ep.38 レミィとマリアンヌ
メアからの報告にヘロンは天井を仰いでいた。
「ああ、国王の奴、何やってんの? もうちょっとギルド協会も冒険者協会も引き締めてくんないかなあ。僕の平穏な日常がぁ~っ! 」
とはいえプリム村と王都の間の街道といえば村の主要道路だ。そこに魔物が出るとなれば、それこそヘロンの言う日常生活に支障を来たすと云うものだ。
「途中、何匹か始末してきたけど、ありゃ自然発生やどこからか移動してきたってより誰かが意図的に放したって感じだったよ。」
「魔物の種類は?」
「草食種の緑ゲルに混じって吸血種の赤ゲルがいたのと手足が八本ある大型で毛むくじゃらの……人間が熊蜘蛛って呼んでる奴だ。」
竜人族と人間では言語形態はほぼ一緒なのだが時折メアが固有名詞の違いで戸惑う事がある。緑ゲルも草食とはいえ食べる量が半端ないので農作物が一夜で全滅などという事もあるので大量発生でもしようものなら一大事である。赤ゲルは動物であれば鳥でも人でも蜥蜴でも好き嫌いなく血を吸い尽くす厄介な奴である。どちらもゲル状なので打撃や刺突が効きにくいのでメアも炎系魔法で対応してきたらしい。炎竜人の末裔の面目躍如という処か。
「確認だけど魔物たちは化面は着けてなかったんだよね? 」
「もちろんだよダーリン。オレの竜眼に誓って化面は着けてなかった。」
ヘロンとメアが話しをしているところにマリアンヌがやって来た。
「ヘロン様。街道の件、わたくしにお任せ頂けませんか? 」
「何か心当たりがあるのかい? 」
「ええ。おそらくは昔、見知った小娘の悪戯だと思いますので、お仕置きして参ります。」
それだけ言うとマリアンヌは王都へ向かう街道へと一人で出ていった。
***
街道に入ったからといって直ぐに魔物が出てくる訳ではない。メアの言っていた通り誰かが意図的に放ったのだとすればヘロン一家のあるプルム村近くに放つのは得策ではない。しばらく進んだところでマリアンヌが足を止めた。
「レミィ、この辺でいいのではありませんか? 」
マリアンヌの声に応えるようにレミィが姿を現した。
「つまんないなあ。もう少し未知なる物への期待とか想像とかないの? 」
冷めるレミィだがマリアンヌは眉一つ動かさなかった。
「この辺に化瘴なる瘴気の気配は無い。元々この地域には自生していない魔物が目撃されている。それも意図的に放った形跡がある。つまり、この辺のボスとか主と呼ばれるような魔物一匹を抑えて他の魔物を従わせているのでしょ? 小娘の頃から何の進歩もみられないもの。期待も想像もしようがなかったわね。」
「進歩がないって……これでも『ミューレンの魔女』とか呼ばれて名の通った魔女になったつもりなんだけどな。」
それを聞いたマリアンヌは笑いだした。
「クスクス、魔王の娘を前にして名の通った魔女とは面白い冗談ですね。そんな冗談一つが貴女の進歩なのかしら? 」
「あぁ、それ言われちゃうと身も蓋もないわ。どう考えたって魔女の娘と魔王の娘じゃ持って生まれた魔力量が違うもの。こっちが魔力を増やすの頑張ってる間に新しい呪文とか強力な呪文身に付けられるんだからね。それでね、あたいも考えたの。多分この街道の一件、あんたなら、あたいだって気づくだろうって。そして一人で来るだろうって。あとは物量よ! ヘロンだけならともかく、ボウカーの作戦にあんたみたいなのは邪魔なの! 」
レミィの掛け声と共に魔物たちがわらわらと集まって来た。
「では、わたくしから忠告です。1つ目、ヘロン様とわたくしだけではありません。ヘロン様の嫁を名乗る者たちを舐めてはいけません。2つ目、雑魚は雑魚。何百何千の魔物を集めようと聖魔二刀流の敵ではありません。」
そう言ってマリアンヌが魔剣と聖剣を奮うと一瞬にしてあれだけ居た魔物たちが黒い霧となって消えていった。
「あれだけ居た魔物が…… なんで、どうしてよ! あたいが子供の頃、魔女の子だってイジメられて友達がいなかった。だから母さんは魔法生物を作ってくれた。それなのに村の大人たちがやって来て母さんが作ってくれた魔法生物を魔物だって殺したのよ! あんただって半分は魔王の血が流れてるんでしょ? どうして魔物たちを平気で殺せるのよ! 」
するとマリアンヌは一呼吸おいて話し始めた。
「今回に限って言えば、貴女が嗾けたからです。」
「えっ!? 」
「雉も鳴かずば撃たれまい。今回は貴女がわたくしを倒す為に魔物を嗾かけたから始末しました。魔物は死ぬと霧散してしまうので獣のように食糧にはなりません。ならば何故討たれるのか。それは魔物が人を襲い、人の食物を奪い、人の築いた物を破壊するからです。残念ながら、これは魔物の持って生まれた本能、どう躾たとしても直りません。わたくしが魔物を討つのはヘロン様の平穏な生活を乱すからであり人が魔物を討つのは人に害するから。つまり生存競争です。今回の魔物たちも、わたくしを襲いに来ず人に害を為さず誰にも見つからなかったなら生きていけたかもしれません。先ほど、どうして魔物たちを平気で殺せるかと尋ねられましたが、そういう意味では貴女も同罪なのです。」
マリアンヌの言葉にレミィはただ呆然としていた。




