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第八話


「契約……だと?何言ってんだキマリス」


 怪訝な顔で私を見つめる。


「そうですね……簡単に言えば一対一による決闘です。どちらかが降参、または戦闘不能な状態になった場合、勝者の言い分を飲む、という契約を交わしました。もちろん、相手は指揮官です」

「なんでそんなことしたの?わざわざしなくても、他に方法はあったはずよ?」

「もちろん、これ以外にもいくつか案はありました。ですが、私が到着する頃にはすでに大きな打撃を受けており、早急な対応を求められました。また、ヒュール森林のような見通しの悪い地域では司令塔となる人物によっては戦局を大きく左右する重要な要因の一つです。個々の能力は我々に分がある以上、押されている現状を崩すにはこうするしかありませんでした」

「ふ〜ん。ならいいんだけど」

 

 なんとか納得してもらえたようで少し安心した。

 

「てかキマリス。作戦にはとやかく言わんが、どうやって決闘を申し込んだんだ?もしや、単騎で敵陣に突っ込んでないだろうな?」

「そうですが……何か?」

「あんた正気か?!無謀にも程があるぞ!」

「はあ……元賊だった私を舐めないでいただきたい。このぐらい朝飯前です。単独の行動なら尚更……それとも、私にその実力がないとお考えで?」

「ああ、そういえばそうだったな……そこまで言うつもりはない。だからその……すまない。言い過ぎた……忘れてくれ」

「……少し脱線しましたね。話を戻しましょう」

 

 ハルバード殿の発言、普段ならスルーできる。だが流石の長丁場、思うようにいかない会議にイラついていたみたいだ。全く……そこそこ歳を食っているのに恥ずかしい。一度、私はため息をついた。

 

「幸い、向こう側も話の通じる方でしたのでなんとか交渉することができました。私としてはこれ以上大事にしたくないので穏便に済ませたかったのですが、やはりしばらく時間が経ってたのがいけなかったですね。平行線のまま交渉は進まず、この様な形で解決するしかありませんでした」

「でもよくそんな要求受けてもらえたな」

「指揮官はあの連中の中で一番腕のある騎士だったと思います。私に勝つ自信もあったのでしょう」

 

 あの場にいた中で一番強いと考えた人族はあの指揮官だった。確か名前は……ルーク・レミントン。年老いているけれど、経験値が人並み外れている。人族全体で考えてみても優秀な人材だったでしょう。

 

「はは、随分と能天気なやつだな。キマリスにやられる様じゃ、向こうのレベルも大したことねぇ」

「ですが私も神威(ウルスラグナ)を使ってしまったので実力があるのは確かです。先ほど言ったようにハルバード殿よりは強くないですが。それに、将来有望な騎士になるであろう人物もいましたし、今後も警戒をしておくのが得策かと」

 

 その瞬間、全員の視線を一心に受けた。

 

「……珍しいな。お前があの神威を使うなんて」

「その結果相手の動揺を誘えたのでよかったです。しかしまさか、この力が知られていたことには驚きましたけど……とにかく、人族、特に騎士団は現状、報復として領土侵入、及び戦闘行為をすると考える必要はないです。時間はたっぷりあると考えていいでしょう」

「ふ〜ん。ならいいわ。私、バエルちゃんの意見に賛成〜」

「奇遇ですね。私もです」

「俺は納得できん。そんなことができるならなぜ騎士団が分かれてるって話になるだろ。それに、騎士団の本拠地はそれぞれ離れている場所にある。ベイル一人動かすにも時間と費用がかかるだろ。一体その金はどこから出すってんだ?」


 ……費用。国営である以上それぞれの予算は決められている。追加される事でこれまでの資金の利用方法にも支障が出る可能性がある……と言いたいのでしょう。このために税収を上げてしまうと市民にも影響を及ぼしてしまう。なるほど、その点は考えていなかった。

 

「『公費』であれば問題ないでしょ?」


 お嬢様が口を挟む。

 

「公費……だと?そんな事できるのか?」

「……視察を目的として私があなた方の騎士団の元へ向かうのであれば大丈夫よね?ベイルは私の専属よ。必ず着いてくるわ」

「……まあ、確かにそれなら……」


 固有魔法を持つベイル殿、特別であるけれど彼女の身はお嬢様の専属。彼女本人に対して公費など特別な資金は降りる事はない。だがお嬢様が外出する……そうなれば公費として予算は下りるし、ベイル殿もご一緒になる…なるほど、よく考えました、お嬢様。ですが、そうなると問題は……。

 

「しかしお嬢様、お言葉ですがその様なことをしてしまうと万が一戦場に送り出すことになった場合、ベイル殿のみならずお嬢様までお怪我をされる可能性も……」

「ベイルを置いて私一人部屋に籠ってろ、とでも言いたいの?」

「いえ、そんな訳では……」

 

 若かりし頃の魔王様を彷彿とさせる圧が全身に響く。毛が逆立つのを感じた。

 

「なら、いいよね?」

「は……はい」

「ヴィーナは何かある?」

「いいえ〜特には」

「ハルバード、あなたは?」

「……ああ、分かったよ。お嬢の意見に乗るさ」


 半ば諦めたような口調でハルバード殿は言う。だがこれで方針は決まった。


「なら、これでしまいじゃ。こんな案でええかえ。べレート様」

「皆がそれで良ければよろしい。後はベイル、君次第だ」

「え、わ、私ですか?」

「これはベイルが深く関わっている以上、君が納得するような案でなくてはならない。皆の者、そうだろう」


 魔王様の問いかけに、我々は頷く。


「……ですが私はお嬢様の専属のメイドです。そのような配慮など……それに()()……」

「……ベイル」

 

 魔王様の声が低くなる。

 

「……はい」

「……問おう。皆の出した案に何か意見はあるか?」

「いえ、何もありません」

「では、この案を採用することで決定とする。其方の目覚ましい活躍を期待しているぞ」

「……はい。ご期待に添えられるよう尽力してまいります」


 ベイル殿は深々と頭を下げた。


「では次に移りたい。此度の戦闘による被害報告、今後の対策案等についてだが、ベイルについて多くの時間を割いてしまった。本来ならバエルにも参加させたかったが夜も遅い。二人は自室に戻って就寝の支度をしなさい」

「……わかりました。お先に失礼します」

「失礼します」


 お嬢様たちは頭を下げて出て行った。

作者の瑠璃です。

まずは読んでくださりありがとうございます。

この作品はタイトル通り、それぞれの視点で描かれる異世界物語です。人族サイドのお話もあるのでもしよろしければその作品も読んでいただけると嬉しいです。また不定期投稿なので気長に待っていただければと思います。ブクマ、評価等していただけるとめっちゃ喜びます!!

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