第九話
会議室を出ると、それまで張り詰めていた緊張の糸が解けてしまいました。嫌な汗もかいてしまい、できるなら今すぐにでも湯船に浸かりたい気分です。ですが、入浴の時間は過ぎてしまっているので、このまま寝るしかありません。
「……疲れたわね」
「はい……」
今の時刻は一部従者を除いて就寝する時間帯です。私とベイルを除いて誰一人としていません。二人の足音だけが響きます。ただただ静かです。
「お嬢様。少々伺いたいことがあるのですが」
「何かしら?」
「騎士団長の方々についてです。キマリス様はよくお会いしているので慣れていますが、他のお三方は滅多に会わず、圧がすごかったので。特にその……ハルバード様が」
「そうね」
「ですがお嬢様はそのような方相手にしっかりと自分の意見を伝え、納得させました。もし私がお嬢様のような立場であってもあのようにはできないでしょう。緊張などなさらなかったのですか?」
「私だって魔王の娘である前に未熟な魔人よ、緊張しないわけないでしょ?」
「そうなんですね。ではなぜ、その……怒ってらっしゃったのですか?」
「怒ってる?私が?」
「はい。普段、お嬢様は日常生活においてあまり感情的になることがなかったはずですが、あの場では殺意とまではいかないものの、言葉の節々に棘を感じられたので……」
……そのような意識はなかったはずですが、ベイルが感じているのであればきっと周りにもそう思われていたのでしょう。でも今考えると……。
「……多分それは、団長の方々の話聞いてちょっとイラついてたところがあったからかしら」
「どうしてですか?」
「だってハルバードも、ヴィーナも、キマリスは多分そんなことないけど、ベイルの能力だけ見て貴女のことを何も見てないじゃない。人の扱いじゃないわ、物よ、物」
「そう思っていただけるのは大変ありがたいことですけれど、キマリス様たちも悪気があっていったわけではないですし、騎士団の立場もあるでしょうから、あまり悪く思わなくても良いのではいかと個人的には思います。それにヴィーナ様が気遣ってくださることもありましたし……」
「そんなのはわかってるわ。でもやっぱ許せないのよ。友達を物扱いされて怒らない人なんていないでしょう?」
「友達?私がですか?」
ベイルの足が止まりました。私の発言、そんなにおかしかったでしょうか。
「当然じゃない?何を言っているのかしら」
「いえ、その、私とお嬢様はあくまで主人とメイドの関係だと思っていたので、まさかお嬢様がそのように思ってくださっているとは……」
……ベイルの言いたいこと、よくわかります。いわゆる主従関係ってやつです。ここでの生活が始まってもう十年経ちますが、やっぱり人の上に立つのはあまり気分が良くないです。少なくとも私は立場なんて関係なく接して欲しいのですが、この世界の常識はそうでないようです。
「私、主従関係って疲れるし嫌いなのよね。そもそも私は立場上、そういう風に言ってるだけで貴女をメイドだと思ったことは一度もないわよ?」
「え、では今までどのような関係だと?」
「うーん、年下のお友達?」
「私の方が年上ですよ?!そんなに幼く見えますかぁ?!」
「冗談よ。まあ、否定しないでおくけど」
「何でですか!?どこがそう見えるんですか?」
「さあ?どうでしょうね。自分の胸に手を当てて考えてみなさい」
ベイルは本当に胸に手を当て始めました。思い当たる節がないのか、険しい表情をしています。
「でもどうする?もし私が、本当はベイルよりもずっと年上だとしたら」
「なんですか急に。ついにおかしくなり始めましたか?」
「それだけ疲れが溜まってるってことよ。で、どうなの?」
……私は魔王の娘。だけど、中身は何も変哲のないただの女子高生。生きている以上一つや二つ、隠し事はあるものだと思います。でも、私のこれは重過ぎます。きっと話しても理解されないでしょう。それどころか、気味悪がられてしまうかもしれない。この世界でこの記憶を持つのは私だけ。怖いのです、ずっとひとりなのが。
「……そうですね、仮にそうだったとしても私はお嬢様のメイド……いえ、ずっとお友達ですから」
「たとえ私が誰からも理解されなくなっても?」
「その心配はないと思いますけど、私がずっといますよ。大丈夫です、お嬢様を一人になんかさせません」
「……そう」
ベイルなら私の思い、わかってくれるでしょうか。いつか……本当に辛くなったら、話してみることにしましょう。それまではまだ、もう少しこの関係でいさせて欲しいです。
作者の瑠璃です。
まずは読んでくださりありがとうございます。
この作品はタイトル通り、それぞれの視点で描かれる異世界物語です。人族サイドのお話もあるのでもしよろしければその作品も読んでいただけると嬉しいです。また不定期投稿なので気長に待っていただければと思います。ブクマ、評価等していただけるとめっちゃ喜びます!!




