表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/19

第1話 999羽の折り鶴と、バラの花びら


 満月の夜十二時きっかりに、無敵怪盗ジェラルディンは、ストロベリーシティの星空に出没する。

 大胆不敵で予測不能。夜風も星も、闇さえ味方につける絶対無敵の怪盗だ。

 盗めないものは何もない。

 瞳の色は、シルバーピンク、腰まで伸びる波打つ髪は、赤みを帯びた銀色で、羽根もないのに、自由自在に空を舞い、易々と満月を盗んで行く。


 今夜も夜風が味方して、ジェラルディンに都合よく突風が吹きすさぶ。

 毎度の事だが、警官たちは、目を瞑って体を丸め嵐のような突風をやり過ごす。

 そうして目を開けた時、星空を見上げると、無敵怪盗は消えている。

 警官たちは、隣同士顔を見合わせて「またか」と溜息を吐くのだ。

 しかし、今夜の彼らは、一味違った。


 ジェラルディンが、満月の真上に舞い降りた時、黄金の折り鶴が999羽、星空に舞い上がった。 


 「!!折り鶴!?」


 ジェラルディンは、目を見張った。


 「見て!出処は、“Magical Sky Tower”《マジカル スカイタワー》よ」 


 ジェラルディンの右肩に乗っているシルバー文鳥が、羽を広げて指差した。

 青みがかった美しい羽は、月光に照らされて、キラキラ輝いていた。

 折り鶴を飛ばしたのは、999人の警官だった。

 満月には遠く及ばないが、虹の魔女が創造したマジカル スカイタワーは、ミンフィユ王国で一番高い。 

  警官たちは、タワーの屋上から一斉に飛ばしたのだ。

 文鳥は、満月まで届いた黄金の折り鶴を一羽、くちばしで挟んであるじに渡した。


「ありがとう、セーシュ」


 ジェラルディンは、受け取って顔をしかめた。


「この折り紙、虹の魔女さまの魔法がかかってる。変だと思った、月まで届くなんて」


「ねえ、ひらいてみたら?何の理由も無しに飛ばすほど、あの子たちもバカじゃないわよ」


 セーシュが、999人の警官をさげすんだ目で見下ろして言った。


「そうね、喧嘩を売られたのかもしれないし。場合によっては、買わなきゃ」


 丁寧に折られた折り鶴の内側は、嘆願書になっていた。


「何これ?」


 ジェラルディンが、呆れ顔で肩をすくめると、セーシュが、くすくす笑って読み上げた。


 『 無敵怪盗ジェラルディンさま


  私ども警察本部では、あなた様を捕まえようという気概のある警官は、もう一人もおりません。 

  ストロベリーシティに昇る満月は、いい加減、諦めて下さい。

  どうか余所の町へ引っ越して下さい。       

  心よりお願い申し上げます。


                          警察本部一同より


  追記 しぶとく諦めない警官は一人だけいますが、数に入れない事とします。 』


 「全くもう!なんて子供じみたことを!警察なんて所詮こんなものよ」


  読み終えたセーシュは面白がったが、ジェラルディンは、肩透かしを食らった気分だった。


 「くだらない」


  ジェラルディンが、吐き捨てるように言うと、セーシュも同意して頷いた。


 「本当にそう。警察本部は、いよいよ本気で匙を投げたわね。ほとほと嫌気が差したのよ。随分と雑な御手紙。だけど、折り方は、御上手!あら?ねえ、待って。一人だけいるんですって。あなたを捕まえたい無能な警官が。多分、ジェイナンね。あの子、絶対、あなたを追って来るわよ。あなたを捕まえるのは、自分の使命とでも思ってるのよ。勘違い坊や。警官になる前は、名探偵だったと豪語してたわね。あなたを捕まえられない癖に、未だに探偵を気取るだなんて、阿保らしい。所詮は、滑稽な警官の一人に過ぎないのに、馬鹿みたい」 

 

 セーシュは、愉快そうに喋ったが、いつになく辛辣だ。


「ねえ、どうするの。お客様を、お待たせしては申し訳ないわ。ストロベリーシティの満月は、名物で大人気なのに!今夜も『転生てんせい食堂』は賑わうわよ」


 セーシュが伺うと、ジェラルディンは、物憂げに答えた。


「そうね。でも、虹の魔女さまが手を貸した。だから、手を引く。ストロベリーシティの星空は、今夜が見納めよ」


 ため息をつくと、ジェラルディンは、折り紙を両手で引き裂いた。

 ビリリッという不快な音が周囲に響くと、綺麗な銀髪が夜風で揺れた。


「次の星空を探さなくちゃ」


 破いた折り鶴を放った時、ゴオオオッと突風が吹いて、ジェラルディンは目を閉じた。

 こんな事は、初めてだった。そして目を開けた瞬間、ジェラルディンは仰天した。


「なっ、何!?」


 ジェラルディンは、予想外の出来事に驚きを隠せなかった。赤いバラの花びらが、自分を取り囲んでいたのだ。

 セーシュが、くすりと笑って羽を広げた。


「ねえ、あれを見て」


「え?」 


 羽の先を見て、ジェラルディンは、むっとした。 


「ジェイナン!!」


 背の高い警官が、右手に赤いバラを1本持ち、立っていたのだ。

 折り鶴を飛ばした警官たちからは、百メートルほど離れている。 


「相変わらず、顔だけは良いわね。でも、警察向きの顔じゃないわ。モデル向きよ」


 セーシュは、毎回、褒めてから貶す。

 瞳の色は、青みがかるグレーだが、月光の下では、ゴールドブルーにも見える。 

 形の良い鼻は高く、おまけに小顔でベビーフェイスだ。

 婦人警官に人気があった。

 

 「おいっ!何を勝手な事をしているっ!!」


 怒り狂った中年の警部が、拳を振り回して近付く前に、ジェイナンは宙に浮いた。

 999人の警官たちは目を見張り、ぽかーんと口を開けたまま棒立ちになった。


 「坂下警部、今回は大目に見て下さい」


  赤いバラを警部の頭上に落とすと、ジェイナンは、月まで飛んで行った。


 「警部!!赤いバラが、先日盗まれたダイヤモンドに!!」


  若い警官が、目を丸くして指差すと、警部も慌ててダイヤモンドを凝視した。

  窃盗事件は、とっくに解決されていたのだ。


 「あいつめ、わざと報告を怠ったな」


  苦々しげに呟く警部を、若い警官が、気の毒そうに見遣った。


 「泥棒妖術師どろぼうようじゅつしから奪い返していたんですね。このタイミングで出すとは、ずる賢い奴ですよ」


  呆気に取られたのは、ジェラルディンも同じだった。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ