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ペルシャ猫リーネの出張先2;浮雲九十九番地 / 依頼主;保持妖怪・炎の宮 三羽 

 

 その日、朝早くから、四年三組の教室は、児童の賑やかな声で溢れ、活気に満ちていた。

 何しろ、もう一度、あの虹色のバスが見られるというのだから、全員興奮しきっていた。

 男雛先生は、児童を引き連れて校庭に集合し、それから朝の点呼を取ったが、二名足りなかった。


「あれっ?休みの連絡はなかったけどなあ」


 眉を寄せて首を傾げると、教頭先生が衝撃的な事実を告げた。


「あの子たちなら、昨日、学校を辞めましたよ」


「えええっ!?」


 先生だけでなく、子供たちも目を丸くした。


「保護者から苦情がきましてね」


 教頭先生は、淡々と喋った。


「あんな実演授業をさせる学校には、もう通わせられない。本来、保持妖怪の子供は、家庭教師をつけるのが習わし。鬼を切ったりする危険な真似をさせる学校には行かせたくない、だそうです」


 それを聞いて、男雛先生は、顔をしかめた。


「僕には、事前の知らせもなしですか?」


「今、知らせたでしょう?さあ、図書館へバスを迎えに行きますよ」


 男雛先生は何も言わなかった。

 騒がしかった子供たちも静まり返って、図書館へ続く林道を、ただ黙々と歩いた。

 皆、考えていることは同じだった。昨日の実演授業を思い出していた。


 無敵怪盗ジェラルディンを、【賭け妖怪の大博打】から救う為に、四羽は四年三組を利用しに来たのだ。

 呼んだのは校長先生だから文句は言えないが、思いも寄らない事態となった。

 四羽は、浮雲小学校に来て早々、校庭に皆を呼び寄せて説明した。


「下界の大御所チハが、賭け妖怪に手を貸して生み出した拒否権がない博打なんだ。最低最悪な賭けだよ。知らぬ間に賭けられ、戦わされる。敗者を待つのは死のみ。運命の生命線を操って、黄泉の国と繋ぎ合わせた恐ろしい賭け事なんだ。今回、ジェラルディンが賭けられた。ジェラルディンが負けるに賭けた妖怪、妖術師、奉公屋の数は、十万人だ」


 初め、子供たちだけでなく、校長・教頭を除く先生たちも全員、四羽が何を言いたいのか、さっぱり分からなかった。


「賭け妖怪に関する記憶を消すのを、子供たちに手伝って欲しいんだ。賭ける者がいない博打に意味はない。【賭けそのもの】の記憶を消したいんだ。【賭け妖怪の存在】を、十万人の脳内から抹消したい。手伝ってくれるね?」


 それからが、大忙しだった。

 四羽は、自分の宝刀で切ったものを、人でも物でも、四つ葉のクローバーに変える事が出来る。

 そのクローバーに願えば、四つだけ望みが叶う。


「僕の能力を、子供たちに与える為に、マジック・アイスクリンを作ろうと思う」


 四つ葉のクローバーと、浮雲で作った氷の粒を使い、《真珠の言葉》に記された御菓子の呪文を唱えれば、マジック・アイスクリンの完成だ。


「子供たちに実物は、早いからね。先生たちが捕獲してくれた鬼たちは、化け狐の一族、天代てんよの小菊さんに急ぎ頼んで、一旦カードに封じ込めて貰った」


 鬼集めの理由を知って、先生たちは一応納得したが、困った顔で実演授業を見守った。


「ややこしい事にならないといいですけど」


 五香松先生の独り言に、他の先生たちも無言で頷いた。

 先生たちの不安な気持ちなどお構いなしに、四羽は、カード内の鬼を次々切り捨て、四つ葉のクローバーに変えていった。

 そして、マジック・アイスクリンの材料に使ったのだ。

 アイスを、アイスクリームスコーンに盛るのは、五香松先生が手伝った。

 見た目は、普通の抹茶アイスだが、子供たちは、生まれて初めて、記憶ではない御菓子を食べた。


「うわあ、今、頭がキーンってした!」


「持ってたら、指まで冷たくなる!」


「舌の上で溶けたー!舌が冷たーい!」


「このコーン、固いよ!歯にあたったー!」


 アイスをなめて、コーンをかじって、子供たちは目を輝かせ、わいわい騒ぎながら食べ終えた。

 四羽と同じ能力を一時的に得た児童たちに、四羽は短刀を持たせた。

 校長先生に頼んで用意して貰ったもので、柄は非常にシンプルで全員紫色だった。

 四羽は、刀の持ち方から教えるつもりだった。

 カードも宙に浮かしてやるつもりだった。しかし、その必要は全くなかった。

 子供たちは、手渡されたカードを、あっという間に宙に浮かせた。

 それも、自分の背よりも高くに。


「串刺し切りーー!」


 世眠は、勝手に技の名を付けて、空中で、十枚のカードを串刺しにすると、手首をクイっと捻った。

 その瞬間、パーンっと音がして、全てのカードが真っ二つに割れたのだ。

 そして、ひらひらと四つ葉のクローバーが舞い落ちた。


「どうだ?すげーだろ?」


 世眠が、自慢げにペチャ鼻を指でこすると、背の高い美男子が進み出た。


「わいは、もっと凄いで」


 西助にしのすけは、カードを二十枚宙に上げて自分も飛翔すると、軽やかにカードを短刀で切り裂いた。


「空中乱れ切りー!」


 そして、四つ葉のクローバーが、花吹雪のように宙に舞った。


「あら、私なんて、もっともっと凄いわよ!」 


 三宝は、面前で浮かせたカードを三十枚、間隔を空けて縦に揃えると刀を構えた。


「私は、真一文字切りよ!」


 それは一瞬で、誰にも見えなかった。いや、世眠と四羽は、しっかり見た。

 他の子供は、三宝の右手に重なる四つ葉のクローバー、結果だけを見た。 

 四羽は、我が目を疑った。


(これが、今年の四年生か。先生たちが言っていたのは、誇張じゃなかったな) 


 子供たちは大喜びして、鬼カード切りを心底楽しんだ。

 三組一同、心を一つにして、『ジェラルディンが負ける方に賭けた妖怪、妖術師、奉公屋の、賭け妖怪に関する記憶が消えますように』と心から願い続けた。

 切っては願い、切っては願いの繰り返しだったが、皆、元気いっぱいにやり遂げた。 

 四つ葉のクローバーが、広い校庭に、雪のように降り積もった。

 一枚のクローバーで、願いが四つも叶うのだから、投影術とうえいじゅつ(分身術に近い術で六年生で学ぶ。本人と全く同じ動きをする影を生み出す術)を既に習得していた子供たちは、あっという間に十万人の記憶消去を達成した。

 投影術の凄い所は、本人が持っている物(今回は刀)を、その影も同じように持って登場するという点だ。


 そして、影は、本人と同じ力を持っている。それを、各自が十人生み出せたのだ。

 これは驚異的なレベルだった。

 故に、それに憤る保護者が出ても、なんらおかしなことはない。 

 いくらカードといっても、切っているのは生きた鬼だ。

 子供たちが、カードを切る度に、鬼の断末魔が途絶えることなく響き渡った。

 しかし、さすがは妖怪の子供たち。顔色一つ変えずに切り捨てた。

 生前人間だった覚子かくこだけは青ざめていたが、刀を持つ手が震える事も、 

 気絶する事もなかった。さすが、奉公屋と浄土仲介者の娘といったところか。

 それが、昨日の話である。


 図書館へ続く林道を、十三人の子供たちは、肩を落として歩いた。

 もう二度と、学校で二人を見る事はできない。

 一緒に遊ぶことも、もうないだろう。

 きっと、親たちが、遊ばせるのを嫌がる筈だから。 

  皆、寂しさは同じだった。足取り重く、これが、図書館へ着くのが遅れた理由だ。

 しかし、陰鬱な表情と重苦しい雰囲気は、本物のシュークリームの出現で吹き飛ぶことになる。



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