ep.23 風雲再起
アスクの陰から現れた少女はヘロンに微笑み掛けた。
「久しぶりね。なんか、うちのお爺ちゃんが迷惑かけたみたいでごめんなさい。」
「イアヒパ、儂は別に迷惑など…… 」
迷惑をかけたと言われて否定しようとしたのだがイアヒパに一睨みされてアスクも黙ってしまった。孫に嫌われたくない心理は神も人も変わらないらしい。
「ともかく、あの子を喚ぶのが第一ね。ブレッダは私も知ってるけど、他のお嬢さん方は?」
「嫁のアトリだ。」
「次の嫁になるアイリスです。」
「実質嫁のメアだ!」
「従者で嫁のような元神子巫女のミーコというにゃ!」
イアヒパは呆れたように頭を抱え、苦笑した。
「・・・ここに居るだけじゃないんでしょ?」
イアヒパは疑いの視線を向けた。
「王都にアライアっていう現地妻が居るのにゃ!」
「「「現地妻って言うなっ!!」」」
悪気なく答えたミーコにヘロン、アトリ、そしてアイリスが突っ込んだ。一夫多妻が普通な竜人族のメロだけは鼻で笑っていた。
「なるほど、ブレッダが躊躇する訳ね。完璧なる修羅場案件だもの。えっと正妻はアトリだっけ? 嫁の座を守りたかったら、これから喚ばれる相手には相当な覚悟で対峙しなさい。」
イアヒパの言葉にアトリはやや首を傾げた。
「今さら”自称嫁“が増えたところで驚きもしないが……何か特別注意が必要なのですか? 」
「ええ。物理的にヤバいのよ。リアルにチート級にTueeeから。もはや主役級と言っても過言ではないわ。」
「は……はあ? 」
今ひとつイアヒパの言う事が理解出来ずアトリは呆然としていた。そこへドォンというまるで雷でも落ちたかのような大きな音が響いてきた。
「それじゃヘロン。神気も使い果たしたしロールの事は任せたからね! 」
「イアヒパ、爺ちゃんも手伝える事はなさそうだから先に帰るからな! 」
そう言うと牧神ブレッダと医神アスクは逃げるように去っていった。神々の態度を見ただけでも、イアヒパの言うとおりかなりヤバそうな気配がプンプンとしていた。
「どちら様ですか、わたくしの永き眠りを妨げた者は? 」
物々しい気配を裏切るかのような落ち着いて優しく澄んだ声が聞こえてきた。
「ヘロン! ヘロン様ではありませんか!! ああ、やっとわたくしを必要としてくださる日が参ったのですね! わたくしはこの日を一日千秋の思いで待ち焦がれておりました! 」
ヘロン以外、目に入っていなかったようだが、そこでやっとアトリたちに気がついた。
「おや、半神イアヒパさんも居らしたのですか。この者たちはヘロン様の侍女か何かですか? 」
「いや、ヘロンの嫁のアトリだ。」
「我は次の嫁になるアイリスです。」
「オレは実質嫁の竜人族竜騎士メアだ!」
「あたいは従者で嫁のような1/4獣人で元神子巫女のミーコというにゃ!」
イアヒパの時同様に四人が自己紹介をすると彼女はアトリの方に向き直った。
「そう、今は貴女がヘロンのお嫁さんなのね。離婚と離魂、どちらがいいかしら? 離婚を選ぶなら命までは取らないわ。離魂を選ぶならわたくしの聖魔二刀流で一瞬で肉体と魂を斬り離してさしあげましてよ? 」
するとアトリが剣を構えるよりも先にメアが槍を構えていたのだが、その間にミーコが割って入った。
「こっちが名乗ったんだから自己紹介して欲しいにゃ!」
「・・・貴女、今の状況がわかって……」
「こっちが名乗ったんだから自己紹介して欲しいのにゃ!」
こういう時のミーコは良くも悪くも空気を読まない。
「・・・わかった、わかりました。わたくしは曾祖母が聖女、祖母も聖女、母も聖女という三代続いた聖女の家系に生まれし魔王の娘。聖剣と魔剣を操りし聖女であり魔女、マリアンヌと申します。これで宜しいかしら? 」
するとメアが訝しげにマリアンヌの顔を覗き込んだ。
「噂に聞いた事があるぜ。聖魔が味噌糞一緒の…… 」
「そこは聖魔混濁くらいに表現していただけませんこと? 」
メア的には大差ないだろうとは思ったが、ここは譲る事にした。
「その聖魔蒟蒻……」
「混濁。」
再びマリアンヌに指摘されたが、やはり言い慣れない言葉は使うものではないとメアは諦めた。
「その聖女と魔王の子供とは一度、手合わせしてぇと思ってたんだ。ダーリンが喚んだんだから間違いねぇとは思うんだが…… そいつの名前はマリアモンって…… 」
マリアンヌが顔を顰めると同時にイアヒパがクスッと笑った。
「コホン・・・間違いではありません。マリアとアモンを合わせた、わたくしらしい名ではありますがマリアモンという響きは、どこぞのモンスターのようなので改名いたしました。」
すると先程はクスッと笑ったイアヒパが今度は声をあげて笑い出した。
「半神イアヒパともあろう御方が品の無い笑い方をなさるものではありませんわ。」
「素直に言ってしまえば? ヘロンの傍に居るために名を変え魔族の半身を隠したのだと。」
イアヒパの言葉にマリアンヌが二本の剣の柄に手を掛けたところでヘロンが割って入った。
「何故止められるのでしょう? 」
「マリアンヌを喚んだのは頼みがあるからなんだ。マリアンヌにしか出来ない事なんだ。」
ヘロンの言葉にマリアンヌは柄から手を離した。




