5 洗濯機がほしい
「ほら! もう、ウォルト起きて!」
「ん〜〜〜」
ここは仮眠室。アンナはベットのシーツを取り替えにきて、まだ布団に潜り込んでいるウォルトの布団を剥ぎ取り叩き起こした。
「ここのシーツを替えなきゃなの! あーあ、シャツもしわくちゃじゃない。それも貸して、一緒に洗っとくから。」
「ん」
まだ寝ぼけ眼のウォルトは、眼鏡を掛けてシャツのボタンを外した。
「うっ!」
普段は魔法師のローブに隠れていてよく分からなかったが、脱ぐと案外肩幅があって逞しい。そんな幼馴染の身体を見て、アンナは頬を赤らめ思わず目を逸らした。
「ウォルト、最近あんまり家に帰ってないでしょう。おばさんも心配してるんじゃない?」
「ん〜でも研究してたら遅くなっちゃうし、アンナもいるからここがいい」
「なっなっなに、あなたまだ寝ぼけてるのね」
なんだか最近、ウォルトの視線がやけに甘ったるい。
「と、とにかくシャワーでも浴びて目を覚ましてきなさい!」
そう言いながらシーツを引っ掴んで出ていくアンナを、ウォルトは愛おしそうに見つめた。
アンナが洗濯室に着くと、ブレンダが籠に山盛りになった洗濯物と格闘していた。
「シーツ交換してきました。今日は多いですね、私も手伝います」
「あぁ、お願いするよ。こう天気が悪いと洗濯もはかどらなくってねぇ」
ここ数日は曇り空で、雨が降ったり止んだりと不安定な天気が続いていた。
ふたりは並んでゴシゴシと洗濯をしながらお喋りをする。
「魔石のお陰でお湯も使えて手は冷たくないんだが、問題は干すところだよ。天気が悪けりゃ外に干せないし、ここに干すにも限界がある。天気が悪いと、めんどくさがって家に帰らない魔法師様も増えるしさ、洗濯物は増える一方だよ。う〜ん、タオルはまだしもシーツはどこに干そうかね。困ったね」
「洗濯乾燥機があればなぁ」
「もう何も聞かないよ、行っといで」
「ハイィーー!」
◇◇◇◇
「ここが洗剤の投入口ね。それでね、箱の中でドラムが回って洗濯物が洗えるのよ。お湯だと汚れもよく落ちるの。でね、脱水したあとはそのまま温風で乾かせるの。箱が大きい物だと布団も洗えたりするのよ」
アンナは説明しつつ日本のドラム式洗濯機を思い出し絵にする。
ウォルトは、朝食にと差し入れてもらったハムサンドをモグモグしながら考えた。
「ふむ、水魔法と火魔法と風魔法の魔法式を組み合わせれば――ちょっと師長にも相談してみるよ」
「いつもありがとね、ウォルト」
「アンナのためなら喜んで」
「な、な、もう、私仕事に戻るからね!」
慌てるアンナを見て、ウォルトは優しく微笑むのであった。
◇◇◇◇
「いや〜これ大変だった〜だけどなかなか面白かったよ」
クラーク師長が大きな箱に肘を乗せ、ポンポンと叩きながら言う。
「もしやこれがあれかい?この間アンナが言ってた、洗濯乾燥機とかいう道具」
ブレンダがワクワクした顔でウォルトに問う。
「そうです。クラーク師長に相談しながら作りました」
「いや〜洗濯物を箱の中で乾燥させるなんて、斬新な発想だよね。思い付きもしなかったよ」
「アンナは妄想力が凄いんですよ」
ウォルトはいたずらっ子のような顔をしてアンナを見た。
「は、ははは。妄想が趣味なので」
アンナはなんとか笑って誤魔化した。さすがに前世の異世界の話は出来ない。
「どうやって使うんだい?」
クララも目の前の箱が気になって仕方がない様子。
「実際にやってみた方が早いね」
そう言うと、クラーク師長はウォルトに目で合図をした。
ウォルトが洗濯籠からシーツやタオルを取り、洗濯機に入れ、洗剤も投入口にセットしスイッチを入れる。
「「おお〜〜」」
クララとブレンダは目を丸くした。
「水も勝手に入れてくれるのかい?」
「こちらから水道に繋がってますので」
「回ってる回ってる! 案外水の量も少ないんだね」
クララもブレンダも子供のように大はしゃぎだ。
飽きることなく見ていると、ピーピーピーと終了を知らせる音がなった。
「取り出してみましょう」
クララが扉を開けて、洗濯物に触れる。
「うわっ、温かいよ! シーツも綺麗になってるし、タオルもフワフワだ」
「こりゃ見事なもんだねぇ〜」
「だけど……すごく助かるが、私の仕事がなくなっちまうよ」
ブレンダが心配そうに言う。
「そんなことないですよ、手洗いじゃないと取れない汚れだってありますし、雨の日は乾燥機能だけ使うという手もあります。お天気がいい日は、途中まで洗濯機にやってもらって脱水後に外に干すなんて使い方も出来ますよ。」
「確かに! お天道様に当てた洗濯物は気持ちがいいもんね。そうするよ」
「それにここは万年人不足だ。仕事なんかいくらでもあるよ。調理場の仕事も手伝っておくれ」
「これで人手不足の問題まで片付いちゃったなぁ」
クラーク師長の顔に『ラッキー』と書いてあるように見える。
「ただなぁ、これめちゃくちゃ費用が掛かるんだよな。一台三十万ペナくらい」
「「「三十万ペナ!!」」」
「そりゃあ、私らにはおいそれと買えない値段だよ」
「量産するようになれば、もう少し安く出来るかもしれないけどねぇ。とりあえず王宮にでも売りつけてみるか。陛下も新しい物好きだしな」
王族に対して押し売りとは、クラーク師長も大物である。
そこでアンナはおもむろに手を挙げた。
「それについては、私に考えがあります」