第十一話「星のように輝く」
あれから一週間が経った。
僕――神谷レンは、変わらず森の中で生き延び、戦い、そして少しずつだが確実に強くなっていた。
「ふぅ……ようやく、レベル17か」
ステータスウィンドウを開くと、自分の成長がはっきりと数字として表れているのがわかる。あのダークウルフとの死闘を境に、僕の中で何かが変わったのは確かだった。
───
【名前】神谷レン
【種族】妖狐〈ランクF〉
【状態】健康
【レベル】17
【生命】540
【魔力】880
【力】180
【敏捷】250
【魅力】820
【固有スキル】
〘韋駄天(3分間敏捷を5倍)〙
〘人化〙
【スキル】
〘鑑定Lv2〙〘噛み付きLv2〙〘突進Lv2〙〘魔力操作Lv2〙〘魔法耐性Lv2〙
〘身体強化Lv2〙〘身体操作Lv2〙〘武器術Lv2〙〘幻覚無効〙
【固有魔法】
〘変化魔法Lv2(人化・擬態・物体変化)〙
【魔法】
雷魔法Lv2、闇魔法Lv2、火魔法Lv2、風魔法Lv2、水魔法Lv2、土魔法Lv2
【加護】
〘転生神の加護〙
《潜在能力を極限まで引き出す》
【称号】
〘転生者〙〘魔王の卵〙〘勇者の卵〙
───
一週間、孤独に見えるこの生活の中でも、僕には共にいる存在がいた。
「レン、今日はこの辺りの魔物、ちょっと動きが違うみたいだよ」
声をかけてくるのは、僕の契約精霊――ユノだ。
今は小さな少女の姿になって、僕の肩にちょこんと乗っている。相変わらず銀髪に左右の色が違うオッドアイ、ふわふわとした雰囲気で、だけどどこか神秘的な存在感がある。
ユノは、自らの魔力を調整して身体の大きさを変えることができる。今の姿は”省エネモード”らしく、戦闘時には大人の姿へと変化することも可能だ。
「魔物の動き……?」
「うん。北の方から、なんか大きな存在感が近づいてる。たぶん、この森の主、かな」
「……森の、主」
その響きに、僕は思わず息をのんだ。
これまで戦ってきた魔物とは一線を画す存在。それを感じさせる雰囲気だった。ユノがわざわざ警告してくるほどなのだ。相手は、並みの魔物ではない。
僕は風のように枝を駆け、静かに接近する。
やがて木々の間から、その”主”の姿が見えた。
「……あれが……!」
体長5メートルはあろうかという巨体。全身を覆う黒鉄のような毛並み。角の生えた獣のような顔に、鋭い四つの目。腰にはまるで騎士のような銀色の鎧。背には、巨大な星の槍を背負っている。
《鑑定》
───
【名前】森の主「トレイン」
【種族】星牙獣
【ランク】C
【状態】警戒中
【レベル】???
【スキル】???
【魔法】???
【加護】不明
【称号】森の守護者
───
「……ランクC、か。ついに、村を壊せるレベルの魔物と出会っちゃったな」
僕は笑った。
恐怖がなかったわけじゃない。でも、それ以上に――わくわくしていた。
「ユノ、手を貸して」
「もちろん。準備はできてるよ」
ユノが肩から宙に浮かび、指を鳴らすと同時に僕の全身に風の加護が宿る。
「風牙裂爪――!」
鋭い爪が空気を引き裂き、トレインの巨体へと迫る。しかし、奴はその場から一歩も動かず、頭をほんのわずか傾けるだけで避けた。
「速い……!」
「レン、気をつけて。あれ、ただの力馬鹿じゃない。かなり知性があるよ」
その瞬間、トレインが動いた。
「うわっ……!」
僕はすかさず跳躍。着地と同時に魔力を収束し、雷魔法を発動する。
「サンダーバレット!」
電撃の弾が五発、連射される。しかし、その一発一発を、奴は前脚の爪ではじき落とした。
(まるで、武人……!)
「もう少し……! もう少しで届くはずなんだ!」
僕は自らの全スキルを総動員し、魔力を全開にして突撃する。
そして、トレインの槍が大地を穿とうとしたその時――
「時短フィールド、展開!」
ユノの声とともに、僕の時間が加速した。
(今だ!)
一閃。
風牙裂爪が、トレインの首筋を裂いた。
轟音のような咆哮とともに、星牙獣は膝をついた。
「……ふぅ。なんとか、勝った……!」
傷だらけの身体を地面に投げ出す。視界が滲む。体中が痛む。
だけど――
空を見上げると、夜空に浮かぶ星が、どこか誇らしげに輝いていた。
「レン、お疲れ様」
ユノが僕のそばに降り立ち、微笑んで言った。
「君は、もうただの妖狐じゃない。ちゃんと、輝いてるよ。星のように」
「……はは。ありがと、ユノ」
僕は微笑みながら、そっと目を閉じた。
星のように、少しだけ。眠るように。
次回 第十二話「進化の光」