ep.41 開演
ソネットは気配を察知されないよう簡易的ではあるがサーカス小屋を建て中にオレオンと囚人たちを集めていた。
「さて皆さん、ようやく化竜の扱いにも慣れていただき、無事に開演の日を迎える事が出来ました。公演の成果は皆さんの出来に掛かっています。存分に成果を発揮してください! 」
すると一人の囚人が口を開いた。
「地下牢から出して貰った事には感謝してるけどよぉ、途中でトンズラかますかもしれねぇぜ? 」
「その場合は化竜の制御が利かなくなり暴走します。もちろん、あなた方も餌となるでしょう。因みに貸し与えた化竜を目的以外に使おうとしても同様なので取り扱いには充分、御注意ください。」
優しい口調で口元に笑みを浮かべながらも目は笑っていなかった。囚人たちもソネットがただの脅しで言ってはいない事を察した。
「つまり、俺の得意な逃げ足は使えないって事か。」
オレオンも覚悟を決めるしかなかった。それでも命懸けで逃げ回っていた分、腹は座っていた。それに王宮の地下牢に捕らえられていたような重罪人たちも一度は死罪を覚悟していただけあって腹を決めた。
「よろしいですかな。それでは皆さん持ち場に就いてください。シルク・ド・ソネット、いよいよ開演です! 」
それからオレオンと囚人たちが持ち場に散るのを待ってから一斉に蜂起した。その数、ざっと10匹。
「ソネットめ、囚人たちを手に入れて数を増やしてきたか。どうやら本当に複数匹相手にしなければいけないようだ。」
ネージュは仕方ないという面持ちで化竜の討伐に向かった。一方で空中ではメアたちが飛竜たちと交戦に入る処だった。その先頭では赤い体格の大きな男が飛竜の前に立ちはだかった。
「やあやあ遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも見よ。我こそは炎竜人が末裔にして竜人族が族長カリエンテス! その証たる赤い頭を恐れぬなら掛かってまいれっ! 」
それを聞いていたメアは、やはり呆れていた。
「ああ、古臭い親爺殿は放っておいて……騎竜隊、無理すんじゃないよ! オレたちの役目は飛竜を出来るだけ一ヶ所に誘い込めばそれでいい! よし散れ! 」
竜人族の騎竜隊は離ればなれに現れた5匹の飛竜の目の前をブレスに捉えられないよう高速で飛び回りながら郊外の拓けた場所へと誘い出した。囚人たちも化面の飛竜たちも集団戦闘には不慣れなようで目の前の獲物を追ってしまった。
「今だ、全騎離脱! 」
メアの掛け声と共に騎竜隊は飛竜たちを残して更に速度を上げて空域を離脱した。そこへ間髪入れず地上から上空へ白と黒の閃光が撃ち込まれた。
「フッ……街中で聖魔二刀流を奮っては化竜の攻撃よりも甚大な被害が出てしまいますからね。」
そう言うとマリアンヌは聖剣と魔剣を鞘に収めた。化瘴に汚染された飛竜は魔物のように黒い霧となって霧散し、足場を失った囚人たちは聖女の能力で怪我なく地上に降ろされると即座に王国軍兵士によって捕縛されていった。
「分家の意地、見せるぞっ! 」
何故、自称ヘロンの義兄たるサルヴァスが『分家の意地』を語るのかは今一つ不明なマリヴェルではあったが、脳筋とは言ってもSSランクの盾士である。サルヴァスが化竜の攻撃を防いでいる間に、ありったけの魔力で動きを止めるとヴァルメロが戦斧で化面ごと急所を貫いた。
「おお、意外といけるもんだな! 」
以前にヘロンがヴァルメロの戦斧で化獣を化面ごと急所を貫いたのを見ていたが自分でやるのは初めてだった。
「なに感動してんの? お嫁さんたちの応援に行くよ! 」
「おお、アイリス! 今行くからなぁあああ! 」
マリヴェルがヴァルメロに掛けた声に次の嫁を自負する実妹アイリスの元へとサルヴァスは突っ走っていった。一方でネージュはカリエンテスが誘い込んだ化竜と合わせ二匹の化竜と対峙していた。
「兄ちゃん、本当に大丈夫かい? 」
一見、線が細くも見えるネージュにカリエンテスが不安そうに尋ねた。
「御心配御無用。凍国六刃将筆頭凍刃将の凍剣乱舞、篤と御覧ください。」
ネージュが抜剣したかと思うと凍気が乱舞し二匹の化竜は瞬く間に凍りついてしまった。
「凄ぇな兄ちゃん!腕っぷしも強ぇえし、あの早口言葉みてぇな名乗りといい申し分無ぇ。もうちっと早かったら、うちの娘をやったのになぁ……」
どうもカリエンテスにとって婿選びに名乗りは重要な要素だったらしい。
「あれは別に名乗りという訳でもないのですが……。それに『ヘロン』は私よりも遥かに強いですよ。そうでなければ、わざわざ凍国から彼の力を借りに来たりはしませんから。私は先に失礼します。凍国もそれほど悠長に事を構えている余裕が無いものですから。では。」
ネージュは約束の貸しを作ると早々に帰国の途に着いた。凍国が悠長に事を構えている余裕が無いのは事実だし、長居をしてはボウカーの相手までさせられかねない。
「くッそ! 何がシルク・ド・ソネットだっ! 同時多発攻撃で敵の戦力分散だぁ? あっという間にこっちが各個撃破されてしまいじゃねえか。」
化竜の上でぼやくオレオンをヘロンは呆れて見上げていた。




