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したたかに謳って♪  作者: 凪沙 一人
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ep.5 予定は未定で決定ではない

「何も出て来ないな? 」

 先頭を進むステナのチームの戦士が怪訝そうに辺りを見回して言った。

(父上が主宰の大会なのだから、当たり前であろう。Sランクのお前たちを雇ったのも妾が無傷なのを怪しまれぬ為じゃ。)

「止まれヴァルメロ。妙な気配を感じる。」

 魔術師に言われて戦士ヴァルファ=メロスが足を止めた。

「き、気の所為であろう? 何も出てくる予定はないはずじゃ! 」

 他の参加者はいざ知らずステナたちには何も襲って来ないはずだった。あらかじめ皿の隠し場所も父親から聞いてきていた。だからこそ先頭を突き進んでこれたのだが。

(獣を放つのが早かったのか? )

 ステナの予定では自分たちの通過後に後続の足止め用に獣が放たれる筈だった。獣といっても模擬戦用の家畜レベルで被害が出るようなものではない。もし早かったのだとしてもSランクが二人も居れば問題はない筈だった。だが近づいて来る気配はとても家畜レベルとは思えなかった。

「な、なんだ、こいつぁ!? 」

 ヴァルメロが指差す先に居たのは通常の三倍はあろうかというイボアだった。それに顔にはお面のような物を着けていた。

「おい、逃げ……って、どうしたマリヴェル? 」

 ヴァルメロが声を掛けると魔術師マリーナ=ヴェルサーヌが渋い顔をしていた。

「この嬢ちゃん、気ぃ失っとるけど、どうするの?」

 見ればステナが白目を剥いて気を失っていた。

「どうするって言ったってスポンサーが居なけりゃ俺たちタダ働きだぜ? 」

「でも命あっての物種だよ? それに杖と魔導書より重い物は持てないからね。嬢ちゃん担いで逃げるなんて無理だしヴァルメロが担いでたら時間稼ぎ誰がすんの? 」

 端的に言えば金を取るか命を取るかという相談である。イボアも猪のような獣なので突進されればあっという間に追いつかれる。迷っている時間はない。

「仕方ねぇ。ステナにゃ悪いが……」

「ダメです!! 」

 ステナを見捨てて逃げようとしたヴァルメロとマリヴェルを凛とした声が制した。

「私が時間を稼ぎます。ステナ様を連れて逃げてください。」

 巨大なイボアに向かって剣を構えたのはアトリだった。

「ステナ様をって……ひょっとして、あたしらの所為でクビになったBランクの剣士ってあんた? やめときやめとき。金色ゴールドランクなんて一瞬で殺られちゃうって。」

 金色というのはアトリのランク証の色だ。クリスタルのランク証を持つ二人が逃げようとしているのだから2ランクも下のアトリに時間稼ぎなど無理としか思えなかった。しかし、そんなアトリの肩を引いて下がらせたのは青銅ブロンズ色のランク証を着けたヘロンだった。

「ヘロン!? 貴殿も逃げた方がいいっ! ここで貰われた私が逝けばステナ様とて、いくらなんでもプルム村を潰したりはしないはずです!」

「金色ランクどころか青銅ランクで対処出来る相手じゃねぇぞ!」

 アトリに続けてヴァルメロも忠告してきたがヘロンは意に介していなかった。

「ミーコ、ヒルンド家のお嬢さんの様子は? 」

「ん~、気絶してるだけにゃ!」

 それを確認してからヘロンは辺りを見渡しヴァルメロの戦斧を見つけた。

「ちょっと借りますね」

 そう言って戦斧を拾い上げたヘロンをヴァルメロが怒鳴りつけた。

「バカ! Eランクのお前がSランクの武器を手にしたって使いこなせる訳、ねぇだろうがっ! 」

 そこでヘロンは深呼吸した。

「すぅ~はぁ~。一意専心……一気通貫ってねっ! 」

 ヘロンの投げつけたヴァルメロの戦斧は巨大イボアのお面を割り急所を貫いた。

「はぁ!?」

「何ぃ!?」

 マリヴェルとヴァルメロだけが驚きの声を挙げた。

「あ、これ倒したのはお二人って事にしといて貰えますか? 」

 突然の申し出にヴァルメロもマリヴェルもきょとんとしていた。

「ステナも見てなかった事だし、俺たちは構わねぇが…… 」

「いいの? 正直に深刻すれば青銅から銅色カッパー通り越して銀色シルバーランクくらいにはなれるのよ? 」

 しかし、ヘロンは首を横に振った。

「だから二人の手柄にしてってお願いしてるんだよ。下手にランク上がったら討伐とかに駆り出されるでしょ? そういうのって面倒臭いじゃん。」

 ヴァルメロとマリヴェルは信じられないという顔を見合わせた。

「いやいや、面倒な分、稼ぎだって格段に増えるんだぞ? 」

「だって自給自足生活してると、お金なんてそんなに必要ないしさ。それにSランクのお二人がEランクに助けられたなんて知られたくないでしょ? その為にわざわざ戦士さんの武器で倒したんだしね。それと……」

 ヘロンは今度はアトリに向き直った。

「あのさ、今度から、ああいう無茶はなしね。」

 するとアトリは深々と頭を下げた。

「も、申し訳ない。ヘロンの実力があそこまでとは思いもよらず。嫁として至らなかったと反省している! 」

「えっ、夫婦だったの!? 」

 驚いたマリヴェルが尋ねてきた。

「あ、いや、予定というか未定というか……」

「はいっ!式はまだですが私はヘロンの嫁です!」

 ヘロンを遮ってまで嫁宣言をするアトリを見てヴァルメロが苦笑した。

「何でもいいや。俺は戦士をやってるヴァルファ=メロス。皆からは縮めてヴァルメロって呼ばれてる。」

「あたしはマリヴェル。魔術師のマリーナ=ヴェルサーヌ。」

 二人に名乗られたのでヘロンたちも一応名乗った。

「今日のは借りだヘロン。何かあったら声を掛けてくれ。もっとも俺たちの力なんて必要無いかもしれねぇがな。」

 そういうとヴァルメロたちはステナを担いでダンジョンを後にした。

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