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10 小さな結婚式

ふたりが結婚を約束してから一か月と少し、今日はあの思い出のある小さな教会で結婚式なのだ。一日でも早く結婚したいウォルトと、ノリノリで準備を進めたコリンズ家の後押しがあって、こんなに早く結婚式を挙げることになった。


新居である職員官舎の家具や寝具などは、あのこたつを作ってくれたお店から届いて、全て配置も済んでいる。お礼に『こたつにピッタリな座椅子という椅子がある』と教えると、家具屋と寝具屋は共同で開発すると張り切って帰って行った。

ブレンダから趣味のパッチワークで作ったこたつカバーも結婚祝いに贈られた。クララからはペアのカップとお皿のセットを贈られている。新生活の準備も万全である。


アンナのウエディングドレスは既製品だが、ウォルトの母がベールに刺繍を入れてくれた。実の母とは縁を切っているので、アンナの支度はウォルトの母とクララとブレンダが引き受けてくれている。教会の花嫁控え室で、アンナは三人の母達からこれでもかと飾り立てられた。


「まぁ、本当に綺麗よアンナ。さすがは我が娘!」

「こりゃ、ウォルトさんも惚れ直しちゃうね」

「あのベタ惚れウォルトさんなら大丈夫だろうけど、幸せになるんだよ」


アンナは涙を滲ませて、


「皆さん、本当にありがとう。こんなに素敵なお母さんが三人もいてくれて、私幸せです」

「「「アンナ〜〜」」」


式の前から号泣する母達であった。



「支度は出来たかい?」


ノックをしてからひょっこり顔を出したのはクラーク魔法師長。


「あぁ、見違えたよ。素敵な花嫁さんが出来上がったね」

「師長、今日はエスコートを引き受けてくださってありがとうございます」

「なぁに、父役には少し若いが喜んでエスコートさせてもらうよ。では行こうか」


実の父とも縁を切ったが、素敵な上司にエスコートしてもらえる。アンナはとても緊張していたが、師長の腕に添わせた手を『大丈夫だよ』と言うようにポンポンとしてくれた。


礼拝堂の扉の前で待っていると、オルガンの音が流れ出した。合図とともに扉が開き、師長にエスコートされたアンナは一歩踏み出す。参列席には、ウォルトの父と母、クララとブレンダの姿が見える。身近な人達だけの本当に小さな結婚式。


ヴァージンロードの向こうには、黒いフロックコート姿のウォルトがいた。背の高い彼にとても良く似合っている。前髪は撫で付けられ、いつもは隠れている顔がよく見えた。

祭壇の前にたどり着くと、とろけるような笑顔でウォルトが言った。


「アンナ……なんて綺麗なんだ。世界で一番綺麗な花嫁だよ」

「あなたもこんなに格好良いなんて! 本当に素敵よ」

「アー、始めてもよろしいかな?」


ふたりの世界に入りかけたところで牧師が待ったをかける。


「よろしくお願いします」


聖典の朗読、祈祷と式は進む。


「あなたはこのアンナ・パーカーを妻とし、健やかなる時も病める時も、死がふたりを分かつまで愛し続けると誓いますか?」

「はい、誓います」

「あなたはこのウォルト・コリンズを夫とし、健やかなる時も病める時も、死がふたりを分かつまで愛し続けると誓いますか?」

「はい、誓います」

「では、誓いのキスを」


ウォルトがそっとベールを上げる。アンナの青い瞳を見つめ、


「僕のアンナ、ずっと愛してる」


そう言うと優しく口付けた――いや、長いな? ウォルトは離す気配がない。


「んっ、ウォルト!」

「ん、ごめん。つい」


周囲から笑いが漏れた。

結婚誓約書にサインをし、和やかに結婚式は終了した。入口に向かい手を繋いでヴァージンロードを歩く。その時パチンと指を鳴らす音がすると、天井からキラキラした光の粒と真っ白な花びらが舞い降りてきた。


「うわぁ! キレイ!」


その花びらは手に触れるとフッと消える。魔法で出来た花びらと光の粒だった。


「クラーク師長……」


ウォルトが呟くと、クラーク師長がパチッとウインクを返した。



キラキラと光に包まれながら、ふたりは教会から外に出る。

するとそこには顔見知りの街の人たちが集まってくれていて、口々におめでとうと寿ぐ。


「アンナちゃん、おめでとう。うちのケーキを結婚祝いに持ってきたんだ」

「お菓子屋のおばあちゃん!」

「クララさん達に預けておいたから。またランドリーにも顔を出しておくれ」

「本当に、本当にありがとう!」


ふたりは幸せに包まれながら、魔法塔へと帰って行った。




◇◇◇◇


塔の食堂にて、ウォルトとアンナの結婚祝いのパーティーが始まろうとしていた。

すでにテーブルにはクララ特製の美味しそうな料理が並んでいる。お菓子屋さんがふたりのために作ってくれたウエディングケーキもあった。たっぷりとドライフルーツが入ったケーキに、砂糖菓子でかわいく飾られている。

いつもの簡素なテーブルには、ブレンダによって綺麗なテーブルクロスが掛けられ、所々に花瓶に生けた花やリボンで飾られていた。そして部屋の中にはフワフワとかわいい風船がいくつも浮かんでいる。


「あれはね、魔法師様達に出してもらったんだ」


なんと! あまり他人に興味がない魔法師達が、ふたりのために部屋の飾り付けに協力したというのだ。


「嬉しい……皆さん本当にありがとうございます」

「別に、それくらい、どうってことないさ」


ツンデレかな? 珍しく集まった魔法師たちが照れてそっぽを向いた。


「皆さん、僕達のためにありがとうございます」

「ご馳走もお酒も沢山用意してくれてますが、私達からのお礼はこれです」


ジャーン!と手のひらを向け見せたのは、ポコポコと穴の開いた鉄板となにやらスイッチの付いた台。


「今日はみんなでタコパをします! タコはないけど!」

「タコパ?」

「たこ焼きパーティーです」


この日のために、ウォルトに新しくたこ焼き器を作ってもらったのだ。それも三台も。この国ではタコが手に入らないので、小麦粉で作った生地、ネギに似た野菜、ウインナーやチーズなど色々な具を用意した。ソースも隣国からの輸入品でたこ焼きソースっぽいやつを入手済みだ。マヨネーズも手作りした。


ひとまず、どんなものかアンナが焼いて見せる。生地を流し入れ、具を一つ一つ入れたらネギっぽいやつを散らす。串でクルックルッと返して見せると、オォ〜と歓声が上がった。


「いやぁ、まさか自分の結婚パーティーでたこ焼きを焼くとは思わなかったよ」

「ニホンのお祝いの料理とかじゃないの?」

「いや全然。だけどみんなで楽しめるかなと思って」


焼き上がるとソースをかけて「おひとつどうぞ」と勧めた。皆は恐る恐る口に入れるが、熱すぎたのか上を向いてハフハフと慌てている。アンナが次を焼こうとしていると、


「ちょっと待て、俺がやる」

「いや、俺もやりたい」

「はいはい、三台ありますから。どうぞ皆さんで好きな具を入れて作ってください」


『チーズ入りも美味いな』とか『こっちのチョコ入りの甘いやつもイケる』などと、大好評だった。そしてこのタコのないタコパは、今後定期的に魔法塔で開催されることとなる。


「アンナさん、このたこ焼き器も売れそうだね」

「フフフフ、ではさっそく話を詰めましょうか」

「またアンナはこんな時まで……」


ウォルトは呆れた顔をしながらも、優しい目で新妻を見つめていた。

塔の仲間達は、大いに飲み大いに食べ楽しい夜はふけていくのであった。




◇◇◇◇


結婚式から数か月が経った。アンナは相変わらず魔法塔でメイドをしている。今日も散らかってしまった塔の掃除のため、各研究室を覗いて回っていた。


「ちょっと、エドさん! 床に散らかったメモ紙にルナが引っ掛かってますよ!」

「あぁ! ごめんよルナ〜すぐに片付けるからね」


「ギャレットさーん! チャーリーが廊下に脱走してますー」

「おっと、すまん。チャーリーお部屋に戻ろうね」


まるで猫でもいるかのような会話だが、そうではない。実はこれ、ロボット掃除機なのである。またアンナの前世の記憶を元にウォルトが開発した魔道具なのだが、研究室に放してみると最初はおっかなびっくりだった魔法師達が、自分の部屋の掃除機に名前を付けて愛で始めてしまったのだ。おかげで研究室の床に積み上げられた物が随分減ったという。


すでに新しい物好きな国王一家にもクラーク師長が売り付け済みだ。王宮の長い廊下を掃除していることだろう。


「アンナ」


聞き慣れた声に振り返ろうとすると、後ろからふわりと抱きしめられる。


「ウォルト! お疲れさま」

「あぁ、無理してないかい? 何かあったら大変だからね」


アンナの少し膨らみ始めたお腹を撫でながら、ウォルトが言う。


「これくらいなんでもないわよ。あの掃除機のおかげで仕事も余裕ができたし」

「アンナのために作ったんだ。君のためなら何でも作るよ」


頭にチュッチュッとキスの雨を降らせる。今日もウォルトの溺愛は止まらない。


「ありがとう、ウォルト。大好きよ」

「フフッ次は赤ちゃん用の魔道具でも作ろうかな」


これからもアンナのためという名目で、便利な道具は日々増えていくのであった。

これにて完結です。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

初めて投稿した拙い作品にも関わらず、ブックマークや評価をくださった方もありがとうございます。あまりの嬉しさに小躍りしました。

このあと短めの番外編も執筆予定です。お楽しみに。

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