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したたかに謳って♪  作者: 凪沙 一人
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ep.54 誤解と曲解のブラスカ立つ!

 見事にミスト=エイリアス(ツヴァイ)を倒したドリュフォロスだったが、アトリには一抹の不安が残った。

「ドリュフォロス殿、ミストが本当に互いに繋がっているとしたら…… 」

 そこまで聞いてドリュフォロスは掌を広げてアトリの言葉を遮った。

「言いたい事はわかるが、そいつは認識されたら、だろ? 不意討ち噛ましたから認識なんて出来てねえと思うぜ。こいつは唯一オレオンから学んだ事なんだが、相手の実力が分からない時は喩え卑怯と言われようとも不意討ち、奇襲を仕掛け、自分より強いとなったら多人数、ダメだと思ったら穴捲くって逃げりゃいい。生き残った者が勝者だってな。あれほど正々堂々って言葉から縁遠い勇者も珍しいが、実際あいつは生き残った訳だし。そんな事より早いとこヘロンの旦那を助けに行かねえと。ホント本気出さない人だから。」

「ドリュフォロス殿はヘロンの本気を見た事があるのか?」

「いや無い!けど本気出さないで魔王を退けたって事は、その強さは桁違いに決まってんだろ? まあ、だからこそ周囲を気にして本気出さないんだろうけどな。あと俺の事は殿は要らねえ。ドリュフォロスって呼んでくれ。」

「わかった、ドリュフォロス。力を貸してくれ。」

「おうよ。ま、ヘロンの旦那に何かあったら俺がマリアンヌに殺されちまうからな。聖女と魔女の差が激しくていけねえぜ。」

 ヘロンが全力を出した時をアトリも見た事が無い。それはヘロンの強さ故だと思っていたが、ドリュフォロスの話しからすればアトリの思う以上の破壊力を秘めているようだ。ならば恐らくはヘロンが凍国領内で全力を揮う事はないだろう。だからこそ苦戦している可能性は否めない。

「早くヘロンの応援に行きましょう!」

 言うが早いかアトリは駆け出した。

(あんな焦らなくても、殺られる事はねえと思うんだけどな。)

 アトリたちが駆けつけると案の定、ヘロンはピンピンしていた。寧ろフレアたちの方が攻め疲れをしている感じだ。

「気に入らないねえ。この妖界六禍戦、妖焔のフレア様を翻弄し弄ぶ男が居るなんて許せる話じゃないのよね。」

「ええい、敵とはいえ、また女性を弄んでいるのかっ!?」

「まだ、そのような事を言うかっ! 」

 誰よりも真っ先に口を開いたのはエクレアだった。

「・・・もういい。ヘロン、貴様の事は信じていないが、貴様を選んだ姉さんの男を見る目は信じる。姉さんを泣かすような事があれば僕が許さないからな!」

 なんでそうなる? と、この場に居たブラスカ以外の全員がそう思ったが、ヘロンたちからすればフレアたちを退ける方が優先課題だ。

「なんか微風そよかぜシスコン坊や、立ち直った……ってより開き直ったって感じだね。」

「なんとでも言うがいい。僕は姉さんが幸せだと思える方に全振りする!」

 思わず止めようとしたアトリの肩にエクレアが手を掛けて首を振った。

(やっと、やる気になったみたいだから、説教は後にしよ。)

 相変わらずアトリのモヤモヤの種は尽きないのだが、取り敢えず戦力的には6対3と有利になった。正確にはヘロン一人対六禍戦三人でも飽和攻撃は可能であったが、人海戦術となれば頭数が要る。

「ネージュの奴、とんでもない助っ人を呼んできたみたいだねえ。なんか知らない顔も増えてるみたいだし出直すとするよ。」

「逃すかっ!」

「「追うな。」」

 逃げ去るフレアを追おうとしたブラスカをヘロンとエクレアが同時に止めた。

「けど姉さん、義兄さん…… 」

 振り向いたブラスカの言葉に一瞬、ヘロン、エクレア、そしてアトリが凍りついた。そして直ぐ様、エクレアはアイズ、ドリュフォロスを含めた四人に耳打ちをした。

(すまないが、ここは話しを合わせてもらえないだろうか? もしかしたらブラスカが一人立ちする千載一遇の機会かもしれない。)

 敵からも『微風そよかぜシスコン坊や』などと呼ばれているぐらいなのだから実の姉としては気掛かりなのだろう。とはいえアトリの心中は察するに余りある。

(話は分かった。自称『嫁』が一人や二人、増えた処でもう慣れた。だが本物の嫁は私だ。死が二人を分かつまではな。)

(いや……死が二人を分かつとも、だよ。)

 エクレアに呆れていたアトリだったが、輪を離れる直前のヘロンの言葉に赤面してしまった。

「ブラスカ、深追いしても領地の外は妖霧が立ち込めていてこちらが不利だ。敵陣に打って出る時は僕が行く。その時は凍国の守りは頼むからね。」

「承知した、義兄さん!」

 そんな様子のブラスカを見てアイズが笑いを堪えながら尋ねた。

「ヘロンとエクレアの仲を認めたのはわかったが、いちいち『義兄さん』と言わねばならぬのか?」

 するとブラスカは苦渋の表情を浮かべた。

「言わないでください、アイズさん。これは一種の自己暗示なんです。頭では姉さんの幸せの為と分かっていても感情が許せないんです。なんで妻帯者なんか……いや、だから自分を無理にでも納得させようとしているんです!」

 もはや色々と間違ってはいるのだが、姉の幸せを想う弟と弟の自立を促したい姉の涙ぐましい姿にアイズはなんとも言えない気分にさせられていた。

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