第十話「精霊との初陣」
契約の儀が終わったあと、僕とユノは、焚き火の前で肩を寄せ合って座っていた。
ルミナスもその隣で、ふわっとした笑みを浮かべている。
「ふふ、よかったじゃないか、レンくん。無事に契約できてさ。しかも時間と空間属性の精霊なんて、僕もテンション上がっちゃった」
「ほんとに……ありがとう、ルミナス。君がいなかったら、僕たち、きっと出会えなかったと思う」
「まあね。でも、僕はそろそろ戻らないと。転生神のアルメリアに、こっそり地上に降りたのバレたら――」
そのとき。
空間が突然バチン、と音を立てて裂けた。
次の瞬間、銀髪に琥珀の瞳を持つ絶世の美少女――女神アルメリアが、そこに立っていた。
「――ルミナス? また勝手に地上に降りたわね?」
「や、やあアルメリア! そんなに怒らなくても、ちゃんと見守ってただけだよ? ね? 僕えらい!」
「えらくないわよ! “魔法神”としての自覚を持ちなさい。レンくんは私が転生させた子なの。勝手に関わっちゃダメでしょ?」
「ちょ、ちょっとだけだよ? 観察! 観察だって! それに彼、面白い進化するし……精霊と契約とか、将来有望だし!」
「そういう問題じゃないのよおおおおおおおおお!!」
天から稲妻が落ちた気がした。
――実際、少し落ちた。
僕とユノはふたりして、ルミナスが頭を下げながら空間の裂け目に吸い込まれていくのを、ただ呆然と見送るしかなかった。
「……すごい怒られてたね」
「うん……たぶん、しばらく来られないね」
ユノは、少し寂しそうに小さく頷いた。
そんな平穏な空気を破るように、森の奥から――重い足音が響いた。
(……来た)
「ユノ、戦闘準備。敵だ」
「うん、まかせて」
僕は素早く立ち上がり、『鑑定』を発動する。視界に、敵の情報が浮かび上がる。
⸻
【名称】オークナイト
【種族】魔物(上級)
【ランク】D
【レベル】18
【スキル】剛力/重撃/鉄壁の守り
【備考】戦斧を操る屈強な戦士型魔物。装甲のような皮膚で守りも固い。
⸻
(ランクD……僕より、二段階も上……!)
僕は今、ランクFの妖狐。スキルや機動力はあるけれど、力押しの相手には苦戦する。
でも――
「……行こう、ユノ!」
「うん!」
僕は飛び出し、オークナイトの真正面から飛びかかる。
相手は、重たい戦斧を振りかぶって迎撃してくる。
ギリギリで跳び退き、横へ回り込む。
「《風刃》!」
鋭い風の刃が飛び出すが、オークナイトの硬質な皮膚には通じない。
「――《時短フィールド》展開」
ユノの周囲に、時間の流れが歪む。僕の動きが加速し、世界がゆっくりと見え始める。
(すごい……! これがユノの力……!)
相手の振り下ろしをステップでかわし、すれ違いざまに尻尾でバランスを崩させる。
続けざまに《変化魔法》で姿を分身のように揺らがせて翻弄する。
「ここだ――!」
隙を突いて、喉元めがけて風刃を放つ。
ガキンッ!
皮膚の一部が裂け、血が飛ぶ。
オークナイトが怒り狂い、斧を振り回す。
それをユノの《空間転移》で紙一重でかわす。
「今だよ、レン!」
「うおおおおおおっ!」
僕は最大魔力で《風牙裂爪》を放つ。
オークナイトの心臓部――その鎧のような肉体に、風の爪が突き刺さる。
ドガアアアアッ!!
オークナイトは絶叫を上げながら、その場に崩れ落ちた。
僕は荒い息をつきながら、片膝をついた。
「……勝った……」
「ふふっ、すごい……きみ、ほんとうに、強くなってるね」
ユノの笑顔が、焚き火のようにやさしかった。
夜の森に、再び静けさが戻る。
でも、僕の中には確かな手応えがあった。
――この世界で、生きる力が、今少しずつ僕のものになっている。
次回、第十一話「星のように輝く」
【神谷レンの技・スキル補足】
《鑑定》
対象のステータス・スキル・ランクなどの情報を読み取るスキル。詳細度は使用者の魔力と鑑定レベルに依存。
《風刃》
空気を圧縮し、鋭利な刃として放つ基礎魔法。連射が可能で、軟体・無防備な部位に有効。
《変化魔法Lv2》
進化によって強化された変化系魔法。擬似的な分身、視覚撹乱、毛皮色の変化などが可能になった。
《風牙裂爪》
風属性魔力を集中させて、狐の爪のように鋭く伸ばし切り裂く中級魔法。単体への高威力魔法で、貫通力が高い。
⸻
【ユノ(精霊)の技・スキル補足】
《時短フィールド》
小規模な時間加速領域を展開する精霊魔法。対象の動作が高速化され、反応速度も上昇する。ただし、展開者への負担は大きい。
《空間転移》
短距離瞬間移動魔法。対象を安全な位置へ強制移動できるが、乱発はできない。レンとの契約により、彼を優先対象に指定可能。