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1 魔法塔とメイド

「ねぇウォルト、家電作れる?」

全てはこの一言から始まった――




アンナ・パーカーは王宮の敷地内にある魔法塔に勤めるメイドだ。

魔法塔とは、国内でも最高峰の魔法師達が集まる魔法の研究機関である。どの分野にも言えることだが、研究者というのはちょっと変わった人が多い。特にここの魔法師は興味の有る無しが極端で、自分の研究以外はどうでもいいとなおざりにしがちなのだ。オタク気質で一度研究しだすと寝食も忘れて没頭してしまうのである。


そこで登場するのがアンナ。散らかりがちな塔の中を綺麗に掃除し、仮眠室のシーツを取り替え、何日もシャワーすら浴びるのを忘れた魔法師をシャワー室に追い立て、ちょっと臭い出した服も洗濯し、栄養バランスの良い食事を用意する。もうメイドと言うよりお母さんのようだ。


「はいはい、起きてください! ふたりとも何日家に帰ってないんですか?」

「ん〜たぶん五日くらい?」

「俺はまだ三日だよ」

「なにやってんですか! もう、ちゃっちゃとシャワーを浴びる! そっちはベッドから出てください! シーツを替えますよ!」


仕事は出来るが、私生活は非常に残念な人達なのだ。



もちろん、メイドはアンナ一人ではない。主に食堂で料理を担当するクララと、洗濯担当のブレンダがいる。二人とも家庭があるので通いなのだが、独り身のアンナは住み込みで働いている。なので必然的に二人が休みの日は料理も洗濯もアンナが担当することになるのだ。


もっとメイドを増やしてほしい所なのだが、なんせ前述の通り変人達が集まる魔法塔。気難しく人付き合いが好きではない人も多い。魔法師が新しく入ったメイドに人見知りしたり、メイドの方もあまりに手が掛かる大きな子供に辟易したりで続かないのだ。



クララもブレンダもアラフィフの肝っ玉母さんで、ここの変人達を上手く転がしバリバリ働く二十年以上のベテランである。自身も子供を育て上げているので、ここの大きな子供の相手などなんてことないのだ。そしてアンナは十八歳でここに入ってからもう三年目となった。


若いメイドが三年も続くというのはかなり珍しい。エリート集団に下心アリアリで応募してくる若い女性達も、魔法師達のあまりのだらしなさに幻滅し、いいとこ保って一か月。

なぜこんなに若いアンナが続いているかと言うと、ズバリお金だ。

魔法塔のメイドはお給料がいいのである。変人達の世話をするのだ、それくらい良くないと誰もやってくれないだろう。


「お金はいくらあっても困らない!」


◇◇◇◇


アンナの両親は金遣いが下手で、家計の管理が出来ない人達だった。別にギャンブルにハマったとかではないのだが、いりもしない贅沢品を買ったり高いものを食べに行ったり、下らない使い方で浪費してしまっていた。収入以上に使ってしまうため家計はいつも火の車で、幼いアンナは子供心に「こんな大人にはなるまい」と思っていた。



アンナが十八歳で成人した頃、長年の浪費生活からジワジワと増えた借金で両親の首が回らなくなり、あわやアンナも身売りかと思われたところに救世主が現れた。隣の家に住んでいる幼馴染のウォルト・コリンズである。



ウォルトはその魔力の強さから魔法塔のスカウトを受け、一足先に塔で働き始めていた。賄いと余り物目当てに近所のパン屋で働いていたアンナだったが、その給料なんかでは借金の返済など到底追いつくものではなかった。それを見かねたウォルトが、


「魔法塔のメイドにならないか?」


と誘い、両親と縁を切らせる手続きをし借金取りから守ってくれたのだ。両親は辺境の地にある鉱山に放り込み、自分で作った借金は自分で返せと通達済だ。


こうして家も借金のかたに取られたアンナは、魔法塔で住み込みメイドとなった。





もう一つ、アンナが魔法塔でもやっていける秘密がある。それはアンナが前世の記憶持ちという事だ。


物心ついた頃からぼんやりと、今いる世界とは違う高層で無機質な建物が並ぶ街並みや、家事に便利な道具が揃った家、高速で移動する乗り物、そんな物があれこれ頭に浮かんでくるようになった。

親からは妄想癖のある子だと思われていたが、幼馴染のウォルトだけは熱心に聞いてくれた。成長するにつれその世界の事がはっきりと思い出されるようになり、自分の前世が日本という国に住んでいた『大庭杏奈』という名の大人の女性だったこともわかった。



杏奈は大学卒業後に入社した会社が超絶ブラックで、家と一人暮らしのアパートを往復するだけの生活だった。食事を用意する気力もなく、コンビニ弁当か栄養補助食品で済ませる。家事は家電に任せて誤魔化し誤魔化し生活していた。だがそんな毎日がアラサーの身体には堪えた。

ある朝、人でごった返す駅の階段から足を滑らせそのままそこで記憶が途絶える。おそらくそこで命を落とし、この世界へ転生したと思われた。

なにかのゲームや小説の中に転生するというのはよく聞くが、はっきり言ってそんな娯楽を楽しむ心の余裕すらない社畜生活を送っていたので、新しく生まれた世界が何なのかもわからなかった。


ともかく、前世はアラサー、今の年齢と合わせるとクララやブレンダ達と同年代の立派なオバちゃんである。アンナは体が若い上に精神は図太く出来ていた。だから多少のことでは動じないで働く事が出来るのであった。


「さあ、今日もバリバリ稼ぐわよー」




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