特訓Ⅲ:ゾンビと緑地と集結
いつものように、三人が駅の前に集まった。
そして、何気ない日常の会話をしながら、自動改札を抜けて、特急の電車に揺られ、地下のホームに降り立った。
「私、ここ来るのいつぶりだろう。最近は府中のほうよく言ってたから」
そう、麗子が言う。
改札へ登り、地上に出る。
こじんまりとしているものの、それなりの高さのビル郡があり、ある程度は発展している。
「こっち」
ほむらが指差す。
私鉄の駅から旧国鉄の駅へ歩く。
途中で横断歩道を渡り、リサイクルショップを過ぎ、ジャンクパーツショップの入った、ビルに入る。
階段を登ると、
「カードショップ鈴木?」
「ようこそ、カードゲームの世界へ」
ほむらがドアを開けた。
「いらっしゃいませ。お、ほむらちゃん、大会どうだった?」
カウンターにいた貫禄のある男性がほむらたちに声を掛ける。
「だめでした〜」
「まあ、第二予選はすごく難しくなるからね。ところで、今日は何しに来たの?」
「友達のカード集めに……って、剣崎!」
【STAFF ONLY】と書かれた、見るからに事務室なところから、見覚えのある顔が出てきた。
「伯父さん、カードの査定終わった」
「お、ありがとね」
「……で、そいつらが、前言った」
「ああ、ほむらちゃんたちがワールドライズで魔術師になった子なの!」
「言ったよな、犬飼ほむらと、赤楚レイって」
「なら、ようこそ、魔術師の世界へ」
店長が、そう、手招きした。
***
「私は鈴木晃司。廉の伯父兼保護者兼上司だ。そして、日本魔術協会日光支部附属東京多摩分室室長だ」
さっき、廉が出てきた【STAFF ONLY】の部屋に入り、そう言いながら店長が三人に名刺を渡す。
「で、カードショップ鈴木はそれのカモフラージュって言うわけだ」
廉が補足する。
「そうなんですか」
麗子が言う。
「確認しておきたかったんだけど、三人は魔術師の世界へこのまま、進んでもいいのかな?」
「どういう意味ですか?」
「この世界では、いつ死ぬかわからない。そんな世界に身を置く覚悟はあるかい?」
「八雲さんから聞いたんです。アンデッドはマナの多い人を狙うって。どうせ、狙われているなら、変わらないじゃないですか。それに、助ける力があるのに、助けないのは、後味悪いじゃないですか」
区切り、
「だから私は、逃げずに、やれることはやりたいです」
「わかった、本登録の準備するね」
手招きして、部屋の端に移動する。
廉がカメラと三脚を持ってきて、置く。
パシャパシャとほむらたちの写真を撮って、パソコンに転送する。
「本部に写真とか諸々のデータ送ったから、カードできるまで時間かかるからね」
そう、店長が言ったとき、
ウィーウーウィーウーウィーウーウィーウーウィーウーウィーウー
特徴的なサイレンが鳴り響いた。
「どうした!」
「魔獣の出現を確認。場所は、多摩市郊外」
「八雲くんたちにも連絡して」
「了解」
オペレーターの広瀬さんと店長がそんなやり取りをする。
「急で悪いけど、魔獣が出現した。三人に出動してほしい」
「「「了解」」」
「ほむらちゃんとレイくんは後ろで見てるだけでいいからね」
そう言って、ほむらたち三人はカードショップ鈴木を後にした。
***
八雲と姉さんと陽太はニュータウンに映画を見に来ていた。
「今年の夏映画も面白かったぁ!」
そう、背筋を伸ばしながら、駅前のバスターミナルに向かう。
「今年も面白かったですね」
姉さんが言う。
そう話しているとき、スマホがなる。
『魔獣が出現しました。場所データは送ったので、至急急行してください』
「だそうだ」
三人がバックワークを被り、走り出した。
***
淡緑と濃緑のラインの走った車両に乗り、橋本で、見慣れたマゼンタの車両に乗り換える。
廉がインカムを取り出し、右耳につける。
「八雲、ついたか」
『移動中。そっちは?』
「あと、15分くらいだ」
『了解』
***
「姉さんと陽太は正面から、僕は回り込んで後ろから行くから」
「わかった」「ライズアップ」
姉さんが懐からシューターを二挺取り出し、陽太がライズスキンに換装する。
「フォトンエッジシェイプ:テンタクル」
マナで構築された白い触手を使い、電柱伝えに移動する。
二人はそのまま、緑地に入っていく。
「陽太くん、魔獣は」
「緑地全体に広がってますね。特に、中心部に強いのがいます」
「わかった。私が、周りの捌くから、中心部に行って」
「〝疾風〟」
陽太が、術式を展開し、風のように移動する。
周りに、ゾンビのような魔獣が押し寄せてくる。
「邪魔だ。〝サイクロン・インパクト〟」
高圧圧縮空気の突風が前に突き出した右手から放たれ、直線上にいた敵を一気に吹き飛ばした。
できた空間を陽太が術式による、追い風で抜ける。
***
八雲は触手で木や電柱を掴んで猿のように移動していた。
魔獣のいる、緑地帯を回り込むように移動する。
その時だった。
閃光に包まれた。
***
ほむらがアラート音とともにドアが開いたと同時に電車から飛び出る。そのまま、階段を文字通り飛び降り、改札をスライディングでぬける。なお、その時、自動改札に端末をしっかりタッチしている。
すかさず、魔獣の出現した緑地への坂を駆け登る。
「ちょっと、ほむら! 速いよ!」
流石、学年最速。レイと廉が改札を出たときにはもう、ほむらは見えなかった。その頃にはもう、ほむらは緑地に入ってたりする。
「ライズアップ!」
『PLAYER LOG IN――HOMULA』
ほむらの体にライズクロスが装備され、
『READY――FIGHT』
「ライズマジック・〝クリムゾンスフィア〟」
赤いバレーボール大の炎の球を魔獣の群れに放ち、空いた空間に走り込む。リミッターを外したことで2本になったフォトンエッジを取り出しつつ、軌道上にいる魔獣を倒していく。特訓の成果からか、隙が小さくなている。右手のエッジで攻撃するときは左手のエッジを不意打ち対策に、左手のエッジで攻撃するときは右手のエッジを不意打ち対策に交互に斬っていく。
――〝リープエッジ〟
それが、ほむらの新たなスタイルだ。
そうこう、ほむらが新技披露しているとき、ちょうど正反対にいた姉さんは、
「こうやって、現実で2挺出すのはいつぶりでしょうか」
八雲のブルシューター69Bと同型――原型である拳銃を2挺取り出す。左手の拳銃を腰の真横に、右手の拳銃を顔の前に構える。
タン
それが、無双の始まりだった。弧を描いて、小刻みに2挺の拳銃は揺れる。マナで生成した弾丸が魔獣に吸い込まれるようにヒットしていき、霧散する。メイジ型のゾンビの火球も、他のゾンビを盾にするように両手の拳銃を撃ちながら、動く。気づけば、ゾンビの人口密度――もとい、ゾンビ口密度は、数分前の半分以下になっていた。
「そろそろ、合流したかな」
***
レイと廉は少し息を切らしながら、緑地に入る。
「ハァハァ、ライズアップ」
『PLAYER LOG IN――LEI』
『METAMORPHOSE――ACCELERATE SPADE JOKER』
レイがデッキケースを取り出し、起動する。それと同時に廉が左腰のカードケースから【METAMORPHOSE】と書かれたカードを取り出し、右腰のライズスペライザーにセットして、本体ごと押し込んだ。二人の身体が光りに包まれ、変身が完了する。
『『READY――FIGHT』』
「ヤァア!」「ウェエ!」
同時に駆け出し、拳を突き出す。見様見真似の、それも、古今東西の武術が混ざったような喧嘩殺法は武術ガチ勢を相手にするには心許ないが、魔獣相手に魔術師が使うには十分すぎる代物だった。レイの氷結のガントレット、廉の剣の拳、どちらも、正直、「殴ること」に意味があるのではない。「触れること」に意味があるのだ。廉は手刀や裏拳などで、魔獣の急所を、斬撃属性のオーラを纏った拳で切断していく。レイの放った右ストレートが当たった瞬間、魔獣が凍結し氷塊になる。そのまま、左手首を固定し、遠心力を乗せた左フックで砕く。レイのガントレットには当たり前だが、物体を切断したりする力はない。だから、内臓破裂や内出血――以前に痛覚という概念がないとされているうえ、高い再生能力を持つ魔獣に対して、(斬撃属性のオーラを持つスペード・ジョーカーを除いて)徒手空拳やハンマーは剣や斧、槍に対して後手に回る。そこでレイは思いついたのであった。
「凍らせて砕けば、再生も阻害できるし、ダメージも高いのでは」、と。
ちなみにシステムボイスは基本的に『』で表記していて、八雲(と廉)由来――ライズスキンとライズスペライザーとリミッター解除使用のライズクロスは大文字オンリーでワールドライズとかの、魔術師協会だののコピー系のは単語の最初だけ大文字になっている。