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したたかに謳って♪  作者: 凪沙 一人
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ep.44 王都防衛

 それは唐突に咆哮を挙げた。一帯のボスと目される魔物が化面で巨大化したのだ。それなりに王都まで距離はあっても、すぐに視認された。ボスが化物になる前から付き従っていた魔物たちが先陣を買って出た。その先行隊の指揮をレミィが任せれていた。そしてマリアンヌが一人で待ち構えていた。

「おや、一人かい? いくら聖魔二刀流でも、この数を相手にどこまでもつかしら? 」

 だが、そんなレミィの挑発にもマリアンヌは眉一つ動かさなかった。

「前にも言った筈です。雑魚は雑魚。何百何千の魔物を集めようと聖魔二刀流の敵ではありません、と。そして貴女が嗾けるから討たれるのだと。わたくしも魔王の娘、人に害を為さないのであれば討つつもりはありません。」

 毅然と語るマリアンヌからは魔王にも似た威厳が放たれていた。そして、それは小物の魔物や自分とマリアンヌの力量差を測れる魔物たちを追い払うには充分であった。

「こらっ! あんたら戻りなさいよ! あんたらのボスの命令でしょ! 」

 しかしレミィがいくら叫んでも逃げ出した魔物は止まらない。それどころか、逃げ出した魔物につられる者、数が減った事により不利と判断した者など先行隊の瓦解が止まらない。

「これも前に言った筈です。わたくしが魔物を討つのはヘロン様の平穏な生活を乱すからであり人が魔物を討つのは人に害するから。今回の魔物たちも、王都を襲いに来ず人に害を為さず誰にも見つからなかったなら生きていける。少なくとも人を襲う本能を律する程度の知能、もしくは生存本能が危機回避を首魁の命令よりも優先させた魔物ならこの場を去って当然。むしろ魔物たちを死に追いやらんとしているのはレミィ、貴女なのです。」

 マリアンヌにそこまで言われてレミィは膝を着いた。

「ああ頭くるっ! もう負け負け負けっ! どうせ魔力であんたに敵うわけ無いし、魔物たちも逃げ出しちゃったら、あたいに勝ち目なんて無いじゃん。とっととあたいを王国軍に突き出してヘロンのお手伝いにでも行けば? 」

 するとマリアンヌはレミィに聖剣を向けた。

「な、なに!? あんた、聖女は人の懺悔は聴いても人を裁くのは役目じゃないから、あたいの始末はしないんじゃなかったかい? それとも今は魔女だってか? 」

「いえ、このまま王国軍に引き渡しても『ミューレンの魔女』ならば容易に逃げ出せるでしょ? せっかく努力して身につけたのでしょうがヘロン様に仇をなした罰です。その魔力、一旦奪わせていただきます。もし生きて再びわたくしと出逢え、その時に悔い改めていたならば魔剣を用いて魔力をお返しいたしましょう。」

 こうしてミューレンの魔女は、ただのミューレンの少女となった。

「お行きなさい。今の貴女には何も出来ないでしょう。」

「……ふん、情けを掛けたつもりかもしれないけど後悔なんてしてないからねっ! 誰が悔い改めたりするもんか! 早いとこヘロンの所に行って一緒にボウカーの化物の餌食になるといいよ! 」

 だがマリアンヌは首を振った。

「わたくしなどが行った処でヘロン様には足手纏いです。あの方は魔王を降参させ、聖魔二刀流を操るわたくしを封印したお方ですからね。」

 それだけ言い残すとマリアンヌはその場を去っていった。散り散りになったとはいえ、全ての魔物が逃げた訳ではない。本能の赴くままに暴れようとする魔物の多くはないが残っていた。それをヘロンの嫁の一人として一掃する為に。


 ***


 ゆっくりと王都に向かう巨大な化物の前にヘロンが立ちはだかった。

「あれ、一人? どうみてもレミィは失敗した雰囲気だからマリアンヌとか連れてくんのかと思ったけど。」

「まあ一人で充分でしょ? 確かこの魔物って下手に操ったりしない方が強いと思うんだけどな。」

 ヘロンは笑みを浮かべながら返した。

「そうかもな。でもよぉ、無分別に暴れられても、俺らにも目的って奴があるんでね。」

 おそらくはヘロンが見てきたどんな魔物や化物、化竜よりも巨大だった。

「ん~さすがにこの大きさだと低級魔法じゃ倒せないかな。」

「なんだい、超特大魔法でも撃ってくるかい? そんな詠唱待つ気はないけどなっ! 」

 その次の瞬間、ヘロンが地面を擦るような低さから一気に右手を振り上げると一瞬にしてボウカーの化物は化面ごと、真っ二つに斬り裂かれ、やがて霧散した。

「フロート!」

 何が起きたのかも分からないまま落下するボウカーをヘロンは浮遊魔法で受け止めた。だが、その直後に超強力なダウンバーストのような圧力がボウカーを上空から跡形もなく圧し潰してしまった。

「くっ! 」

 ヘロンが上空を見上げると、そこに一つの人影があった。

「どうやら化瘴を使った化面による実証実験は失敗したと結論せざるを得ませんね。そこの冒険者、化粧師から滅師まで実験にお付き合いしてくれて感謝する。」

「誰も、あんたたちの実験に付き合ったつもりはないんだけどな。」

「まあ結果論だけどね。それなりに意味のある実験場だったよ。特に、いずれ我々はこの国にも侵攻するかもしれないけど最大の障害が王国軍よりも君だというのが知れただけで充分な成果だったからね。また会おう!」

 上空の人影は降りてくる事もなく姿を消した。

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