旅行Ⅵ:二日目と京都と変な人
「あー楽しかったね」
バスから降りながらほむらが言う。
「明日は京都巡りか」
「道に迷いそうで心配だ」
「うえぇえぇ、吐きそう」
レイと剣崎と麗子が呟く。
「じゃ、明日」
「明日ね」
ほむらとレイがそう言って、別々の建物に入る。
男子と女子で宿舎の棟が分かれている。
「クソ、リア充爆散しろ!」
剣崎は心のなかでそう、思った。
***
18時間後
「おはようございまーす。今日は9月27日、修学旅行2日目です。今日も元気に楽しみましょう!」
ラジオ体操第一をBGMに校長先生が朝とは思えないぐらいのハイテンションで放送した。
深夜テンションで1時近くまでゲームをしていた205号室――剣崎とレイとクラスメイトの陣秀一の部屋は重々しいどんよりとした雰囲気が漂っていた。
「ねみぃ」
「ふあぁ」
「……」
そう、一人一人つぶやきながら、陣はゲーミングラップトップをしまい、剣崎は着替え始める。
一人、早めに寝ていた剣崎は流れるように顔を洗い終わっていた。
朝ご飯は白米、ベーコンエッグ、コンソメスープとあっさりめで、夕食(すき焼き)の重さ故に、非常に軽く感じる。
黙々と食べ、持って行く荷物をリュックサックに詰め、部屋を出た。
***
宿舎の前のバスの乗り入れ口で、ほむらと麗子と合流する。
最寄り駅へ歩き、電車に乗る。
「朝方だから、混んでるね〜」
麗子が呟く。
駅に停まり、中学生やスーツを着た大人が続々と入ってくる。
その中に、こっちを見てくる純白のジャンパーを着た中学生ぐらいの背丈の男子がいた。
「なんか見てくるやつがいるんだけど」
ほむらが指差し、言う。
剣崎が一瞥し、神速で視線そらし、
「多分不審者だよ。目を合わせないようにしよう」
その顔は実に嫌そうな顔をしていて、嫌な予感があるように見える。
その、嫌な予感は的中してしまった。
「あ、廉見っけ」
純白の少年は右手で銃のような形して指差し、かくれんぼしている子どものような声を上げる。
「え?!」
麗子が驚いた。
***
「なんだ、剣崎の友達か!」
レイがいう。
「そう、僕は隣の市のH野市立百草中学校三年の八雲だ、廉と同じく魔術師で――」
そう、八雲は一回言葉を区切る。
ふと、ほむらとレイと麗子は剣崎の下の名前を久しぶりに聞いたと思った。
「神だ」
その瞬間、ほむらとレイと麗子のヤバい人ランキングが一気に動き、佐藤が一位になった。
***
ほむらたちは目的地の最寄り駅である宇治駅についた。
何故か、八雲もついてきた。
「だって、僕も平等院行くんだもん」
そう言いながら、しおりのスケージュール表を見せた。
そこには――
「俺達と全く同じじゃねぇか」
剣崎が吠えた。
「しょうがないじゃん、今日休んだ奴らが決めたんだもん」
つまり、たまたまらしい。
「ところで、八雲さんの班の人は?」
「全員休んだ」
「「「ッ??!!」」」
麗子が数学旅行中の男子中学生が一人でいるという素朴な疑問を聞き、予想外というより、気の毒な返答をされたため、ほむらとレイと麗子が驚く。
「まぁ、気楽でいいんだけど」
そのまま、八雲は歩きだす。
「あ。これ渡すの忘れてた」
数枚のカードを懐から取り出し、剣崎に投げ渡す。
「もう取ってきたのか……てか、ここから、八王子まで一日で往復したのか?!」
「知ってるか? 神様には時間は関係ないんだぜ」
ほむらとレイと麗子の八雲に対するヤバい人度が更に跳ね上がった。
***
昼食。
八雲は違う昼食場所だったらしく、途中で別れた。
どうせ、後で合流してくるのだろうが。
そう、剣崎が思いつつ、京風醤油ラーメンを啜る。
そして、思い出したように、さっき、八雲に渡されたカードを取り出し、ほむらとレイと麗子に渡す。
「なにこれ?」
「魔術師仮免許証。とりあえず、京都で奴らと会うと面倒だからな」
「あと、麗子には魔術情報処理士仮免許しょ……なにこれ?」
カードに挟まっていた、メモが落ちる。
麗子が拾い、読み上げる。
「どれどれ、『今日の夜、緊急で任務が入った。仮免でもいいから、京都市内いる、魔術師全員召集だって。もちろん、剣崎は負傷していて使い物にならないから、来なくていいよ』だって。どうやって抜け出すの、宿舎?」
八雲からの伝言が書かれていた。