ep.24 再び王都へ
他の者の話しはいざ知らず、マリアンヌはヘロンの話しはきちんと聞いていた。
「なるほど、そのロールなる少女に憑いた化瘴なる穢れのような瘴気を浄化すれば良いのですね? 」
端的に言えばその通りだ。ヘロンは大きく頷いた。
「ちなみに・・・このロールなる少女もヘロン様の嫁という事は? 」
ここまで来れば疑われても仕方ない事をヘロンも自覚せざるを得ない。
「違います。彼女は依頼受諾の交換条件として牧神ブレッダが派遣してきた眷属で牧場の世話人です! 」
「それは、嫁主張ですか? 」
マリアンヌとしてはヘロンに対してした質問にアトリが返してきたのが面白くないらしい。
「事実を答えたまで。そもそも主張などせずともヘロンの嫁は私だ。」
「確かに神々の一人、掟神テミスティアナが認めし婚姻の儀を執り行ったのですから形式的にはアトリさんが正式な嫁なのでしょう。ですが端から見ればアトリさんの振る舞いは冒険者パーティーのパートナーの一人のようにしか見えないのですが? 」
マリアンヌの指摘にアトリが言葉を詰まらせたがヘロンの視線がマリアンヌに刺さった。
「ま、まあ、ともかくヘロン様からの頼まれ事が最優先でしたね。」
マリアンヌが聖剣に聖水を掛け、ロールの上に紋章のようなものを描くように振るうとロールの顔に血の気が戻ってきた。
「これでもう大丈夫でしょう。」
ロールの回復具合を診たイアヒパの言葉に一同が安堵した。
「それじゃイアヒパはブレッダにロールの無事を報告してあげてもらえるかな。ミーコはもう一晩、ロールに付き添ってあげて。マリアンヌは牧場周辺に結界を張って化瘴が吹き出さないようにしておいて貰えるかな。」
それを聞いたマリアンヌが首を傾げた。
「ヘロン様はどちらへ? 」
「僕は野暮用で王都に行ってくる。本当は面倒臭いんだけどさ。」
「わたくしの再封印は如何なさるのですか? 」
マリアンヌの言葉にヘロンは少し驚いた表情を見せた。
「え? どうして? 再封印要る? 」
「仮にも聖女といえども魔王の娘です。その覚悟はしてございます。」
「いやいや、マリアンヌも今日から僕の家族だもん、そんな覚悟は要らないって。」
今度はマリアンヌの方が驚いた表情を見せた。
「え……わたくしがヘロン様の家族!? 」
「嫌かな? 」
ヘロンに問われてマリアンヌは激しく首を振った。
「いえ、謹んでお請けいたします。この牧場周辺に鉄壁の結界を張ってお見せ致します。御安心してお任せください! 」
「いや、そんな上下関係じゃないから。」
頭を掻くヘロンに一礼をしてからマリアンヌはアトリに向き直った。
「となればアトリさん、貴女とも家族です。離魂の話しは一旦取り下げましょう。王都までヘロン様を頼みます。」
「私もヘロンの嫁であり背中を預けられた身だ。傷一つ負わせはしない。」
一旦という辺りが引っ掛からなくもないが、休戦という事なのだろう。
***
一度プルム村に戻ってきたヘロンが王都に行く支度をしているとマリヴェルが声を掛けてきた。
「ねえヘロン。藪から棒で悪いんだけど王都にヘロン一家の分家を置く気はないかい? 」
突然の話しにヘロンも一瞬驚いたようだが、すぐに頷いた。
「いいですよ。」
これにはマリヴェルも些か拍子抜けした。
「本当にいいのかい? いやに、あっさりOKしたね。経費の心配とか理由とか色々聞かれると思ったんだけど。」
「どうせ、その話しを持ってきたのはアライアでしょ? それも多分、今回僕が王都に呼ばれている事にも関係してるんじゃない? 」
ヘロンの回答にマリヴェルは呆れるやら感心するやら。
「さすがヘロン一家の当主だね。全部お見通しとは恐れ入ったよ。メンバーは取り敢えず、あたしとヴァルメロでいいかな? 」
「あとミーコもそっちに入れてもらえるかな? 」
「えっ? 別に構わないけどいいのかい? 」
マリヴェルからすれば少し意外だった。話しに聞いた中ではミーコはヘロンが模擬迷宮探索大会に向かう途中で最初に拾った仲間である。
「やっぱり分家といっても三人一組の方が行動しやすいだろうし戦士と魔術師なら治療師がバランス良さそうでしょ。こっちには、その3つの職業を一人で熟せるのが居るから。」
「ああ、聖女と魔王の子だっけ? アトリから話しは聞いたよ。まったく、とんでもない知り合いが居るもんだね。」
「え、ああ、まあね。」
ヘロンの返答に何やら含みを感じたが深くは聞かない。その辺の空気を察してくれる人材としは本家にいてくれた方がヘロンも助かるのだが分家を任せられる人材としても他に思い当たらなかった。ミーコが牧場から戻ったところでヘロンは分家組の三人とアトリを連れて久しぶりに王都へと向けて出発した。予想どおりアイリスが同行させろとごねたのだがヘロンから『僕の留守を頼む。君の盾で守ってくれ!』などと言われたものだから断ることも出来ず留守番を承知した。そして王都に着くと甘えた甲高い女性の声で呼び掛けられた。
「ヘロンくぅうううん! ヘロンくぅうううん! こっちこっちぃいいいっ! 」




