特訓Ⅴ:ドMと成敗と終わらない戦い
ここからはアンデッド語は完全日本語翻訳で参ります(ネタバレ)。めんどくせぇんだよ、アンデット語考えるの! なお、作中でアンデッド語を理解できるのは八雲だけです。流石、公式チート。
――メガネがお釈迦になったんだが……
ちょうど、空に閃光とクリムゾンレッドの粒子が舞った時だった。陽太は分厚いゾンビ群の中を【サイクロンインパクト】でブチ抜き、ゾンビの屍――もとい、分解されたマナの吹雪の中を颯爽と大ボスの前に最短距離でたどり着いた。
「マナ、食べ――」
「うるさい」
陽太は、相手の話の途中で、今まで走った分の完成を乗せた飛び蹴りを魔獣に叩き込んだ。
(腰にバックルがついてる……アンデッドか)
そう判断しながら、左ストレート。
「〝風牙〟」
風の刃をまとった左腕のストレートは、胴体を抉っていく。即座にアンデッドは右手に持った杖をフルスイング。だがそれを、陽太は右足のつま先についた刃で受け、パリィ。
(魔法職かな。なら、速攻でシメるのが専決だな)
陽太はアンデッドがよろめいている隙に右アッパー、からのきりもみ回転両足飛び蹴り(【疾風】による落下速度上昇+【風刃】による斬撃属性付与)、その他多数の技。バカスカ叩き込んでいく。
「びゅうううううううどああああふぁっっっっっほいいいふはああのああああbっっっっっっっっっっっさぁあああああああああああああああああ!」(原文ママ)
「〝サイクロンインパクト〟」
さらに超圧縮空気の流れがアンデッドにぶち込む。うん。僕食らったら、クラスタが一瞬で尽きそう。まあ、その前に反撃で倒すけど。アンデッドが可哀想になる位の猛攻を放ち、絶賛アンデッド封印待機中の息の少しあがった陽太は、
(何だか、わざわざ八王子から来た兄貴たちに悪く思えてきたな……。少しぐらい見せ場をとっておくべきだったか)
と、思っていた。が、落ちてきたアンデッドはピンピンしていた。服以外、ほぼ無傷。うん。今のところ一番再生力高い気がする。ただ、R-18ギリギリの服裂け。歩くたびにさっきまで気付かなかった巨乳が揺れる。コルセットで押さえつけてたのか? 恐るべし、アンデッドコルセット……
「私はこの程度の攻撃では負けませんわ〜!」
(女性型か)
陽太は安定の【疾風】ブースト+【風牙】の斬撃付与でムーンサルトキック。さらに、胴体を滅多踏みにする。なお、この点は八雲譲りの徹底さである。ズタズタにアンデッドの体中に切り傷がはしっていくが、即座に再生していく。
「あなたは、私の体力を削って、封印できないですわ〜!」
ハイテンションでそういう。もちろん、陽太はその言葉を理解できていない。ゆえに、
(きっしょ。ドMかよ……)
むちゃくちゃ引いている。露出狂見たぐらい引いてる。そもそもこのアンデッドの現在の姿は露出狂通り越して全裸に近い(服の破片などで、ギリギリのところ保っている)のだが。
「早く、開け!」
陽太は踏みつつ【風牙】で斬撃をいれるものの、アンデッドは抜群の再生力で再生力により、封印段階に移行しない。その間にも、アンデッドの布面積はちまちまと減っていく。そうこうしているが、陽太もうすうす気づき始めている。
(こいつ、二人以上いないと倒しづらいやつだ)、と。
だがしかし、そこには、いつまでたっても来るはずの八雲は来ないし(このとき、既に栃木県北部――日光にてレポートしているので当たり前)、あとから来るはずのほむらたちもまだ来ない。まさしく、孤立無援である。恐らく、ゾンビがこちらに来ないので、ほむらたちも到着したのだろう。ヘイトが、こちらに向かないし、少しずつ減ってきている。このまま、踏みつけピン留めしてればいいか。そう、陽太が考えた時だった。
「変態、殲滅!」
マゼンタに輝く、陽太よりも少し年上っぽい、少女が飛び切りをかましてきた。
***
ほむらはとにかく、前に進んでいた。ゾンビたちの急所目掛けてエッジを振りながら。そう、魔光剣で切るのではない、当てる感覚なのだ。ほむらがその感覚を掴んだ理由はゾンビ型魔獣が四方八方から襲いかかったときだった。意地でも、相手との距離を取るために、脆いエッジで無理矢理、峰払いをした。ほむらは壊れるかと思っていた。だが。そのゾンビはノックバックした。両手首欠損し、緑色の血を吹き出しながら。
(あー。脆)
エッジは軽く握るだけ。的にスイングで当てる感覚。斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、無力化。大丈夫、後ろにはレイと剣崎がいる。トドメは刺してもらえばいい。後で結構、楽に、移動速度が上がっていく。段々と、ゾンビの密度が上がっていく。中心部、魔獣の発生源に近づいてきているということなのか。不意に、ほむらの耳に斬撃音に似た、風切り音が聞こえてきた。そこには、
(変態? DVやろう?)
女子から見てもナイスバディな女性を踏みつける、男子っぽいシルエットが見えた。(ほむらの見つけたタイミングからでは)一方的に、その少年が無抵抗な女性を踏み付けるクズにしか見えない。その上、ほむらにも、あのドM発言はもちろん理解できていないし、ゾンビの鳴き声と混ざることで、悲鳴にしか聞こえていない。故に、
「変態、殲滅!」
両手のエッジを結合、大剣に変形させ、少年へ飛び切りをかました。
***
「うわっ!」
陽太はアンデッド踏み付けを中断し、スライドステップで回避。ほむらの結合大剣飛び斬りは、アンデッドの腹部にクリーンヒットした。
「って、神崎くん! ってことは、」
「ドMアンデッドが今回の元凶です!」
「なるほどね。斬りかかって、ごめんね」
「だいじょぶです。あと、そいつ、再生速度が馬鹿みたいに速いんで」
「了解」
ほむらはエッジの結合を解除し、元の両刃双剣に戻して、斬りかかる。陽太は背後から、指を鉄砲のような形にして、向ける。
「〝風弾〟」
圧縮空気の弾丸を指先から放ち、牽制。ほむらの連撃により、少しずつ、ノックバックしていく。
「交代!」
ほむらが叫び、後ろに下がる。間髪入れずに陽太が前に出て攻撃に入る。
「〝風牙〟、〝疾風〟」
効果時間が切れた、術式を再展開しつつ、右ストレートに左フック、ロンダートしつつキック、その他諸々。反撃を与えず、ノックバックしていく。逆説的に、受けては再生されていくため結果としてはノックバックしか残っていない。
(やっぱり、大技を入れないとなのか……)
陽太がそう考える。ほむらはその裏で、カードを繰る。そして、目当てのカードを見つけたのか、顔を上げる。
「離れて! 〝赤火球〟!」
赤いバレーボール大の炎の球をを放つ。その火球はアンデッドに寸分違わずにヒットし、燃え移る。――ように見えた。
「〝反射〟」(原文ママ)
アンデッドが人間にも理解できる言語でそう、詠唱した。
「何が?!」
急に意味のできる言葉が発されたのだから、陽太は驚いた。ほむらが放った、【赤火球】はきれいに、移動方向を正反対に飛んだ。その火球はきれいにほむらのほうに向かったが、ほむらはもう一枚、カードを持っていた。
「〝吸収〟」
【吸収】。それは、放たれた魔術のダメージを無効化し、その無効化した魔術のコスト分マナを回復するというものである。そんな中、陽太は、
(反射持ちか。面倒臭くなりそうだ)と、思った。
初めて、敵が話をまたいだよ。
あと、魔光剣について。クラスタの完全下位互換なのですが、どこが劣っているかと言うと、
・耐久値。
・使用者と触れていないと、形状変化できない。
・形状変形にマナの消費が伴う。
・光る。
と、いった感じ。