特訓Ⅱ:模擬戦と触手とガン=カタ
『GAME SET――WINER YOUTA』
「負けた〜」
二人が電脳空間から帰還する。
「どうだった、陽太? 戦ってみて」
「一番はトドメの決定力がない。一撃、一撃はしっかりしてるけど、トドメをさせるほどの威力がない」
そう言いながら、陽太は冷蔵庫から赤いパッケージの板を取り出し、銀色の包み紙をめくってかじりついた。
パリポリと、音を立てる。
「じゃあ、次はほむらの番だ」
そういった、瞬間。
夕焼け小焼けチャイムが鳴り響く。
「もう、五時半か」
そう、呟く。
「四人とも、そろそろ帰ったら? 暗くなるわよ」
姉さんが言う。
「楽しかったです。お邪魔しました」
ほむらが言う。
「暇だから、いつでもおいで。あと、今日やったゲームはいつでもできるからね」
手を振る。
ほむらたちは家を後にした。
「賑やかになりそうですね」
「ああ」
「私も、数十年のブランクを取り戻さなくてわ」
「姉さんの本気は怖いな」
「今が世界の転換点かもしれませんね」
***
次の日。
ほむらは、サバイバーズ・ギルドにいた。
設定をいじって、空間を長い直線にして、更に自身のスタート地点を空間の端にすることで、一方向からしか敵が現れないようにして、フォトンエッジを片手にレギオンと戦っていた。
「ん!」
素早い動きで、敵を倒していく。
この空間は横幅が、人が三人ほど寝れる幅がある。
ほむらは自分の両腕を広げたくらいの幅ぐらいの敵しか裁けていない。
恐らく、戦闘中、視野が狭くなるタイプだろう。
そして、回り込まれて、
「わぁ!」
ゲームオーバーになる。
待機エリアに転移される。
「周り見えてないよ」
「うわぁあ! 八雲さん?」
後ろから声を掛ける。
驚かれた。
「見たら、いたからね。ところで、僕と勝負しない? フォトンエッジのみ縛りで」
「いいんですか?」
「暇だし。面白そうだから」
「それじゃあ、始めましょうか」
ウィンドウを操作する。
「あ。あと、僕は両手使わないからね」
「え?」
ほむらが驚く。
どうやって、戦うのだろうか……
ほむらはそう思った。
『RULE ONE ON ONE』
一瞬、宙に浮いたような感覚とともに、市街地のような空間に転移する。
『READY――FIGHT』
ほむらがフォトンエッジ取り出し、持ち前の俊足で一気に距離を詰める。
そのまま、一閃。
それを最小限の動きで、避け、距離を取る。
「ん!」
急カーブというよりも急旋回のほうが近い、角のある方向転換して肉薄する。
「ちょ、やば」
フィギュアスケーターのような空中回転をし、壁伝いに斬撃を避ける。
それを、ほむらは見逃さなかった。
「ん!」
一閃。
絶対当たる。
ほむらは確信していた。
当たった。
だが、
「フォトンエッジ・シェイプ:テンタクル」
腰骨の上の方から、フォトンエッジを展開する。
それで、ほむらのフォトンエッジと鍔迫り合いをする。
「ちょっとなんですか? それ?」
「その形だけって、説明に書いてあった?」
弾く。
そのまま、左の触手で落下中のほむらを貫……かれずに紙一重で右手に握ったエッジで弾かれる。
「うまい」
「それは、チートだぁ!」
もう一度、壁に沿って飛翔し、肉薄する。
それを落下することで逃げ、牽制ついでに触手で攻撃を加える。
だが、ほむらがエッジで弾く。
「反応速度が高すぎる」
ほむらは急降下して接近し、エッジを振り下ろす。
触手で反対側の建物の屋上の柵を掴み、体を引き上げて避ける。
「ん!」
振り下ろされた勢いをそのままに斬り上げた。
腕に掠った。
「ッ!」
「やった!」
その瞬間、ほむらの胸に痛みが奔った。
***
待機エリアに転移する。
「あの、フォトンエッジってどうやってるんですか?」
「武器説明見た? これって、形状を変えたり、体のいたるところから生やすように出せるんだ。僕、大抵、別の手持ち武器使って手が塞がるから、シェイプ:ブレードと違って手で持たなくていい、シェイプ:テンタクルハンド使うんだ」
ほむらは、よくわからなった。
「フォトンエッジには、大きく2つのシェイプがある。1つ目は、普通の手持ち剣型のシェイプ:ブレード、そして、体の一部から刃を出す、シェイプ:ファング。君が使ってるのは、シェイプ:ブレードで、僕のは、シェイプ:ファングの亜種、シェイプ:テンタクル。通常、マナを緻密に固めることで刃にしているのに対して、これはマナ同士をゆるく結合させる感覚で形成することで、自由自在に動かせるんだ」
腰から触手を取り出し、ぐねぐねと操作する。
「あと、リミッター外したから、もう一つ使って二刀流にしたら? 攻撃直後が隙だらけだったよ」
「は、はい」
「あ〜。いい汗かいたぁ〜」
そう、話していたら、姉さんが待機スペースに転移してきた。
「結果はどうだった?」
訊く。
姉さんはニッコリと口角を上げ、左手でピースサインをする。
「レギオン、ハードモード、ノーダメクリア♪」
音符のつきそうな声色で言う。
「そう」
「物足りないから、もう一周してくるわ」
そう言って、ウィンドウを操作した。
「あれのハードモードをノーダメージクリアって、天音さんすごいですね」
「まあ、姉さんの場合、才能型だから、真似、ほぼできないけど……」
観戦ウィンドウを開く。
そこには、巫女服を着た、姉さんがいた。
『READY――』
懐から、二挺の白い拳銃を取り出す。
その拳銃には、赤いラインが走っていた。
『――FIGHT』
一斉に量子演算により、電脳空間に構築された魔獣が出現する。
一方向に、反動を利用して連続で引き金を引く、ラピッドファイアをし、空間を作る。
そこに移動しつつ、ぐるぐると、腕を振りながら、連射し、数を減らしていく。
ジリジリと、確実に、数を減らしていく。
「す、すごい」
「ガン=カタって言うんだけど。本来は、恐ろしい量のデータを頭に詰め込んで、恐ろしい量の演算をして、統計学的に有利な位置をとり続けるっていう技術なんだよ」
「そうなんですか」
ほむらが頷く。
「――で、姉さんはそれを感覚でできるらしんだよね」
「す……って、それこそチートでは?」
「うん。数十年頑張って身につけた、ベテランガンマンが大泣きしちゃうくらい」
そう話している間にも、第1ウェーブどころか、第2ウェーブも消化していた。
「そういえば、ハードモードってどういう内容なんですか?」
「敵の数は、ノーマルモードと変わらないよ。ただ、質が違う」
「質?」
「敵の種類が、通常のやつの他に、アサルトライフルを持ったガンナー兵に、馬鹿みたいに硬いタンク兵、すごく速いアサシン兵といった、多種多様なエネミーが出てくる」
「恐ろしいですね」
「多分、ほむらが本気出したら、簡単に終わっちゃうけど」
「どうしてですか? ……あ!」
「そう、インフェルノを使うとひとウェーブ、瞬殺だから」
「あれ、あんなにすごかったんですね……」
ほむらが苦笑いする。
気づけば、全6ウェーブ、最後のボスを倒したところだった。
『GAME CLEAR』
姉さんが待機エリアに帰ってきた。
「やっと、感覚が戻ってきた」
手をグーパーさせる。
「お腹すいた」
「なにか作るよ、姉さん」
「頼んだ、弟」
「じゃあ、今日はここまで、じゃあね」
現実世界に転移した。
***
その後、ほむらは新たにフォトンエッジをもう1つ追加して、練習した。
次の週、大会でつい、うっかり練習の癖で、インフェルノをドロップしたせいで、劣勢になり、一回戦敗退となった。
「悔しい!」
ほむらがそう愚痴る。
「今回も二人揃って、一回戦落ちかぁ」
レイも落ち込む。
そこに、応援に来ていた、麗子が呟く。
「面白そうだな〜、ワールドライズ」
「やってみる!?」
急に元気になる、ほむら。
「うん」
「じゃあ、明日、一緒にみんなで、カードショップ行こう!」
三人の予定が(半強制的に)埋まった。