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第8話 泥棒妖術師 vs. 無敵怪盗  ー盗まれちゃ困るんだ、お嬢さんー


「すごい大雨」


“Magical Sky Tower”の天辺で、無敵怪盗は愚痴をこぼした。


「雨の日は嫌い。仕事が、やりにくいから」


「まあまあ、そんなに俯かないで、ジェラルディン。前向きに考えましょう。こんな嵐の晩は、人に見つかる心配がない。気が楽よ?それに、私たちは、一度死んだ身。雨に濡れぬ事もない」


  眉間に皺を寄せるあるじを、シルバー文鳥がなだめた。

外は土砂降りで、景色も見えない。

  荒々しい雨粒が、タワーの上で狂ったように踊っている。

  耳障りな強風は、まるで遠吠えだ。狼族が束になった時の唸り声に近い。

  そして、滝のような激しい雨音と共に、ジェラルディンに体当たりを食らわせた。


 「嵐は味方じゃない。こんな晩に舞踏会なんて、貴族連中は、イカれてる。おかげで、このざま」


  憎々しげに、赤いレインコートを、ばさりと脱いだ。


 「まあ!せっかく五香松先生から頂いたのに!一晩中着るチャンスなのに!」


  セーシュが、不服そうな声で咎めるように言った。


「卒業時に貰ったのを、ずっと忘れていたでしょう?『これを着たら、気分だけでも雨を感じられるわ』先生が、そう言って贈って下さったのに!引き出しに仕舞ったままにしておくだなんて!さあ、もう一度、着て!ほら、早く!」


  ジェラルディンは、膨れっ面でレインコートを羽織った。

  着た姿は、赤ずきんそのものだ。 


「まあ!かわいい!あなたは、昔から、赤とピンクが良く似合う」


  セーシュは満足げに微笑んだが、すぐに肩をすくめた。


「帰り際の悪役令嬢を取っ捕まえるには、絶好のスポットだったのに、残念ね。ここなら、見落とす心配もない。だけど、今夜は視界が悪すぎる」


  雷が落ちる轟音でタワーが揺れると、セーシュが声を上げて提案した。


 「思っていたより激しいわね。早い所、切り上げないと。ねえ、ジェラルディン。私に良い考えがあるの」


  その時、若い男の声がした。


 「お困りのようですね、お嬢さん」


   一人と一羽は、驚きのあまり声を失った。

   男が一人、空中に浮いているのだ。

   赤縁の丸眼鏡をしているので、はっきりとは分からないが、見た目で判断するなら二十代前半だ。

容貌は、極めて美しい。眼鏡を取らずとも、美顔なのは明白だ。

  背丈が、百八十を優に超え、細身でも腕は逞しい。

  そして、はためくマントは、濃い緑色だった


  (まさか、このマントの色は!)


  ジェラルディンの予想は、ぴたりと当たった。


  「妖術師ですよ、お嬢さん」


  冷や汗をかくのは、何年ぶりだろう。ジェラルディンは、唇を震わせた。

妖術師の妖力の差は、個々で違う。

  そして、この男は、圧倒的に強い。それが分かった。

 戦えば互角、いや、ジェラルディンより上かもしれない。


  「そんなに張り詰めた怖い顔をしないで下さい、お嬢さん」


  緊迫した空気は、穏やかな微笑みと優しい声音で壊された。


 「可愛い顔が台無しだ。僕は、泥棒妖術師です。巷では、お天気泥棒と呼ばれています。チャーミングな呼び名でしょう?僕はね、どんな天気も盗めるんです。だからね、あなたの役に立ちますよ。この嵐が邪魔でしょう?私が盗んで帰りますよ。そう、お嬢さんごとね」


  ジェラルディンが、はっとした時、セーシュは弾き飛ばされていた。


  「セーシュ!!」


  右手を伸ばして浮いた時、すさまじい雨風がジェラルディンを襲った。

  ジェラルディンを一瞬で呑み込んだ大雨と強風は、ぎゅるぎゅると回り続けた。


  「逃げられたら困るんですよ、お嬢さん。僕は、シルスの遣いじゃない。このストロベリーシティの、警官たちに依頼されたんですよ。悪役令嬢を盗まれちゃ困るんだ、お嬢さん」 


   泥棒妖術師が白い歯を見せ、不敵に笑った。


 「警察本部は、大喜びするだろうなあ。念願が果たされたんだ。マントを洗濯しといてよかった。洗濯に失敗して十センチ縮んだけど。まあ、もとが長いから問題ないか」


 下が、デニムで、上が黒い半袖シャツなのは致し方ない。

 何せ、泥棒学会からの急な呼び出しで慌てたのだ。

 髪もツバメの巣のまま飛び出した。

 濃緑こみどりのマントを羽織るのが精一杯だった。

 しかし、任務は呆気なく終わった。


 「無敵怪盗とは言え、所詮は子供だな。女子高生と何ら変わらない。大したことなかったな。あはははっ」


  泥棒妖術師の表の顔は、養護の先生だ。


 「さあ、連れて帰ろう。僕は、英雄かな」


  泥棒妖術師が、ほくそ笑んだ、まさにその時だった。

  突然、パアーンッと大きな音が辺りに響き渡った。


 「はっ!?」


  いったい何が起きたのか理解が及ばず、泥棒妖術師は呆気にとられた。

  突如消えた暴風雨。そして、現れたのは、大水を身に纏まとったジェラルディンだった。


 「誰が喜ぶって?」


 シルバーピンクの瞳が、怒りに燃えていた。


「なっ、どうして!?」


 泥棒妖術師は目を丸くして、ぽかんと口を開けた。


「私に盗めないものはない。だから、雲の記憶を盗んだ」


「何だって!?」


 泥棒妖術師は、仰天して間抜けな顔をさらした。

 男前が、無様に崩れるほどの驚きを隠せなかった。


「何事にも、どんなものにも始まりはある。種から芽が出るように。雲の始まりは、水と氷の粒。水蒸気の始まりも同じく水。あなたが、この辺一帯を巻き込んで、全ての大風と大雨を同時に、とんでもないスピードで回転させてくれたから、雨雲が生まれた。その雨雲を水に戻す為、雲になった記憶を盗んだ。そう、この水は、生まれたての水」


  まとわりついていた水が、全長三メートルの七頭の龍に変わった。

  そして、ジェラルディンの両手の掌に移動して、その獰猛な顔つきと、ぎらついた赤い目で、泥棒妖術師を睨み付けた。


 「ひいいいっ」


  泥棒妖術師は、目を白黒させて震え上がった。


 「保持妖怪が最も得意とする妖術は、水術すいじゅつ。なぜだか分かる?居住地が、浮雲だから。いつでもどこでも、記憶を盗める。水には事欠かない」


  未だ茫然としている泥棒妖術師に、ジェラルディンは微笑み掛けた。


「所詮は子供?大したことない?」


 シルバーピンクの瞳が怪しく光ると、セーシュが舞い戻って肩に止まった。


「さあ、私のターンよ、泥棒妖術師さん」 


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