ep.36 神々の集い
化瘴なる瘴気について、初めは人の問題は人が解決すべしとしていた神々も、そうも言っていられなくなっていた。それは化病から化瘴と呼ばれる瘴気について調べていた医神アスクからの報告に端を発する。
「・・・つまり、あの瘴気はこの世界の物ではないと? 」
真っ先に食いついたのは、建前上とはいえ自らの信徒であるヘロンに事の対応を委ねている掟神テミスティアナであった。となればテミスのようにプルム村で奉られている神同様にヘロンの牧場で奉られている牧神ブレッダや農神アスタルテも気になる処ではある。するとヘロンのほぼ嫁を自認するアイリスを信徒に持つ盾神レオニダスも顔を出した。
「となると、誰か魔王みたいに門を開いたって事になるな。」
レオニダスの意見に頷きながらアスタルテが顔を曇らせた。
「魔王の時は先に斥候が来て聖女が魔王の娘でもあった事が判明して勇者を裏切り門を開いたのでしたよね。でも、あの時はわたくしたち神々も開門には気づきました。今回は何方か開門に気づかれた方はいらっしゃいますか? 」
アスタルテの問い掛けに反応する神はいなかった。
「あの時もまだ幼かったまだヘロンを名乗る前の彼がこっそり秘密裏に魔王を撃退してくれたので神々の威厳も損なわれる事無く穏便に片付きましたが、何処に門が開いたのかも分からないとなると厄介ではありませんか? 瘴気で農作物が育たぬような事になれば、わたくしの立場も問われてしまいます。」
するとブレッダも反応する。
「穀物や植物が無くなったら牧畜だって野生の獣だって生きていけなくなっちまう! 」
アスクも口を開く。
「食が無ければ医も成り立たぬ。」
「腹が減っては戦も出来んしな。」
レオニダスを含む戦神と呼ばれる神々も困惑していた。
「食物の奪い合いにでもなれば掟を守るどころじゃなくなるだろうし……そうなれば信仰どころじゃないよね。」
テミスの危惧は神々の危惧でもあった。
「それにしてもアスク、よく報せてくれた。その……昔の事なんだが…… 」
気拙そうにレオニダスが声を掛けた。
「水に流すつもりは無いが、神とて背に腹はかえられぬ。孫娘もあやつの所に居るしな。」
アスクも昔の事を水に流すつもりは無くても協力せざるを得ない。それだけ緊急事態という認識だ。人間である化面の男たちの相手をヘロンがしている間に謎の門を見つけ出すべく神々も動きだした。この世界の出来事には干渉しなくとも異界からの干渉は人が責を負うものではない。それがこの世界の神々共通の想いだった。
***
王都の冒険者協会では秘書官のアライアが不貞腐れながらも忙しく動いていた。
「アライア君、もう少し笑顔に出来ないものかね? 」
窓口業務からは外れているとはいえ冒険者協会長としても最近のアライアの態度には眉を顰めていた。もちろん、業務に支障を来たすような事は無いのだが、イライラが伝わってくるようでいけない。
「でもですねえ、このアライアちゃんのヘロン君が……。 コホン、失礼いたしました。ヘロン一家の討伐した案件が全て事後報告ってどういう事なんですかぁ!? 」
「それねえ。個人冒険者なら未受託案件として支払い問題になるけどファミリアについては直接受託が法的に認められてるからねえ。それに化面の獣案件は他に受託する冒険者もギルドも無いから、いいんじゃない? 」
「よくありませんよ! アライアちゃんのヘロン君に……? 」
そこまで言ったアライアの眼前に会長は一通の封筒を差し出した。
「アライア君、秘書官として優秀だったんだけどねぇ。ヘロン一家が絡むと私情丸出しで最近は他の業務にも支障を来たしているみたいだし……」
さすがにアライアも顔色が変わった。
「えっ!? く、首ですか? 首なんですかぁ!? そ、それだけは勘弁してもらえませんか? ちゃんと他の業務も一所懸命頑張りますし、何よりヘロン君の動向が分からなくなっちゃうじゃないですかぁっ! 」
結局の処、私情は捨てられないらしい。
「そう言われも冒険者協会はアライア君の私物じゃぁない…… とはいえだ。現状、王都を守っているのは軍でもギルドでもなくヘロン一家と言って過言じゃない。これまで大きな顔をしてきたギルド協会に対して冒険者協会の大きなアドバンテージだ。それにアライア君、君はヘロン一家当主のヘロンさんと幼馴染なんだろ? ヘロンさんは噂によるとEランクなのに何故か国王陛下とも親しいらしいし、協会としてはヘロン一家と強いパイプを繋いでおきたい。そこでだ、アライア君。君をたった今、秘書官の任を解きヘロン一家専属担当官に任命する。それでいいかね? 」
「は、はいっ! 何の問題もございません! アライア=アライアンス、ヘロン一家専属担当官の任、お引き受けいたします! さ、さっそくヘロン一家王都分家に御挨拶に行ってきます。失礼しまぁす! 」
本当はプルム村のヘロンの元まで飛んで行きたい処だが、さすがにそうも行かず分家に勇んで行った。おそらくヘロンの耳に一番早く届くからだ。




