微笑み2
月日は流れシオンが10歳になった時に戦争が起こった。
隣の国が攻めてきたのだ。
隣の国は雨が降らず水不足になり、作物が育たず食糧難になったのが戦争の切っ掛けだった。
フレイムハート家の領地は運の悪い事にその隣の国に隣接しており、第1に攻められる領地だった。
すぐに軍を派遣し、国境の渓谷が決戦の場所となった。フレイムハート家当主シオンの父も大将として出撃し、兵士の士気を上げるためにシオンも同行させた。
無論、劣勢になればシオンだけは逃げさせる手筈でだ。
小高い岩山の上で陣取り、一触即発の軍勢を見下ろしていた。
「向こうは5千、こちらは3千か……数では劣勢だな」
敵の進行が早く、王都からの援軍が間に合わなかったのだ。
「お父様、でも向こうの軍勢は覇気がありません。皆さん飢えているのでは?」
シオンの言葉に、ハッとなる。
「食糧を融通すれば戦争にならないのでは?」
「確かにそうだが、それは一時的なものだ。雨が降らなければ、隣国の全ての人々の食糧を支援する事は出来ない」
お父様の言う事はもっともだ。
シオンは何か方法が無いかと、岩山の上にあった大きい岩に寄りかかるとガコッと、岩が山から崩れ落ちて兵の居ない横の渓谷に落ちていった。
「お嬢様!ご無事ですか!?」
その場にいた父を始め、側近達が驚いてシオンを見ていた。
「シオン!何をしている!?」
心配の余り、つい強い口調でシオンに怒鳴るが、下の渓谷の谷底からゴゴゴゴッと音が聞こえてきた。
「な、何だ!シオン!何をした!?」
私が聞きたい!
何が起こっているの!?
ゴゴゴゴッ!!!!
音はどんどん大きくなり、遂にその正体が判明した。水だ!渓谷の谷底から乾上がった過去の川の跡の上を、鉄砲水が物凄い勢いで隣の国へ流れていった。我が軍も、隣国の軍も唖然として横を流れていく物凄い量の水を見ていた。
どうやら山々に降って流れていた地下水脈をダイレクトに大きな岩で岩盤を砕いたことで吹き出したようだ。(推測ですが)
お父様はすぐに停戦を呼び掛け、当面の食糧を支援することで戦わずに終戦した。
流れた鉄砲水で隣の国の中央に近い所に【大きな湖】が出来て、国中の田畑に水が行き渡るようになった。それに連動して枯れ井戸も復活し、水不足に悩まされることが無くなった。
国として王国に正式に謝罪し、シオンを【聖女】として認定し自国以上にシオンを持ち上げた。
…………私、何もしていないのですが(汗)
そんなこんなで12歳になり、【学園】に入る年齢になりました。
12歳にもなれば母親譲りの長い綺麗な髪をクルクルと廻した髪型にして貴族っぽい雰囲気にしました。
(それが悪役令嬢のスタイルです)
【偏見ですがなにか?】
この王国では貴族は12~18歳まで【王都】にある学園に入り勉強と貴族としての、横の繋がりを作る事を目的に入学するのです。
成績順でクラス別に分けられ、Sクラス、Aクラス、Bクラス、Cクラスの4つありこれは学業の成績順でそこから自由科目の魔法科、騎士科、商業科、内務科と分かれます。
成績のクラスがCでも将来目指す科目で優秀な成績を修めれば推薦されるのでSクラスだから一番と言うことではないのです。
まぁ、Sクラスの人々が優秀なのは事実ですが。
優秀な人材発掘のため平民の方も優秀な成績を修めれば入学出来るのもポイントです。
特に、商業科目は平民の方々は半分を占めます。
ああ、私は魔法科目を選択しています。
Sクラスです!
学園には寮もありますが、私は馬車での通学です。王都にある別宅から近いので。
「お嬢様、もうすぐ学園に到着致します」
護衛騎士で、私の側付きのグレイさんです。
過去に盗賊に襲われた時、瀕死の怪我をおった騎士さんです。あれから私に感謝して死にもの狂いで訓練し、達人級の腕前になっています。
「ありがとう……」
一言、そう言って微笑む私でした。
グレイの心境
『お嬢様のお声が聞けただけで1日生きていける!』
余り聞く事の無い私の声を、今日聞けたかどうか使用人の間で自慢になるそうだ。
(なんだかなー)
学園に付き馬車から降りると何故か、全校生徒?が左右に分かれ待っていた。
何だろう?
ああ、王子様と王女様も入学されるので待っているのかしら?そんな事を考えて歩き出すと歓声が沸き上がった。
「きゃー!微笑みの令嬢様よ!?」
「聖女様だ!!!」
「戦争を1人で止めた英雄だ!」
「令嬢なのに領地で民のために行動している貴族の鏡の方」
なんだ!なんだ!なんだ!?
わたし……?
私を待っていたの!?
どうしよう!!!?
よし!いつもの手でいくぞ!!!
すでに飽きてきた読者もいますが、取り合えず微笑んで歩き出した。
「あぁ、なんて素敵なの!」
「あの微笑みで癒される」
「わたくしに微笑んでくれましたわ!?」
失神する女生徒が続出した。私は知らんよ?
後方から何よこれは!?イベントが違うじゃない!とよく分からない声が聞こえてきたが無視して学園に入った。
Sクラスに入るとキラキラした【男性達】に囲まれた。
「微笑みの令嬢様、お会いできて光栄です」
膝を付いて手の甲にキスをしてきた。
「私はアーレスト・クロス・イージスと申します」
ああ、代々宰相を輩出している3大公爵家のイージス家ですね。どこの誰だかわかりホッとして微笑んだ。
「なんと可憐な………」
私の顔を見て固まるアーレスト様。
(ロングヘヤーの女性のような中性的な顔立ち)
その後、代わる代わる同じ挨拶をされました。
この国の第1王子のレオン・クロス・エルネシア様
(サラサラな金髪碧眼のザッ!王子様って感じ)
(この国の王族の血縁が入るとサブネームにクロスが入る【交わる】という意味で)
そして前に攻めてきた隣の国の王子のクロウ・エンミリオン様
(艶のある黒髪で片目が隠れている美形)
「貴方のおかげで我が国は救われました。自国の民を救う為に、この国に戦争を仕掛けたのは許されない行為だと分かっております。それでも私は貴方の側に居たいと思います」
「おい!いきなり挨拶ついでに私の婚約者を口説こうとするな!」
レオン王子様が割って入って来ました。はて?私に婚約者などいましたかしら?私が首を傾げるとクロウ様が言い返しました。
「ふっ、嘘をつくな!シオン様に婚約者など居ないことは調べが付いている。婚約者候補として名前が上がっているだけだろう?」
ちっと、レオン様が小さく舌打ちをしました。
「シオン嬢。本日は顔見せだけで授業がありません。学校が終わった後はお食事でもいかがですか?」
アーレスト様に誘われてしまっています。どうしましょう?
「おい!アーレスト!抜け駆けするな!」
ああ、アーレスト様とレオン様は幼馴染でしたのね。そこに王女様もやって来ました。
「流石は微笑みの令嬢ですわね。モテモテで羨ましいですわ♪」
王子様と王女様は同じ母親から産まれたご兄妹であります。何度かお茶会で会っていますね。
「ここは同じ女の子同士、お話しましょ!」
私は王女様に引きずられて行った。
愚者の声
「さぁ、始まりました!恋愛ジャンルだけど恋愛に発展しない小説です!」
シオン
「それは愚者の声が無能だからじゃありませんの?」
愚者の声
「サラッと酷いこと言わないの!これから頑張るんだから!」
シオン
「それで何年も放置なんて最低ーですわね。せっかくお気に入りも千を超えてましたのに」
グサグサッ
精神ダメージ9999
愚者の声
「スミマセン………デシタ」
ガクッ




