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したたかに謳って♪  作者: 凪沙 一人
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ep.45 旅立ち

 一連の化面の襲来を退け、王都には平穏ね時が戻っていた。そして誰よりも、その平穏な生活を求めていたにも拘わらず状況がそれを許さない者がいた。

「ああ、せっかく平穏を取り戻したっていうのになぁ…… 」

「まあそう言うな。私の所にもネージュは親書を携えて来たからね。私からも行ってくると助かるとしか言えないんだ。」

 ヘロンのぼやきに国王もそう答えるしかなかった。

「だが本当にいいのか、このまま出発して? ちゃんと一家ファミリアのメンバーには話して無いんだろう? 」

 ヘロンは小さく頷いた。

「まさか一家総出で凍国に乗り込んだら、こっちも大変だろ? あの化瘴をこの国に持ち込んだ真犯人には逃げられてるんだ。僕の居ない間に攻め込まれて僕の帰って来る場所が無くなってたら困るもん。本家のマリアンヌと分家のマリヴェルには話してある。お嫁さんたちは話したら絶対、ついてきそうだからね。」

 ネージュに借りを作ったままというのは、やはりヘロンには無かった。戦力としては申し分無いがヘロン不在時のマリアンヌには些か不安が無いでもないが信用するしかないだろう。

「凍国の法王には宜しく伝えてくれ。」

「えっ? やだよ謁見なんて面倒臭い。僕はネージュに借りを返したらとっとと帰って来るからね。」

 そう言って旅立ったヘロンだったが、事がそう簡単ではない事は予想していた。


 ***


 その名の通り凍国は極寒の地にある。国を治めているのは法王レクシスであり法治国家として厳しい規律に守られた国である。とはいえ法を犯さない限りは寛容な国でもあった。そんな凍国に向かう船の甲板でヘロンがポツリと言った。

「アトリ、寒くないか? 」

「えっ!? 」

 唐突に声を掛けられて隠れていたつもりのアトリ物思わず返事をしてしまった。

「え、あ、いや……その…… 」

 ついてきた事がバレて返事に困ってしまったアトリをヘロンは自分のコートに入れた。

「あの……ヘロンがどうしても帰れと言うなら泳いででも…… 」

「凍国でも僕の背中は任せたからね。」

「え、あ、ああ任せろ。ヘロンの事は命に換えても守ってみせる! 」

 するとヘロンは冷たくなったアトリの頭を抱き寄せて言った。

「ん~それは無しかな。背中は任せるけどアトリは僕が守るから。でもテミスには文句言ってやらないとな。」

「えっ? 」

「僕の凍国行き、知っているのは国王、マリアンヌ、マリヴェル。この中に他の人に話すような人間は居ない。人間以外となると一番怪しいのは……」

「いや、待って。テミスティアナ様を責めないで欲しい。これは偶然でテミスティアナ様も口止めされた訳ではないと…… 」

「……そっか。神様にも口止めが必要とはうっかりしてたな。」

 そんな他愛もない会話をしているうちに船は砕氷しながら凍国に入港した。入国検査ではEランクのヘロンは国王直筆の許可証を提示し、アトリはBランクなので金色ゴールドのランク証を提示して無事に入国を済ませた。国際船到着口から出るとネージュが待っていた。

「待っていたよ……ヘロン。おや、そちらのお方は? 」

「嫁のアトリです。」

「えっ…… 」

 アトリの返事を聞いてネージュは少し困った顔をした。

「何か拙かった? 」

「いや、てっきり一人で来ると思ってたから用意した部屋自体は広めなんだがベッドが一つしか…… まあ新婚さんだし問題ないか。」

 ネージュの返事にアトリは顔を赤くして何も言えなかった。二人はネージュの用意したスレーと呼ばれる車輪の無い馬車に乗ると法廷に招かれた。こここでいう法廷とは法王の居る宮廷であり裁きの場ではない。

「よくいらしてくださいました。」

 そう言ってレクシスがランク証の色を見てアトリに手を伸ばしかけてネージュの目配せに気づき慌てヘロンへと手を伸ばした。

「失礼しました。魔王、化面と二度もお国の危機を影から救われたお方と伺っております。ネージュとも旧知の間柄とか。期待しております。」

 そこでヘロンは困ったようにネージュへと視線を向けた。凍国がそれほど悠長に事を構えている余裕も無い時に凍国六刃将筆頭凍刃将のネージュがわざわざ力を借りに行ったのだから国内を説得する為に魔王、化竜の件をレクシスが知っているのは仕方ないとしよう。だが期待していると言われてもヘロンは詳細を何も聞いていなかった。戸惑うヘロンの様子にレクシスもその事に気づきネージュへと視線を向けた。

「私も凍国の危機に逸早く帰国するべく急いでいたものですから詳細は到着後にと。」

 本音を言えばあれ以上、化面の相手をさせられないよう二匹の化竜を倒した後に黙って帰ってしまったのだが凍国が今も危機的状況である事に間違いは無い。

「では、わたくしからお話しいたしましょう。現在、この国は突如現れた妖界六禍戦と名乗る輩から侵攻を受けています。我が国の六刃将も引けは取らないのですが彼等の操る妖製兵なる兵士の物量に些か手を焼いております。」

 そこまで聞いてヘロンは少し失敗したと思った。物量が相手であればマリアンヌの聖魔二刀流の方が適任とも思われたからだ。だがアトリの手前、それを言うわけにもいかなかった。

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