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断固拒否するカラスたち と 篝の策1


「どうして、あの二人だけ連れて行くのか、ぜひとも説明して貰いたいものだ!さあ、理由は何だい、三羽みつば!」


 男雛おびな先生が、眉をひそめて声を荒げたのは、児童を引き連れて校庭に向かう前、教室で子供たちが騒いでいた頃だった。


「三宝と世眠が、別格だからです」


 真面目腐った顔をして、三羽は答えた。

 他に職員室にいるのは、五香松先生と教頭先生、校長先生の三人だけだった。

 五香松先生は、今日も黒スーツ姿で、自分の席に行儀よく座っていた。

 一方、校長先生と教頭先生は、うつろな目をして、壁際にもたれ掛るようにして立っていた。

 今日は、無地の紺色に、エメラルド色の帯を合わせて、綺麗な二重太鼓に結んである。

 髪を固く引っ詰めて、教頭先生とは何から何まで正反対だった。 

 教頭先生も無地の和服だが、一重太鼓で、今日は、赤色に銀の帯。模様が青いバラと虹である。

 ヘアスタイルは若々しく、後ろで緩めの三つ編みにして、結び目を上げている。

 他の先生たちは、自分の教室に行っていなかった。


「男雛先生だって分かってるじゃないですか。とにかく、あの二人は、連れて行きますよ。投影術で二人を用意すれば、本物を連れて行けますから」


「勝手なことを!第一、君は、どうするんだい?まさか、君も投影術で?」


「まさか!僕はちゃんと、僕自身が図書館に行きますよ」


「だったら、誰が、二人を」


 そこまで言って、男雛先生が、ぎょっとした。


九羽くわ十羽とわ!君たちが、どうしているんだ!」


 職員室の入り口で、二人は黙って立っていた。


「僕が呼んだんですよ。じゃあ、二人は貰って行きますね」


三羽が、ぺこりと頭を下げたので、男雛先生は慌てて引き留めようとした。

そこへ制止の声が掛かった。


「お待ちなさい!話は既についています」


教頭先生の甲高い声を聞いて、男雛先生は、又してもぎょっとした。


「どういう意味ですか?」


 説明を求めた男雛先生を見据えて、校長先生が口を開いた。


「三羽たちは、この浮雲に、お盆の森のカラスたちを呼びたいそうです。けれど、カラスたちが、断固拒否しているそうです。それで、カラスたちのお気に入り、三宝と世眠に説得を試みて欲しいとの事で、いいですね?」


 最後の方は、校長先生は、三羽に向き直って鋭い目で尋ねた。


「ええ。そうですよ、さい校長。二人は、六歳の時に家出して以来、度々こっそり遊びに行ってますからね。本当に運が良かったですよ。【雲影うんえい滄瀛そうえい螺旋運らせんうん】から落下して着いた先が、お盆の森でしたから。初めて二人を引き取りに行った九羽と十羽は、今ではお盆の森の護衛隊員みたいなものですしね」


 すっかり事情が呑み込めた男雛先生は、肩を落として頷いた。


「まさか、卒業後も、君たちに振り回される事になるなんて思いもしなかった。九羽と十羽が一緒なら、命の保証はあるだろう。三宝と世眠を頼んだよ」


 その時、廊下から賑やかな声が聞こえた。


「あー!くわにいと、とわにいだー!どうしているのー?」


 飛ばずにドタバタ走って来た二人は、にこにこして、浮雲の最強兄弟に話し掛けた。


「俺たち、これから図書館に行って、虹色のバスに乗せて貰うんだ!」


「今日は、三羽さんが、マジック・アイスクリンを作ってくれるの!」


 事務員の五覇四重ごはしじゅうに連れられて来た二人は、元気いっぱい嬉しそうに話した。


 しかし、三羽から事情を聞かされると、たちまち、しゅんとなって俯いた。


 そして、片方は、「虹色のバスが」と呟き、もう片方は、「マジック・アイスクリンが」と呟いた。


 落ち込む二人に、十羽が声を掛けた。


「仕方ないよ、三宝、世眠。君たち二人は、僕らと同じ別格なんだから。天才なんて、皆そんなもんだよ。利用されるんだ。さあ、行こう!」


 三羽が、赤い包みを手渡して、にっこりした。


「「牡丹餅も忘れずにね。それから、赤目守りによろしくね」


 森の入り口で、世眠が赤い包みを両手で差し出すと、赤目守りは嬉しそうに受け取った。

 けれど、九羽と十羽には、苦い顔をしてみせた。


「あんた達が、三羽の言う事を聞くなんて、珍しいね。カラスたちは、梃子でも動かない気だよ。この間、出城でじろがおかで酷い目にあったからね。うっかり砂花すなばなに落っこちて、かがりのバカに丸焼きにされる所だったんだから。もう二度と、浮雲には行かないって言ってるよ」


これを聞いて、三宝と世眠は目を丸くした。


「えっ!そんな事があったの!?」


「いつ九十九番地に来てたんだ?」


 この質問に答えは貰えなかった。


「さあ、もうお帰り。カラスたちは、今度ばかりは、誰に何を言われても、どれだけ頼まれたって行かないよ。あんた達の、ショーとやらには付き合いきれないって言ってる、そう三羽に伝えておくれ」


赤目守りが、言い終えた時、世眠と三宝がいなかった。


「あの子たち、森へ入ったのかい?」


「そー、みたいだね」


 冷静に答えた九羽に、赤目守りは、食って掛かった。


「あんた達が、連れて来たんだから!面倒は、ちゃんと見ておくれ!あたしは、忙しいんだよ!森に迷い込んだ、生きた子犬を探してるんだからね!」


「僕たち、手伝おうか?」


十羽が親切に申し出たが、赤目守りは、目を吊り上げて即答した。


「結構だ!さっさと探して、とっとと帰っておくれ!」


森に引き返した赤目守りを見て、十羽が腹黒い微笑を浮かべた。

九羽は、腕を組んで呟いた。


「あいつら、うまくやれると思うか?」


「やれるんじゃない?それより、僕たち、暇だね。どうする?」


十羽が隣を窺うと、九羽が、背中から死神の赤い鎌を引っこ抜いた。


「えっ!殺すの!?」


珍しく十羽が驚いた。

牡丹餅を持たない侵入者には、端から気付いていた。

しかし、殺気もなく邪魔にならないと踏んで、正直面倒くさかったので、見なかったフリをしたのだ。

だが、九羽は、基本どんな時も甘くない、否、手抜きをしない。

というわけで、一瞬で飛んで行ったが、何やら言い合いになった。


「何で、来た!」


「そんなの僕の自由でしょ?」


「君のせいで、僕らは、ここにいる!子守もりがセットさ。何で、丸焼きにしようなんて考えたんだ!君は、アホだよ、かがり!」


 最も聞きたくなかった名前を耳にして、十羽は、げっそりした。

 又もや問題勃発だ。


「二人とも、ちょっと静かにしてくれない?」


 十羽が近付くと、九羽と篝は、同時に振り向いた。


「これが黙っていられる?」


 九羽の言い分は最もだった。

 最強兄弟が、謀反人を叩き潰すか否か迷っていると、篝が、もったいぶったように切り出した。


「カラスたちを連れて行く良い案があるんだけど、どうかな、今回だけ手を組まない?」


 この突拍子もない提案に、九羽と十羽は、目を見張って首を傾げた。


 「手を組む?」


 「良い案って何?」


  二人が食い付いた事に満足して、篝は、にんまりした。


 「お盆の森の妖怪ルールを利用するんだよ。四季当てゲームで、カラスたちに勝つ!どうかな?敗者は、勝者の言う事を一つだけ聞くルールだから、君たちが勝って、カラスに命じればいい。にいさんには悪いけど、僕は、ジェラルディンの味方なんだ。だから、君たちに手を貸したい」


  初め、九羽と十羽は訝しんだが、ジェラルディンの味方と聞いて納得した。


「分かった、僕、世眠と三宝を見つけて来るよ。四季当てゲームなら、あの二人の方が得意だから」


 十羽は背を向け森に入ろうとしたが、入口で子犬を抱えた赤目守りが仁王立ちしていた。


「凄いね。もう見つけたの?」


 十羽は、なるだけ逆撫でしないように、そっと通り過ぎようとしたが、赤目守りは優しくなかった。


「それで?あんたの牡丹餅は?」


 聞かれて言葉に詰まったが、十羽は、強行突破した。

 

「十羽、待ちなさい!!」


「事情があるんだ」


 九羽は、赤目守りを引き留めて懇願した。


「見逃してくれないかな?牡丹餅を持たない者は、大樹の影に襲われる。でも、妖怪に手を出すのは御法度だから、破ったら罰せられるのは、大樹たちだ。その罰は、襲われた妖怪が決められる。僕らは、カラスたちに四季当てゲームを挑みたい。手を貸して欲しいんだ」


 お盆の森は、樹々や草花が、その日の気分で、好きな季節を欲しがって、土が、願いを叶える。

 土が季節の風を呼ぶと、樹々や草花が欲しがったバラバラな季節がやって来て、春、夏、秋、冬、あちこちに自由な四季が訪れる。

 四季当てゲームは、土が願う季節を当てるゲームだ。

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