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したたかに謳って♪  作者: 凪沙 一人
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ep.50 妖霧

 ヘロンたちが宿屋に戻るとネージュが訪れていた。

「朝から両手に花とは羨ましいな。」

 ネージュの反応に思わずエクレアが顔を曇らせた。弟のブラスカが法廷で妄言、戯れ言を吹聴しているのではないかと危惧したからだ。だが、真偽は別として六刃将次席雷刃将エクレアが男に誑かされているなどと噂になれば六刃将にも一族にも汚点となるくらいの判断は、いくらブラスカでもするだろうと思われた。

「朝から何の用? くだらない冗談言いに来た訳じゃないだろ? 」

 ネージュは苦笑して頷いた。

「ああ。今日はエクレアに用事だ。」

「私? 」

 不意に名前を出されてエクレアは怪訝な顔をした。

「エクレアから申請のあった法廷の執務室での宿泊許可が下りたのでね。」

「それをわざわざネージュ殿が。いや、助かります。これ以上ヘロン殿の所に居ては弟の妄想に拍車が掛かるやもしれぬからな。」

「妄想? 」

 エクレアの発言に首を傾げた処を見ると、やはりさすがにブラスカも法廷では何も言っていないようだと少しエクレアも安堵した。

「いや、なんでもない。これ以上、ヘロン夫妻のお邪魔をしては悪いからね。今朝はせっかく愚弟を説得して貰うチャンスだったのにブラスカったら取り付く島も無くてゴメンなさいね。」

「いや、こちらこそ説得を買って出ておきながら、つい剣を向けてしまった。」

「それは私も一緒だし、あれはブラスカが悪い。」

 脇で聞いていたネージュがクスクスと笑いだした。

「なんとなく話しの概要は見えてきたよ。ヘロンを連れてきたのは私だからね。私からもブラスカにそれとなく諭してみる。それとエクレアの件とは別にヘロンに忠告だ。ここ数日、凍国周辺で妖霧が濃くなっているから国の外には出ないようにな。」

「妖霧? 化瘴みたいなもの? 」

「いや、もっとたちが悪い。化面のような者を介在しなくても生物に影響する。法王猊下の領域に入って来れない処を見ると凍国に攻撃的な霧という事になるだろう。」

 化瘴よりも質が悪いと聞いてヘロンはやれやれという感じで眉を顰めた。と同時にアトリもやれやれという顔をしていた。

「こんな時まで息ピッタリとは、さすが夫婦だな。」

「ネージュ殿、これは共に化面と戦ってきたからであって…… 」

 ネージュの言葉に顔を赤らめながら言い訳しようとするアトリをエクレアが遮った。

「別に夫婦なのだから照れずとも良いでしょ? ネージュ殿、おいとまするとしましょう。では失礼します。」

 何故か急に不機嫌そうにエクレアは去っていき、慌ててネージュも後を追っていった。

「さてと、ちょっと出掛けてくる。」

 ヘロンが立ち上がるとアトリは身仕度を終えていた。

「行くのでしょ、妖霧を見に? 」

「何が起きるか分からないよ? 」

「なら私が一緒の方がヘロンは無理をしないでしょ。」

 互いに相手の性格は分かっている。止めて大人しく留守番をしているような嫁ではない。二人は到着した時の埠頭へと向かった。すると霧の中に一つの人影があった。

「その出立ち、この国の者ではないな。この妖霧の中に旅行者を出してしまうとは警備が弛んでいるようだ。」

「いや、ネージュが僕に妖霧だから国の外に出るなと言いに来た……って事は、見て来いって事だから、わざと止めなかったんじゃないかな。」

 人影の呟きにヘロンが答えた。

「ネージュが? すると貴公が隣国から来たヘロンか? 」

「あんまり国外で名前、売りたくないんだけどなぁ。国内もだけど。」

 少し嫌そうにヘロンは答えた。

「安心しろ。猊下と六刃将を除けば貴公の事を知っているのは拙者ぐらいなものだ。」

「そういう貴女は? 」

「ネージュの前任で元六刃将筆頭氷刃将……と名乗るより貴公には氷竜人グラシス末裔ディセンダント白い頭(テスタビアンカ)のアイズの方が早いか。」

 そう言って霧の中から現した姿は腰まである白銀のストレートヘアが印象的な細身の女性だった。

「うわっ手入れの面倒臭そうな髪! 」

 これがヘロンから見たアイズの第一印象だった。

「そうなのだ。この極寒の地では家の中でも洗髪シャンプーして直ぐに乾かさないと凍りつくし温風だけではバサバサになるしブラシも引っ掛かったり色々と大変な……そんな事はどうでも良い。個人的には良くないが……。ともかく、今はこの妖霧をどうするかだ。」

 それを聞いてヘロンが少し考えた。

「どうするか、って事はどうにか出来るって事? 」

「出来るのだろ? あのメアが自分よりも強くカリエンテス殿よりも凄いと自慢するダーリン殿なら。」

 氷竜人の末裔と聞いた時点でメアの知り合いなのだろうとは思ったが妙な自慢話しをされているとまでは思っていなかった。

「えっと……いいや、メアとの事は説明するの面倒だから。取り敢えず、この妖霧ってのは自然発生じゃないんでしょ? 心当たりは? 」

 アイズは少しばかり複雑そうな顔をして口を開いた。

「妖霧ミスト=エイリアス。だが、そんな名前の六禍戦は居ない。凍国領内に霧が入らない処を見ると六禍戦よりも下級の者か、六禍戦の誰かの偽名か。長期に渡って妖霧を張り巡らされると凍土に覆われ自給率の低い凍国は兵糧攻めには脆いからな。」

 そこで何かの気配に気づき三人は身構えた。

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