微笑み20
それは突然だった。シオンは今の状況が呑み込めず何が起こったのかわからなかった。ここは学園の二階から三階に続く階段の折り返し地点である。そこでシオンは隣国の王子クロウ・エンミリオンと抱き合っていた。
『えっ?えっ???』
シオンは戸惑うばかりで頭が廻らなかった。クロウはシオンを抱き締める力を強め、シオンもクロウにしがみつくしか出来なかった。
「シオン様、大好きです」
クロウはシオンの耳元で囁くように告白した。
シオンは真っ赤になってうつむき、小さい声で離してというと、やっとクロウはシオンを解放した。
シオンはそのまま逃げる様に走っていった。
さて、話を戻しましょう。
なぜこうなったかと言うと単純である。シオンが階段を踏み外し、たまたま下を歩いていたクロウが抱き止めただけであった。
しかし、この状況だけを見た場合は恋人同士が、人気のない所でイチャイチャしているだけに見えるだろう。
(きー!羨まけしからん!)
そして、成り行きでシオンに告白してしまったクロウも、自己嫌悪に陥り壁に寄りかかり頭を抱えるのであった。
更に間の悪い事に、この抱き合う二人を見てしまった生徒が居たことで、話はややっこしくなった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
フレイム・ハート家にて
『きゃー!クロウ様に抱き締められて告白されちゃった!』
大きなベットの上でゴロゴロと悶えるシオンがいた。シオンは意外にも同年代からの告白に免疫が無かった。
公爵令嬢として、救国の英雄として、崇められることはあっても愛を囁く告白はされた事が無かったのだ。
まぁ、シオンに寄ってくる狼達をシオンの父親がガードしていたのが理由である。
いや、シオンを穢れさせないように屋敷の使用人達も自らがシオンをガードしていたと言って良いだろう。
本当の意味でもシオンは箱入り娘であったのだ。
逆にシオンは小説にて、にわか知識だけは付いていった。だからといって本当に小説の様なシチュエーションに対応出来る訳が無かった。
そんなシオンを、侍女の達が何かとあったのかとヒソヒソと話し合い、お嬢様にも春が来たのかしら!?とキャーキャーと盛り上がるのだった。
実に平和なフレイム・ハート家であった。
そして実家の方では、父親と母親がシオンに会えず、仕事を放り投げて会いに行こうとする二人を、執事達が必死に止めていたのは後日談で話します。(笑)
次の日になり、シオンは知恵熱を出して休むことになる。それが実は不味かった。学園ではシオンとクロウが抱き合っていた噂が瞬く間に流れていたのだ。しかも、クロウもクロウでシオンに会うのが恥ずかしく、学園を休んでいた。
噂を止める者がいなく、二人が一緒に休んだことで、二人で何処かに出掛けたのでは?と噂に拍車が掛かってしまった。
その噂の真偽を確かめ様にも肝心の二人がいないのだ。その噂を聞いたセーラ王女の殺気は凄まじいもので、クロウを殺す勢いで学園中を探して駆け回っていた。
ユーリはシオンがまさかーと、抱き合っていた理由をほぼ完璧に推測していた。あの鈍感なシオンがーとね。
でも、面白いことが好きなユーリは敢えて静観していた。
そんな事になっているとは知らずに、シオンはふかふかのベットでシルビアとスヤスヤと眠るのであった。
「読者の方から出会いは突然にと言われたので書いてみました」
シオン
「出会いというより、事故ですけれどね」
愚者の声
「これからちょっとずつ意識していくようになるんだよ!」
シオン
「へぇ~?」
愚者の声
「な、何かな?」
シオン
「だって私にはすでに心に決めた人がいるのですもの…………」
愚者の声
何だってーーーーーーー!!!!!!
Σ(´□`ノ)ノ