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兵法とは平和の法なり  作者: MIROKU
慶安編 幽玄の恋
25/40

女難の一環


   *


 ――女の頼みを聞くと、ろくな事がない……

 七郎は人生を振り返る。人生の転機を迎えた時、彼は必ずといっていいほど、女性から無理難題を頼まれた。

 春日局から頼まれて、将軍家光の辻斬りを止めた。

 真田幸村の娘に頼まれて、大納言忠長の狂気を鎮めた。娘は忠長の愛妾であった。

 島原の乱で出会った少女の最期の頼みは、人々の平和のために戦ってほしいだった。だから七郎は江戸を守る戦いに身を投じた。

 禁裏での極秘活動の際には、月ノ輪なる女性から無刀取りの指導を求められた。月ノ輪は家光とも血縁関係があった。

 茶屋の看板娘おりんもまた七郎に告げた。江戸の平和を守ってと。惹かれあっていた七郎とおりんだが、別の相手と祝言を挙げた。今では七郎には娘が、おりんには息子がいる。世の子どもの未来を守るために戦う、それが七郎の信念だ。

 更には金井半兵衛からも頼まれている。由比正雪の意志を継ぎ、理想の平和のために戦ってほしいと。

 金井半兵衛は女であった。今は由比正雪の御霊を鎮めるために尼僧となっていた。

 こうして七郎は戦い続けているのだ。

 歴史の裏に展開された凄絶な戦いに臨んで生き延びたのは、奇跡としか思われない。

 あるいは女の願いを受けて戦う七郎には、勝利の女神がついているのかもしれない。

 私欲ではなく義のために戦うならば七郎は天である。

 だからこそ常勝無敗だったのではないか。それが七郎への、天からの報酬でもあったのだ。

「……まあいい」

 七郎は瞑想から覚めた。長屋の自室を出ると、杖をつきつつ歩き出した。

 茶屋に行くのもいい。湯屋に行って、そのついでに娯楽室で誰かと将棋を指すのもいい。

 父の墓参りも悪くない。公の彼はすでに死んでいる。

 将軍家剣術指南役、柳生十兵衛三厳。

 その十兵衛は鷹狩りの際に謎の死を遂げたとされている。

 今は、ただの隻眼の七郎だ。

 その七郎の後継者もいた。

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