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したたかに謳って♪  作者: 凪沙 一人
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ep.51 アポカの娘

 身構えたヘロンたち三人の前に妖霧を掻き分けながら一人の人物が近づいて来た。

「シルフィ? お早いお帰りで。」

 それは今朝ほどブラスカが現れた処でヘロンの前から立ち去った筈の妖界六禍戦・妖嵐のシルフィだった。

「さっきぶり。こっちは一国攻めるのに6人で回してるから大変なの。そっちはヘロンなんて助っ人呼ぶから微風そよかぜシスコン坊やのメンタル揺さぶって崩したと思ったのに今度はアイズ? 貴女引退したんでしょ? 何ちゃっかり帰って来てんのよ! 」

「拙者は退役しただけで引退した訳ではござらぬ。」

 澄ました顔で答えるアイズにシルフィは肩を落とした。

「はいはい。剣の道に引退は無いっ! とか言っちゃうんでしょ? 今回のミスト=エイリアスは妖霧を濃いめ増し増しで発生させてるのにヘロンもアイズも平然としてるし後ろのお嫁ちゃんもヘロンが守ってんでしょ? レイが見たら癇癪起こしそうよ。」

「ん? 妖煌のレイはヘロン殿に気があるのか? 」

 何食わぬ顔でアイズはシルフィに尋ねたがアトリは内心、気が気ではない。

「え? 違う違う。恋愛に興味ありませんって顔して実は結婚願望ありありの拗らせちゃんだから。まあ自分より速い相手っていうのは、こんなの初めてって感じだから興味はあるかもね。」

「胡蝶蘭さぁ、アトリのメンタルも削ろうとしてる? 」

「あら、ヘロンってもう少し鈍いタイプだと思ったのに。」

 シルフィがヘロンの反応に意外という顔をしていると冷静……というよりは冷徹か冷酷といった感じのトーンの声がしてきた。

「何をいつまでも、くだらない不毛な会話をしているおつもり? 」

「エク様!? 」

 だがエクの顔を見て反応したのはシルフィだけではなかった。

「誰かと思えばコリーさんの娘さんのヨミちゃんだよね? 」

 するとエクは怪訝な顔をした。

「誰と間違えているのか知らぬが妾は妖帝アポカ=リプスの娘にして妖界六禍戦が一人、妖冥エク=リプス。コリーなる人物もヨミなる名も知らぬ。」

「本当に? コレット(小さなコリー)。」

 その瞬間、あきらかにエクの表情が変わった。

「ヘロン、知り合いなのか? 」

 状況が飲み込めず、さすがにアトリが尋ねた。

「ざっくり言うとマリアンヌの腹違いの妹。多分、自分や親の名前は記憶から消されてるみたいだけど子供の頃の愛称まではアポカも気が回らなかったみたいだ。」

「マリアンヌ? 」

 今度はアイズが首を捻った。

「アイズにはマリアモンって言った方が早いのかな。」

「マリアモンの妹? では彼奴も魔王の? 」

 アイズの問いにヘロンは黙って頷いた。

「コレット、僕の顔を覚えてないか? 」

 ヘロンの呼び掛けにエクは頭を押さえて俯いていた。

「知らぬ……知らぬ知らぬ知らぬっ! 貴様の顔もコレットなどという名も知らぬっ! シルフィ、あとは任せる。」

 エクはそう言い残して引き上げてしまった。結局のところ何もせずにエクが居なくなってしまったので残されたシルフィとしては困惑してしまう。

「ああ、なるほど。なんだかよく分からないけど、あれだ。こっちがブラスカのメンタル削ったから、エク様のメンタル削ったんだ? どっからネタ仕入れたか知らないけど味方がメンタルダウンで居なくなるって見た目じゃ分からないから戸惑うもんなんだ。やられてみて初めて分かったよ。で任せられても一対三なんて、しかも相手があんたらじゃ勝ち目なんか無いじゃないねぇ。という訳で私も退散しまぁす。まったねぇ! 」

 現れた時とは打って変わって一目散に居なくなってしまった。

「うぅん、別にネタじゃないんだけどなぁ。」

「その話しは後でちゃんと聞かせて貰うとして、先にこの妖霧をなんとかせねばなるまい。」

 アイズの言うとおりシルフィもエクも居なくなったというのに一向に妖霧が晴れる気配はなかった。

「そうだね。シルフィの言っていた今回の(・・・)ミスト=エイリアスはヨミじゃないみたいだし。」

「やれやれ、どうやら戦闘力はあるが情報収集能力は大した事、無さそうだな。」

 現れたのは真っ黒いフードを被った人物だった。

「どうやら貴殿が今回の(・・・)ミスト=エイリアスという事でよいのかな? 」

「難しい質問だな。正解だが不正解だ。吾が名はミスト=エイリアス(ドライ)。有り体に言えば六禍戦の3番目の予備スペアという事になる。吾らは一にして全、全にして一。だから何番目のミストの起こした妖霧であろうとも吾のものであり他のミストのものでもある。」

 それを聞いてヘロンは溜め息を吐いた。

「はぁ…… 面倒臭いから、そういうのいいや。要するに六禍戦の予備軍のミスト=エイリアスっていうのが複数居る訳ね。で、ドライから生気を感じないのはどうしてかな? 」

 ドライと呼ばれてフードの人物は苦笑した。

「ククッ。そうか、ドライか。吾らの創造主たるアポカ=リプス様でさえ吾らを個別認識されぬというのに吾をドライと呼ぶか。面白い奴だ。気に入ったから答えてやろう。生気を感じないのは吾が人ならざる者だからだ。」

 そう言った瞬間、ドライは黒い霧となったかと思うとアトリの後ろに回った……かに見えたが実体化する前にアトリはドライに向かって身構えていた。

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