ep.33 ミューレンの魔女
ソネットとメイカーが結託した頃、ボウカーは一人、根城で酒を呷っていた。と言っても妬んでいる訳ではない。
「あらあら、人を呼び出しておいて呑んだくれてる訳? 」
現れた妖艶な美女はボウカーから酒を取り上げると一気に飲み干してしまった。
「おいおい、そりゃねえぜ。俺らのとっておきの酒だぞ、レミィ。」
「そういう酒は自分で呑むより客人であるあたいに差し出すのが筋ってもんだろ? 」
そう言うとレミィは空瓶を放り投げた。
「危ねえだろが! 」
「大丈夫だよ。お前さんの石頭なら大した怪我にならないって。どうせ中は空っぽなんだし。」
どうにも呑みップリと口ではレミィに勝てる気がしないボウカーは話を切り替える事にした。
「それで、『ミューレンの魔女』はどっちに着くんだ? 」
「ああ、その話ね。ソネットからもマリアンヌの居るヘロン一家に復讐したくはないかって聞かれたよ。妙な術付きで。あんな誘い方で、このレミィが堕とせるとでも思ったのかしらねえ。舐められたもんだわ。マリアンヌってマリアモンの事でしょ? 別に彼女には何の怨みもないから復讐って言われてもね。でも普通に少しでも怨みを持ってたら危なかったかもね。」
ボウカーとしては結局どっちなのかと問いたい処だが、ここは我慢した。下手に急かして臍を曲げられても得はない。
「それでね、ボウカーについてもいいけど、条件があるの! 」
「条件? 」
最初こらレミィが無条件で手を貸してくれるなどとは思っていない。
「三食昼寝付きでデザート必須! 王都を陥落させたら物資は山分けでどう? 」
ボウカーからすると少し意外だった。
「物資? 財宝とかじゃなくていいのか? 」
するとレミィはおもいっきり首を振った。
「あんた、自分のやろうとしてる事、わかってる? ソネットやメイカーのやり方なら、財産持ってても価値はあるだろうけど、あんたみたいに王都潰したらお金より物でしょ? お金は飲めない食えない着られない住めない、衣食住の為に初期段階は物々交換が物を言うに決まってるんだから! その後に流通し始めるお金も今と同じとは限らないしね。一回まっ更になったら人心掌握するにはいかに欲しい物を持っているかなの! 」
つまりソネットのように王都を占拠したり、メイカーのように政権を掌握しようとしているのと違いボウカーは王都に壊滅的打撃を加えようとしている。それは経済活動すら根刮ぎ破壊しようという事であり、レミィのいう事にも一理ある。
「お、おう。わかった。三食昼寝付きで物資山分けだな? 」
「デザート必須だって言ってるでしょっ! 」
魔女であろうが聖女であろうが女子の扱いは苦手なボウカーだった。
***
「レミィ=マルティネスは滅師と組んだか。でもレミィの魔力はボクの化獣やソネットの化竜よりはボウカーの化物の方が親和性は高そうだし、互いの邪魔はしないという協定さえ守られれば問題ないか。マリアンヌの対抗策としては、こちらも陣営に欲しかったけどね。」
メイカーは自分の工房で自問自答していた。ソネットと共闘すると言っても実体はメイカーからソネットへ技術提供する代わりに、ソネットからメイカーへ戦力供与するだけで肩を並べて闘おうという訳ではない。それに化竜を借りてメイカーが即、扱える訳でもない。似て非なる物はやはり同じではない。その調整にも多少の時間を要していた。
「これほど竜に授ける化面に纏わせる化瘴の調整が厄介だとは思わなかったよ。魔物に化面を纏わせるのも結局、ボウカーに先を越されたし……。天才化粧師としては何としてもソネットよりも先に複数の化竜を従わせて見せなくてはね。」
***
「あらぁ? ソネットもメイカーみたいに四苦八苦してるのかと思ったら余裕そうね? 」
「これはこれはレミィ=マルティネス。気が変わってわたくしと組む気になった……なんて事はないのでしょう。本日はどのような御用件ですかな? 」
ソネットの態度にレミィは嫌そうに溜め息を吐いた。
「はぁ……そういう回りくどい所が嫌いなのよね。わかってんでしょ。視察よ視察。さすがにヘロン相手となると、あんたらの出方や結果で、こっちも色々と考えないといけないからね。別に敵じゃないんだから多少は手の内見せてくれてもいいでしょ? 」
今度はソネットがレミィに溜め息を吐いた。
「ふぅ……確かに敵ではありませんが仲間でもないのですよ。目的を異にする以上、手の内を晒す義務はありませんからね。」
「いいわよケチ。どうせメイカーの研究成果をくすねるつもりなんでしょ! 」
「人聞きの悪い。わたくしはメイカーの成果を踏まえてブラッシュアップするだけです。二人で同じ研究など、理論的な差異がなければ非効率で時間の無駄だとは思いませんか? 」
ソネットの言い分はわからなくもない。瘴気を使った化面で生物を操る基礎を同じくする技術なだけに同様の結論に達する可能性は高い。かといって二人の個性が強すぎて共同研究をしても喧嘩別れが関の山だ。
「とりあえずメイカーが第一陣って事は理解したわ。お互い生き残ったら、また会いましょ。」
生き残ったら……その言葉の重みはソネットも感じていた。




