第七話「美少年、森をゆく」
•前回までの内容:ダークウルフとの激戦を制した神谷レンは進化を遂げ、「妖狐」へと種族が変化。さらにスキル《変化魔法Lv2》と《人化》を習得し、美少年の姿を手に入れた。
•現在の状態:森の中で進化後の身体とスキルを試しつつ、新たな戦いに備えている。
「……やっぱり、慣れないな。この姿」
進化を果たした僕――神谷レンは、小さな銀色の狐の姿から、美少年の姿へと変化していた。
鏡の代わりに澄んだ水面を覗き込むと、そこには整った顔立ちの少年が映っていた。琥珀色の瞳に近い、金に輝く目。銀の髪は陽光に照らされてさらさらと揺れている。
「……イケメンすぎるでしょ、僕」
自分で言ってもあまり説得力はないけど、それが事実なんだから仕方ない。
この姿は《人化》スキルによって得た、僕の“もう一つの姿”。この世界で生きるために必要な力でもある。
(でも……体の使い方、まだちょっと難しいな)
人化したばかりの身体は、微妙に力のバランスが違う。試しに木の枝を登ってみたら、思いきり滑って落ちたばかりだ。俊敏さや力は確実に上がっているけど、制御が難しい。何より、二足歩行にまだ慣れない。
僕は、ステータスを確認した。
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【ステータス】
名前:神谷レン
種族:妖狐
ランク:F
状態:正常
レベル:10
生命:180
魔力:800
力:130
敏捷:90
魅力:880
スキル:
《韋駄天》《幻術》《鑑定Lv2》《噛み付きLv1》《突進Lv1》《魔力操作Lv2》《魔法耐性Lv1》《身体強化Lv2》《身体操作Lv2》《武器術Lv1》《幻覚無効》
魔法:
《変化魔法Lv2(人化・物体変化)》
《雷魔法Lv1》《火魔法Lv1》《水魔法Lv1》《風魔法Lv1》《土魔法Lv1》《闇魔法Lv1》
加護:《転生神の加護》
称号:《転生者》《魔王の卵》《勇者の卵》
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(レベル10、進化済み……。そしてこの《変化魔法Lv2》……やっぱり便利)
《物体変化》は、自分の体の一部を物質に変えることができる能力。
牙を硬化させたり、尻尾を刃のように変えることも可能。そして新たに加わった《人化》は、まさにチート級だ。
(でも油断はできない。ダークウルフ級の敵がまた現れたら……)
そう思った瞬間、森の奥から「ギギッ」という低い唸り声が聞こえた。
身構えると、影の中から這い出るように姿を見せたのは――三体の魔物。
黒い体毛に鋭い牙。赤い目が不気味に光る。
「またダークウルフか……いや、進化種か?」
すぐさま《鑑定》を発動。
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【名称】ダークウルフ・ファング
【種族】魔獣(進化種)
【ランク】E+
【レベル】13
【スキル】《鋭牙》《群れ統率》《突撃》《暗視》
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(E+……普通のダークウルフより強い!)
数は三体。普通なら逃げるべきだ。だが、僕の中には奇妙な静けさと熱があった。
「……やってみよう。僕は、もうただの小狐じゃない」
両手に魔力を集中。指先から雷が弾ける。雷魔法を構え、まず一体に向かって放つ!
「喰らえっ!」
雷の球が命中。だが、相手は倒れない。
(やっぱり強い……!)
続けて風魔法、土魔法。連続詠唱で攻撃を叩き込む。
一体、また一体と倒れていくが、最後の一体が牙を剥いて突進してきた――!
(まずい! 反応が――!)
咄嗟に《韋駄天》発動。三分間、敏捷が五倍になるスキルだ。
視界が広がり、動きがスローに見えるようになる。
「そこだっ!」
牙をかわし、跳躍しながら背後を取り、拳に魔力を集中!
「これで……終わりっ!」
拳が鳴り響き、最後の一体が崩れ落ちた。
息を切らしながら地面に座り込む。
「ふぅ……勝てた……」
進化していなかったら、間違いなくやられていた。
(でも、まだ僕は弱い……もっと、強くならなきゃ)
そう思いながら、僕は夜の森に目を向けた。
――次の戦いに備えるために。
次回、第八話「出会いの兆し」