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兵法とは平和の法なり  作者: MIROKU
寛永編
2/40

第二回

 魔性は人の心から生まれる。人の心中に生じた悪意、即ち魔が超自然的な力に導かれて具現化するのだ。

 島原では人々の悲しみから魔性が生じた。この静観な武士の居住区からは何が生まれるかわからない。

 日も暮れかけた頃、七郎は腹が空くのを覚えた。辺りを見回すが、この近辺に酒場の類は見当たらない。

「お、うどん屋か」

 七郎は日も暮れかけた中にうどんの屋台を見つけた。彼の仲間の源という男も、江戸市中でうどんの屋台を引いている。

「すまん、うどんを一杯」

 七郎は屋台に近づき、床几に腰かけた。屋台のうどんは七郎に馴染み深いものだ。

「へい」

 店主らしき男は火を起こして湯を沸かしながら、七郎には振り返らずに答えた。

「こんなところで屋台を出して客は来るのか」

 七郎は探りを入れてみる。武家屋敷の並ぶ通りにうどんの屋台とは。武士階級の者が気楽にうどんを食いに来るのだろうか。

「へい、来まさあ」

 店主はやはり振り返らなかった。

「お侍さん方がですねえ、小腹が空いたと言って、うどんを買いに来てくれまさあ」

「なるほど」

 七郎、思わず苦笑した。気持ちはわかるのだ。

「お客さんは何を?」

「まあ、俺はごろつきに思われるだろうが…… まあ、似たようなものかな」

 七郎は答えて、店主の態度を訝しむ。店主は背を見せたまま、湯を沸かす作業に従事している。それはいいが、なぜ一度も七郎に振り返らないのか。

 そして七郎は気づく。すでに日は暮れかけて黄昏時だ。昼と夜の重なる時間帯であり、この黄昏時に出会う者全てが人間とは限らぬ。

「このあたりは化物でも出そうだな」

 背中をヒヤリとさせて七郎はつぶやいた。何やら得体の知れぬ不安があった。不安は店主を始点としていた。

「化物ですかい」

 店主は七郎に振り返った。七郎は思わず床几から腰を浮かせた。

 店主の顔には目も鼻も口もない、平べったい肉の面であったからだ。

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