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したたかに謳って♪  作者: 凪沙 一人
43/66

ep.43 化物

 ソネットの最期を見ていたレミィがイラついたように吐き捨てた。

「んもぅっ、もうちょっと情けのある最期にしてあげてもいいと思わない? 」

 それに対してボウカーは冷笑っていた。

「情けのある最期って、どんなんだよ? 苦しませないで一瞬で終わらせたんだ。俺らたちに化瘴をくれた連中なりの情けかもしんねぇだろ? 」

「それはそうかもしれないけど…… 」

 食い下がるレミィだったがボウカーはソネットが散った現場の方を見ながら呟いた。

「過ぎた事は諦めろ。奴らは俺らたちと違う匂いがした。獣とも魔物とも違う独特の匂いがな。」

 レミィはボウカーたちに化瘴を与えた者たちと直接会った訳ではないが自分たちとは異質の存在なのだろうと云うことへ感じていた。


 ***


 ヘロンは国王に王宮の国王の書斎に招かれていた。ヘロンからすれば呼び出されたと言った方が感覚的に近い。

「なんとか今回も王都を守る事が出来たようで良かったよ。」

「田舎村の一家ファミリアに丸投げしといて、よく言うよ。」

「そうは言うけど模擬迷宮探索大会以来、化面というだけで各ギルドは尻込みしてしまうしヘロンは王国軍に指導してくれないんだから仕方ないだろ? 」

「いや僕の戦い方は特殊過ぎて軍隊向きじゃないし、そもそも僕が誰かに物を教えるなんて不向きなのはよく知ってるでしょ? 」

 確かにヘロンの戦い方は集団戦向きではないが、ある意味、省エネともいえる戦法は個の強さはそこまで頼りにしない。ただし、自由度が高い分、臨機応変さと絶妙のタイミングで魔法を放つ勘所は必要になるが。

「ところでヘロン、ええっと今は『ネージュ』だったか。彼を帰してしまってよかったのかい? 」

「うん。彼は僕に貸しを作りに来たようなもんだし。」

 それを聞いて国王は眉を顰めた。

「ヘロンに貸しを作って隣国の厄介事に手を貸せって事か。人気者は辛いな。」

「まあ化竜二匹も任せちゃったからね。どんな用件か知らないけどボウカーの件が片付いたら行ってくるよ。出国許可証は宜しくね。」

「出国許可証? 要るの?」

「あのねぇ、フリーパスなのはCランク以上なの。僕はEランク。国王が国際法忘れてどうするの? 」

「あ、そ、そうか。どうもヘロンがEランクというのは違和感があってね。そろそろAとかSとか昇級試験受けてくれないか? なんなら私が特例処置として…… 」

 ヘロンは思わず掌を突き出して国王の言葉を遮った。

「ストーップ! そこまで!下手にランクが上がったら討伐とかに駆り出すんでしょ? そういう面倒臭いのはパス。今回のは例外!軍隊指導の方が面倒臭いし僕の一家で片付けた方が早いからやってるだけ! 僕は如何に僕たちの平穏な日常を守るかで精一杯なの。働きたくないから冒険者を名乗れる最低ランクを手に入れたのに昇級なんてしたら僕にとっては本末転倒なの! 」

 捲し立てるヘロンの姿に思わず国王も苦笑した。

「なんか安心したよ。名前が変わったり結婚したりしても、そういう処は昔のままで。」

「魔王と戦っても人生観の変わらなかった僕が変わると思う? 」

「まあヘロンが化面の者たちのような事を言い出したら私もおしまいだろうしね。」

 ヘロンと国王は顔を見合わせて笑いだした。その声を聞いて部屋の外に立つ近衛兵がポツリと言った。

「最近、あのEランクの冒険者が来るようになってから陛下、笑われるようになったな。」

「歳の近い方も周りにはいらっしゃらないし、息抜きには宜しいのではありませんか?」

 国王の侍女が微笑みながらそれに答えた。


 ***


 その頃、冒険者協会ではヘロン一家専属担当官となったアライアがソネットによる王都襲撃の事後処理に追われていた。当初はヘロン一家の専属担当官となった事を大喜びしていたアライアだったが、今回の襲撃の対応はヘロン一家が行ったからと事後処理を丸投げされていた。合法的にヘロンの有益となるように事を運ぶにはアライアにもってこいの状況だったが何しろ量が膨大だ。

「きっと協会長は、こうなる事を見越してアライアちゃんをヘロン君一家の専属担当官にしたに違いないわ。ええ、やりますとも、やってやりますとも!ヘロン君自身の戦闘記録が少しでも残っていたら隠蔽して……あの元勇者のお手柄加筆して……それからそれから、ええっとぉ……ともかくぅ、頑張ってヘロン君に褒めてもらって、見直してもらってぇ、あわよくば後妻の座を掴むのさぁ♡」

「せ、先輩…… 」

 ヘロン一家専属担当官になったからと言っても主な業務は冒険者協会の建物内である。私情にまみれたアライアを本来は優秀なだけに後輩の執務官は憐れんでいた。


 ***


「ボウカー、準備は出来たの? 」

 レミィに声を掛けられてボウカーは大きく頷いた。

「ああ。こいつぁこの辺一帯のボスだからな。いちいち化面を被せなくても、こいつに逆らう魔物は居ねぇ。そっちこそ大丈夫なのか? 本当にあのマリアンヌを抑え込めるのか? こっちもヘロン一人ならともかく魔王の娘ってのは厄介だからな。」

「んまぁ倒すとなったら無理かもしんないけど、そっちがヘロン倒すまで惹き付けるだけだかんね。なんとかなるっしょ。生存競争ってなら頭獲った方が勝ちだかんね! 」

 ある意味、ボウカー以上にレミィは燃えていた。

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