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したたかに謳って♪  作者: 凪沙 一人
29/66

ep.29 滅師

 礼拝堂の一件も一段落し、その間にヘロン一家ファミリアの分家手続きも無事に終了していた。ヘロンとしては一刻も早くプルム村に帰って病み上がりのロールに任せてきた農地や牧場の様子も見に行きたいのだが、そうもいかなかった。

「それで『ヘロン』…… どうも呼び慣れないな。」

 国王が歯痒そうにしていたので、ヘロンはつい笑ってしまった。

「それを言ったら僕も『国王陛下』は呼び慣れないよ。でも迂闊に皆の前で昔の呼び方をしてしまうよりは普段から今の呼び方にしておくべきじゃないかな。」

 その意見には国王も仕方なさそうに同意した。名前どころか、あだ名で呼ばれようなら国王としての威厳を損ねかねない。

「それで結局、対仮面生物対策に力を貸してはくれないのかい? 」

 国王からの問い掛けにヘロンも少々複雑な表情を見せた。

「いや、だから僕も今の日常生活を脅かされるのは嫌だから協力はする。けど王宮の組織に組み込まれるのは勘弁して欲しいんだって。それこそ僕の日常生活が乱れちゃうし。」

 そう言いながらヘロンは国王の机の上にあったレターオープナーを壁に投げつけた。

「おっと! 怖い怖い。俺らの隠行を見破るとは恐れ入ったね。」

 暗がりから浮き出るようにソネットともメイカーとも違う化面の男が姿を現した。

「さすが化獣けもの化竜かりゅうを倒すだけの事はある。」

 そこへサルヴァスとフランが物音を聞きつけて飛び込んできた。

「ヘロン殿、何事だ!? 陛下は御無事かっ!? 」

「師匠ぉ! 」

 フランを弟子にしたつもりはないのだが勇者が謹慎処分になり行き場もないというのでヘロン一家で預かる事にはなっていた。

「サルヴァスさん、盾士なんだから陛下の護りは任せます。フランも二人についていって。彼の相手は僕がするから。」

 普通であればSSランクのサルヴァスやCランクのフランが残るのだろうが二人ともヘロンが冰竜を倒す処を見てしまっているので素直に従った。

「うんうん、賢明だねぇ。彼奴等が居たところで、どうせお前さんには足手纏いだ。けど俺らとお前さんが殺り合うには書斎ってのは狭過ぎだ。外に出ようぜ! 」

 ヘロンとしては人目につかない書斎でも良かったのだが国王の書類をグチャグチャにしてしまった方が後が面倒臭そうだ。ここは国王が気を利かせて人払いをしてくれる事を期待して王宮の中庭へ出た。すると中庭のど真ん中に化面を着けた魔物が居座っており、国王が人払いするまでもなく避難した後だった。

「こいつは化面の魔物、通称化物(けもの)。お前さんのこった、どうせ、こんな事だろうと思ってたろ? 俺らは期待に応えるタイプなんでね。あ、まだ名乗ってなかったな。俺らは滅師ボウカー。直接話しをするのは初めてだが模擬迷宮探索大会の時にもこっそり居たんで俺ら的には二度目ましてだ。今までメイカーやソネットのやり方をおとなしく見てきたんだが、まどろっこしくていけねえ。やっぱり国をひっくり返すんなら国の頭である国王の首級くびを獲るのが一番だろ? で、それに一番邪魔なのがお前さんって訳だ!」

 なにやら口数の多い男だ。おそらくは思った事は全て口に出してしまわないと気が済まないのだろう。見たところ化物とやらは魔物が素体ベースなだけあってアイスボールで一撃という訳にはいかなそうだ。

「さあ殺っちまえっ! 」

 ボウカーが命じた瞬間、化物は黒い霧となって消えてしまった。ヘロンが動いた様子はない。何が起きたのかとボウカーが思っていると霧の中から二本の剣を携えた少女が凛として立っていた。

「王都に牧場に湧いた瘴気と似た気配を感じて来てみれば…… そこの者、ヘロン様に仇なすのであれば容赦はいたしません。この聖魔二刀流の前に散るがよい! 」

 一瞬の出来事だったが聖魔二刀流と聞いてボウカーもようやく事態を飲み込めた。

「お……おいおいおいおい、聞いてないぜ? 聖魔二刀流って言ったら、お前さんマリアモンか? 訳のわからねえヘロンの強さも不気味だけんどよお、訳のわかりきってる無茶苦茶強いマリアモンってのも脅威だぜえ! 」

「そこの者、散り行く者に言っても仕方ありませんがマリアモンではなくマリアンヌですので、お間違いないように。」

 やはり、マリアンヌもそこは譲れないらしい。

「おう、マリアンヌだな。覚えたぜ。今日で決着ケリつけるつもりだったんだが、こいつは想定外だ。出直してくるからからな。あばよ! 」

 もたもたしていたら本当に聖魔二刀流の餌食になりかねないと思ったのかボウカーはあっという間に姿を消した。するとマリアンヌはヘロンに向かって片膝を着いてこうべを垂れた。

「出過ぎた真似をいたしました、ヘロン様。」

 それに対してヘロンは首を振った。

「いや、あんまり手の内も見せたくないからマリアンヌのお陰で助かったよ。」

「お褒めくださるのですかヘロン様! なんと勿体ない! 」

 この時ばかりは魔女や聖女というより少女のような笑みで喜びを表していた。

「師匠ぉ! 」

 そこへ中庭が静まったのでフランが走って様子を見にやって来た。

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