第十四話「王都へ」