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したたかに謳って♪  作者: 凪沙 一人
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ep.25 ヘロン一家の分家

 ヘロンたちを呼び止める聞き覚えのある声に出来れば無視をしたい処だが状況的にそうもいかず手を振って応えた。アライアの案内でやや中古の空き家に入ろうとしたところを待っていたかのように声を掛けられた。

「おやおや、誰かと思えばプルム村のヘロンさん、でしたかしら? 模擬迷宮探索大会以来ですわよね。妾の事は覚えていらっしゃるかしら? 」

「誰だっけ? 」

 相変わらずの高慢な態度にヘロンはとぼけた。

「アトリっ! 」

「お、お久しぶりでございます、ステナ様。大恩あるステナ様のお顔を忘れる訳がございません。今のはヘロンのほんの冗談にございます。」

 アトリは深々と頭を下げたがヘロンからすれば二度も窮地を救っているのだから恩など感じていなかった。とはいっても二度とも意識がない時だったのでステナ自身は知らない話しなのだが。

「ちょうどいいわ。アトリ、それに戦士ヴァルファ=メロス、魔術師マリーナ=ヴェルサーヌ。妾の元に帰っていらっしゃい。最近、仮面の獣退治でヘロンさんの一家ファミリアの名前を時々耳にしますが、実際に討伐しているのは貴方がたなのでしょう? だって青銅ブロンズ色のEランク証であるヘロンさんに、そんな真似出来るはずありませんものねえ。」

「せっかくだけど、お断りだね。そもそも帰って来いって言うけど俺とマリヴェルは模擬迷宮探索大会の時だけの臨時パーティーだった筈だろ? 」

 ステナからすればヴァルメロに即答されたのが意外だった。

「お、お手当てならヘロンさんの二倍……いえ、三倍はお支払いしますわよ! 」

「金額じゃないのよ、ヒルンド家のお嬢さん。」

 マリヴェルにもあっさり拒否されてしまった。

「アトリ、これは命令よ。妾の元に帰ってらっしゃい! 」

「私もお断りいたします。ヘロンの嫁として生涯離れるつもりはございません! 」

 自分がヘロンに治療の礼にと嫁に出した事も忘れて元は自分の剣士だったアトリに反論されたのがステナの安いプライドに触れた。

「そのような事を言ってもいいのですか? 貴女の実家であるブルフィンチ家は代々ヒルンド家に仕えてきた騎士シュヴァリエの家系でしょ。よく考えて返答なさい。」

「おやおや今のは聞き捨てなりませぬなあ、ステナ殿。」

 突然、芝居掛かったような聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「えっ……アイギス家のサルヴァス様!? SSランクの貴方様が何故このような所に? 」

「いやいや俺様とヘロン殿とは故あって義兄弟の契りを交わしておりましてな。王都に分家を開くと聞き、祝いに参じたまで! それよりも先程の発言、上級貴族が立場関係を利して仕官貴族などに圧力を掛ける事は固く禁じられているはず。名門ヒルンド家の御令嬢が知らぬ訳ではありますまい? 」

「あ、当たり前ですわ。先程のは冗談……そう、ほんの冗談です! こんな事もあろうかとヘロン一家は妾のギルドに吸収する予定ですし…… 」

「あ、その件なら棄却されました。」

 サルヴァスの言葉に動揺したステナにアライアが追い撃ちを掛けた。

「棄却!? そんなバカな! ちゃんと正式手続きを…… 」

「あの書類、ヒルンド家の息の掛かったギルド協会は通せたかも知れませんけど冒険者協会じゃ通りませんよ? 書類不備って事にしてありますけど不正の痕跡らしきものも見つかってますし。」

「そ、そんなバレる筈が…… いえ、そんな筈はありませんわ。出るところに出れば、きっと…… 」

 するとアトリが残念そうに前に出た。

「ステナ様…… ヘロンは私との婚儀の際に掟神テミスティアナ様より『真実の加護』を受けております。つまり冤罪や策謀、誤認には掛からないという事です。お忘れなきように。」

「べ、べべべ別に策謀などめぐ巡らせてなどおりゃませんわ! 今日は気分が優れない失礼します!」

 ステナはばつが悪そうにスタスタと足早に去っていった。

「・・・なんだったんだろう? 」

 ヘロンではなくてもステナの行動は首を傾げたくなる。

「あの御方……ステナさんは今回の分家創設についても何かと横槍を入れてらして。御自分が切り捨てた方々を受け入れたヘロンくんの一家だけが仮面の生物を討伐している事に、表立ってではありませんけど王都でも人を見る目が無いんじゃないかと陰口を叩かれているようです。」

「それはステナ様がお気の毒な気もする。化面の獣…… 化獣ばけものでさえ私もメアやアイリスと三人掛かりでやっと一頭。ほとんどはヘロンが一人で相手をしているのが実情だ。」

 アトリはそう言うが、表向きにはヘロンが化面の獣を倒した記録は存在しない。ヴァルメロやアイリスなど、居合わせたSランクが倒した事になっているからだ。

「まあ俺様の義弟の実力を量れないのだから本当に人を見る目が無いのかもしれんな! 」

「サルヴァス殿…… 」

 大きな顔をしたサルヴァスにアトリが釘を刺した。サルヴァス、アイリスのアイギス兄妹が初見でヘロンをEランクのゴミと評した事を忘れてはいなかった。

「ところで、ここの開設費用とかは……? 」

「竜退治と牧場襲った獣退治の賞金で埋めといたよ。余った分はヘロン一家の口座に振り込んでおいたから安心して♪ 」

 ヘロンの疑問に満面の笑みで答えたアライアだった。

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