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したたかに謳って♪  作者: 凪沙 一人
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ep.21 化病

 メイカーを退けたヘロンたちは一旦、牧場へと戻った。今までの襲撃ペースから考えても、化獣をそう簡単に用意出来るものではないだろう。となればヘロンの牧場も当面は安泰と思われた。

「あっ! 御主人、大変にゃっ! 」

 ヘロンたちの姿を見つけたミーコが慌ててやってきた。

「どうした、そんなに慌てて? 」

「ロールが倒れたにゃっ! 」

 ヘロンファミリア唯一のヒーラーであるミーコが慌てるとなると通常の病や怪我ではない事は察しがつく。ヘロンたちも急いでロールの元に行くと、そこには牧神ブレッダが付き添っていた。

「ブレッダ、どうして此処に? 」

「何言ってるの。ロールは私の眷属なんだし、そもそも私はこの牧場に祀られてるんだから不思議じゃないでしょ? 」

 ブレッダの言うことは至極もっともな話しだ。ブレッダによれば牧場の近くに化瘴けしょうが湧いたらしい。ロールの奮闘と後から牧場に戻ってきたブレッダの神能によって牧場の動物たちは守られたがロールが化瘴に当てられたらしい。

「残念ながら私も万能の神ではない。ロールが自分よりも動物たちを救ってくれと言ってきかなかったんだ。」

 そもそもミーコのヒーラーとしての能力は外傷に特化している。化瘴のような呼吸器系から体内を侵食するようなものへの対処は難しいだろう。

「確か医神ってのがいなかったっけ? 」

 ヘロンからの質問にブレッダは些か困惑したような渋い表情を見せた。

「いるよ。いるけど……あれはアテにならないんじゃないかな。」

 ブレッダは奥歯に物の挟まったような言い方で、やんわりと否定的だがメイカーたちが現れて以降に起きた化瘴という物質が湧くという現象に対して人間の医学では治療法が確率出来ている筈もない。となればロールを救う為には神の能力ちからを借りるくらいしか方法が思いつかなかった。

「ロールは自分の眷属なんだろ? それともブレッダがなんとか出来るのか? 」

 そう問われるとブレッダは牧神まきがみである。治療については門外漢であるし化瘴のような未知の物質に対して策がある筈もなかった。

「悪いけどアスクの所にはヘロンが行ってもらえる? 」

 ブレッダが憂鬱そうに言った。

「どうして? 神様同士の方が話しが早いんじゃない? 」

 ヘロンが言うことも普通であれば、もっともなのだがそうもいかないらしい。

「タイミングが拙いのよ。今の医神アスクは他の神様たちと断絶状態でね。もしかしたら人間の話しなら聞いてくれるかもしれない。」

「・・・何があったか知らないけどロールの方もそんなに余裕があるとは思えないし。ミーコは引き続きロールを頼む。メアは上空から周辺を見張ってくれ。 アイリスはもしもの時は牧場の守りを任せた。」

 メアとアイリスも不服そうながら頷いた。

「仕方ねえな。空から見張るってのはオレしか出来ねえもんな。」

「こと守りにかけては旦那様より賜りし竜鱗の盾を持つ我以上に適任は居らぬからな。アトリ、旦那様を頼む。旦那様さえ無事なら後の事は我が嫁として引き継ぐから心配するな。」

「それこそ杞憂というもの。私は嫁としてヘロンと共に役目を果たして戻るからな! 」

 アトリとアイリスのやり取りをブレッダは呆れながら見ていた。 

「ヘロン、あんたも苦労するねぇ。ともかく時間も無さそうだし頼んだよ。」

 ブレッダの言葉にヘロンは頷くとアトリと共に出立した。ヘロンたちの後ろ姿が見えなくなったところでアイリスがブレッダに尋ねた。

「それで、神様より人間の方が話しを聞いてもらえるかもしれないというのは理解したが、どのくらいの確率なのだ? 」

「他の人間なら五分五分という処だが、ヘロンなら間違いなく話しを聞かせるくらいはする。ましてロールの命が掛かっているとなれば、たとえ相手が神であろうと何とかするさ。」

 それを聞いてアイリスは少し不思議に思った。

(旦那様はいったい何者なのだ? 神がこうも人間を信用するものなのか?

 いやいや、きっと旦那様は神々さえも一目置く素晴らしい方に違いない。そんな旦那様から竜鱗の盾を賜った我はなんという果報者なのだろう! )

 もしも、このアイリスの心の声が誰かに聴こえていたならば疑問の帰結点に突っ込んでいただろうが幸い漏れてはいなかった。


 ***


 医神アスク。司るものが医療なだけに信者数は多い。とはいっても医療関係者を除けば身内や自分、パートナーなどが大病や大怪我などを負った時だけ信心する者も多く変動も激しい。

「アスクは居る? 」

 ヘロンの呼び掛けに体格の良い少し老いた神が姿を現した。

「なんだ、患者かと思えば健康そうではないか。それとも身内に患者が居るのか? 」

「僕の牧場で動物たちの世話をしてくれているロールという女性が化瘴という瘴気の一種に当てられたらしいんだ。救けて欲しい。」

 ヘロンの嘆願にアスクは眉を顰めた、

「牧場……ロール……。お前もブレッダの眷属か? 」

「いや、一応僕はテミス……テミスティアナの信者って事になってる。ってかロールを知っているのか? 」

 ヘロンの問いにアスクは複雑な表情を浮かべていた。

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