表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/16

第1話 999羽の折り鶴 と、1本の赤いバラ

 

 


突風が吹きすさぶ夜――黄金の折り鶴が、999羽、星空に舞い上がった。   


 出処は、ミンフィユ王国で一番高い “Magical Sky Tower”《マジカル スカイタワー》、 飛ばしたのは、999人の警官だった。


  丁寧に折られた折り鶴の内側は、嘆願書になっていた。

  執筆したのは、ストロベリーシティの全警官ではなく、年若い警官だけは、最後まで反対し続けた。


  「我々シティの警官が、捕縛を諦めるべきではありません!僕は、断固反対です!」


  しかし、たった一人の意見など、組織の中では無価値も同然である。

  作戦は実行されたが、嘆願書の内容は、実に幼稚だった。


 『無敵怪盗ジェラルディンさま


  私ども警察本部では、あなた様を捕まえようという気概のある警官は、もう一人もおりません。(あ、一人だけいますが、忘れて下さい)  


  ストロベリーシティに昇る満月は、いい加減、諦めて下さい。

  どうか余所の町へ引っ越して下さい。       


   心よりお願い申し上げます。


                           警察本部一同より』




 「まあ、なんて子供じみたことを!警察なんて所詮こんなものよ」


 シルバー文鳥が、満月の傍で、くすくす笑って言った。

 青みがかった美しい羽は、月光に照らされてキラキラ輝いていた。

 

「警察本部は、いよいよ本気で匙を投げたわね。ほとほと嫌気が差したのよ。随分と雑な御手紙。だけど、折り方は、お上手!この折り紙、虹の魔女さまの魔法がかかってる。どおりで、月の傍まで届く筈よ」


 あるじが開いた折り鶴を覗き込んで、文鳥は面白がった。


 満月の夜、それも十二時きっかりに、無敵怪盗ジェラルディンは、ストロベリーシティの星空に出没する。

 そして、易々と月を盗むのだ。


 大胆不敵で予測不能。絶対無敵の怪盗だ。

 夜風も星々も、闇でさえ少女の味方。

 盗めないものは何もない。


 瞳の色は、シルバーピンク。

 腰まで伸びる波打つ髪は、赤みを帯びた銀色で、羽根もないのに、自由自在に空を舞う。


「あら、一人だけいるんですって。あなたを捕まえたい警官が。多分、パーシーね。あの子、絶対、あなたを追って来るわよ」  


 文鳥は、愉快そうに喋った。


「あなたを捕まえるのは、自分の使命とでも思ってるのよ。勘違い坊やね。ねえ、どうするの。御客様を、お待たせしては申し訳ないわ。ストロベリーシティの満月は、名物で大人気なのに!今夜も『転生食堂』は賑わうわよ」


文鳥が伺うと、ジェラルディンは、物憂げに答えた。


「そうね。でも、お願いされたのですもの。ストロベリーシティの星空は、今夜が見納めよ。正直、嬉しいわ」


 そう言って、折り紙を両手で引き裂いた。

 ビリリッという不快な音が周囲に響くと、綺麗な銀髪が夜風で揺れた。


「さてと、早く帰りましょ」


 破けた折り鶴を放って、ジェラルディンは、満月の真上に舞い降りた。

 その時、ゴオオオッと突風が吹いて、ジェラルディンは思わず目を閉じた。

 そして、目を開けた瞬間、仰天した。


「なっ、何!?」


 赤いバラの花びらが、ジェラルディンを取り囲むように、宙に浮いていたのだ。

 予想外の出来事に驚きを隠せなかった主を見て、文鳥のセーシュが、くすりと笑い羽を広げた。


「あれを見て」


「え?」 


 羽の先を追って、ジェラルディンは、顔をしかめた。 


 ひょろりと頼りなさげに見える警官が、右手に赤いバラを1本持ち、立っていたのだ。 


  折り鶴を飛ばした警官たちからは、百メートルほど離れていた。


「おいっ!何を勝手な事をしているっ!!」


 中年の警部が、怒り狂ったように拳を振り回して近付く来る前に、パーシーは、宙に浮いた。


「え?」


 999人の警官たちは目を見張り、ぽかーんと口を開けたまま棒立ちになった。

 呆気に取られたのは、ジェラルディンも同じだった。


 「何で………」


 ジェラルディンが固まっているうちに、パーシーは満月の傍まで到達した。


 「こんばんは、ジェラルディン」


 穏やかな笑みを浮かべ、勝手に話し掛けてきた。


「今夜も、上下同じの赤系チェックだね。ミニスカートしか履かないのは、どうしてだろう。僕は、こう見えても紳士だからね。うっかり中を覗いてしまわないように、今まで気をつけていたんだよ。これからも、もちろんそうするけどね。首元のリボンは、ピンク一択だね。偶然見た限りでは、パンツもピンクだったけど。ピンクが好きなの?」 


「………何で、あなたが飛べるの?」


 ジェラルディンは、ようやく我に返った。



「虹の魔女さまに弟子入りしたんだ」


事も無げに答えられて、ジェラルディンは面食らった。


「一体、何の為に?」


「もちろん、君を捕まえる為だよ」


 言われて、ジェラルディンは身構えたが、パーシーは、大きく首を横に振った。


「僕は、君の心を捕まえる事にしたよ」


「何ですって!?」


 叫んだのは、セーシュだった。


「あなた、遂に、恋心まで抱いてしまったのね!?」


 ジェラルディンが、心底迷惑そうな顔をしたので、パーシーは、再び首を振った。


「違うよ。君が、満月を盗む理由を、虹の魔女さまから聞いたんだ。それで、僕は、星空で君の邪魔をする。盗みは盗みだ。僕は、君から満月を盗み返す」


「何ですって!?」


 またもや叫んだのは、セーシュだが、今度はカンカンに怒っていた。


「どうして、そんな思考になるの!?理由を聞いたなら、私たちの邪魔をしないで頂戴!!」


ジェラルディンも、眉を吊り上げて言った。


「私の心を捕まえる?月を盗み返す?千年早い!!」


 ジェラルディンは、黒いマントを胸ポケットから、するすると引っ張り出して両端を握った。


 そして、ぱっと投げるようにして広げた瞬間、赤いバラが1本、マントの真ん中に突き刺さった。


「!!何を!!」


「ハート泥棒から無敵怪盗へ、バラの挨拶ですよ。今夜は、挨拶だけにしておきましょう。この次の満月の夜は、必ず盗み返しますよ、無敵怪盗ジェラルディン」


 わざとらしいウインクを残して、魔女の如く一瞬で消えた。

 弟子入りしたというのは、嘘ではないようだ。


 「くっ」


 ジェラルディンは、悔しくてたまらなかった。

 こんなに悔しい思いをしたのは、何年ぶりだろう。


 セーシュは、何も言わなかった。

 ただ黙って、バラの花をくちばしで引き抜くと、憎々し気に放った。

 バラは、ほんの一瞬ぱっと赤く燃え上がり、シュッと消えた。


「行きましょう?」


 セーシュが、ささやくように言うと、ジェラルディンは無言で頷いた。


 夜風が手伝って、月をすっぽり覆い隠した。

 辺りに光がなくなると、文鳥と無敵怪盗は消えていた。


  しかし、998羽の折り鶴は星空に留まって、輝く星に加わった。

  そして、本物の星と同様に瞬いて、哀れな警官たちを見下ろした。


  彼らには、伝わるだろうか、次の満月が消えることはないのだと。

  星々は告げ知らせるかのように、強く強く煌いた。


   



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ