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7 小さなお店

コインランドリーが出来てからしばらく経った。

店舗の開店時間は朝八時から夕方六時まで。さすがに前世のように二十四時間営業とはいかない。監視カメラも頼めば作ってくれるかもしれないが、そもそも夜中まで監視できる人員がいないのだ。料金の回収や扉の鍵の開け閉めは魔法塔の事務官が交代でやってくれている。アンナも少しでも手伝えればと、週に一度ほど様子見がてら店の掃除に行っていた。


その日もアンナが店まで行くと、向かいのお菓子屋のおばあちゃんが話しかけてきた。


「アンナちゃん、ちょっといいかい」

「お菓子屋のおばあちゃん、どうしたの?」

「いやね、ちょっと気にかかることがあって。最近、この辺りじゃ見かけない若い男が、店の周りをウロウロしててさ。昨日はランドリーの洗濯機を覗いていたんだよ」

「なんですと?」

「もしやと思ってねぇ。下着を物色してたとかさ……」


たしかに、なくはない。前世のコインランドリーにもそういう輩がいると聞いたことがある。


「おばあちゃん、ありがとう。ちょっと他の人達にも聞いてみます」


店の中に入ると、近所のおかみさん達が井戸端会議に勤しんでいた。テーブルセットが役に立っているようでなによりだ。


「あら、アンナちゃん。お邪魔してるよ」

「みなさんこんにちは。いつもご利用ありがとうございます」

「こちらこそありがとうだよ。ここが出来たお陰で随分楽になったんだ」

「そうそう、さすがに毎日は使えないけど雨の日に乾燥だけしに来たり。大きな毛布なんかもあっという間に洗えちゃうんだもの」

「それに、ここでお喋りしてたら時間なんかあっという間に経っちゃうよ」

「ちょうどいい息抜きになってるんだ。あとはお茶があれば最高だね」

「ふふっ、お役に立ててよかったです。ところで、お向かいのおばあちゃんに聞いたんですが……」


アンナは先程聞いた話をおかみさん達にした。


「私も見たことがあるわ。店の様子を覗いてたね」

「洗濯が終わるまで一旦家に帰る人もいるからね。私らがいる時なら注意も出来るんだが、さすがに毎日はいられないしね」

「そうだ! ちょっと失礼します」


そう言うとアンナは外へ走り出て、向かいのベンチに座るおばあちゃんに話しかけた。


「おばあちゃん、ここの店番をしませんか?」

「店番? なにかこの年寄りにできる仕事があるのかい?」

「ありますあります。ランドリーの店内でお菓子を売りませんか?」

「お菓子って、うちのケーキやクッキーを? そんなことしても大丈夫かい?」

「魔法塔で上司に確認しますけど、たぶん大丈夫だと思います。ただの店番じゃなんですから、中でお菓子とお茶を売るんです。洗濯を待ってる人が買ってくれると思いますよ」

「なるほどね! でもうちばかり得してないかね」


おばあちゃんが申し訳無さそうな顔をする。


「いいえ、誰か見てる人がいてくれるだけで悪さをする人も減ると思います。お給料は出ませんけど、売れたものは全部おばあちゃんちの利益ってことでどうです?」

「あんたも上手いこと考えるねぇ。よし乗った! 息子に相談しよう」



その足でお菓子屋さんに行き、クッキーやマフィン、マドレーヌなどつまみやすいお菓子と、魔法瓶で温かいお茶を用意してくれることに決まった。お昼なども息子さんのお嫁さんが交代で入ってくれるそうだ。何かあったら任せてくれと息子さんも請け合ってくれた。




早速魔法塔へ帰り、クラーク師長へ説明と許可を取りに行った。


「ククッ、君は次から次へと面白い事を思い付くね。いいよ、店の安全のためにも願ったり叶ったりだ」



翌日、朝からウォルトに手伝ってもらい、店の入口近くに折りたたみの小さなカウンターテーブルとイスを設置した。


「おはようさん。今日からお世話になるよ」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


おばあちゃんと息子さんが、色々なお菓子を詰めたバスケットと紅茶の入った魔法瓶、それに簡易的なカップを抱えて店内に入ってきた。


「ここが私の職場かい?」

「そうです。ここの主人はおばあちゃんですよ」

「ほほ、まさかこの歳になって店を持つとは思わなかったよ」

「昨日から張り切っちゃって大変だったんですよ。でもこの母に生きがいを作ってくれてありがとうございました。俺も嫁もうちの店から注意して見ときますから」

「こちらこそ助かってるんです。どうぞよろしくお願いします!」


「おや、今朝は人が多いね」


近所のおかみさん達が洗濯物を抱えて店に入ってきた。


「今日から私の店が開店したんだ。よろしく頼むよ」

「なんだって? ここでお菓子とお茶を飲めるのかい」

「そうです、昨日『あとはお茶があれば最高』って言ってましたよね?」

「あぁ! しかもお菓子まで買えるなんて、もう家に帰りたくなくなるじゃないか!」


そこで、おばあちゃんは店内の監視も兼ねていることを説明する。


「なるほどね、私らも洗濯が終わるまでお茶を飲みながら見とくよ」

「ありがとうございます!」



◇◇◇◇


魔法塔への帰り道、ウォルトが呟いた。


「アンナは凄いな」

「なにが?」

「便利な道具を作るだけじゃなく、お店まで開いて。心配事も周りの人達を巻き込んで解決しちゃった。人見知りの僕にはできないよ」

「何言ってるの。ウォルトが居なかったら出来てないわ」

「僕なんか、ただアンナのアイデアを形にしただけだよ」

「そうじゃなくて、ウォルトが魔法師になって私を魔法塔に誘ってくれたからよ。そうじゃなければ、今頃は娼館で泣いてたわ」

「うっ、それは――」

「それにね、あなたが魔法師じゃなければ前世の道具も作れなかった。もっと言うと、子供の頃からあなたが私の話を信じてくれたから、作ってって言えたの。前世の記憶がこんなにも役に立つなんて、魔法塔で働いてなかったら一生気付かなかったよ。だから全部ウォルトのおかげ」


ウォルトの頬がほんのり赤く染まる。


「えっと、あのさ。今度休みの日に街に出ない?」

「街に? ウォルト休みあるの?」

「うん、一応あるけどずっと引きこもって研究してたから、いつでも休めるんだ。だからアンナの休みの日に一緒に出掛けてほしくて……」

「いいけど、私でいいの?」

「うん。じゃあ次の休み、約束ね」

「わかったわ」


ウォルトはそれはそれは嬉しそうに笑った。

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