ep.20 嫁たちの覚悟
メイカーの背後から三匹の化獣が姿を現した。空腹だったのか野生の獣を襲ったのだろう。口元から血が滴っている。
「もう少し、言うことを聞かせられないと顧客の家畜にも手を出しそうだね。」
ヘロンの言葉にメイカーも軽く頷いた。
「お気遣い、ありがとう。確かに、その通りなんだ。その点は今後の改良課題として…… 今回は戦闘データを優先させてもらう。やはりEランクの青銅冒険者に勝てないままでは売り物にならないからね。」
そう言ってメイカーが合図を出すと化獣のうちの一匹が背後に回り込んだ。
「確かに君はボクの化獣よりも強い。けれど、お嫁さんはどうかな? 」
だが、それを聞いたヘロンは薄笑いを浮かべた。
「言っておくけど僕のお嫁さんたちは、かな~り強いよ。」
アトリ目掛けて振り下ろされた化獣の爪を竜鱗の盾が防いだかと思うと、上空に飛んできた緋竜から赤い髪の少女が槍を片手に飛び降りた。それに気づいた化獣が上空を見上げた瞬間にアトリの剣が化獣の喉を切り裂いた。
「ダーリン、いいタイミングだったろ? 」
「旦那様、お怪我はありませんか? 」
突然現れてアトリと共に化獣を倒してしまった少女たちにメイカーは渋い顔をしていた。
「またもや予期せぬ、招かれざるお客様ですか。竜人族に…… その盾は化竜の鱗ですね。クリスタルのランク証、どうやらSランクのようですが何を好き好んで他人に手を貸すのやら? 」
「他人じゃねぇ! オレは竜騎士メア。ヘロンの嫁だ! 」
「我とて旦那様より竜鱗の盾を賜りし身。ほぼ嫁、もはや嫁と言って過言ではない! 」
「待て、過言だろう! ヘロンの嫁は私だ!! 」
メイカーからすれば誰がヘロンの嫁であろうと、どうでもいいのだが三人掛かりとはいえヘロン以外に化獣が倒された事の方が想定外だった。
「おやおや、いつの間にかハーレムを作ったんですか? 」
端から見れば、ヘロン一人に自称を含め嫁が複数なのだから、そう見えても仕方ないかもしれない。けれど二匹の化獣を倒し終えたヘロンは首を振った。
「僕が作ったのはハーレムじゃない。家族だよ。」
「掟神の眷属とかではなく? 」
メイカーはやや不思議そうに尋ねた。
「そういう意味ならアイリスは盾神信徒だし、メアは竜人族だし、ここに居ないミーコも1/4獣人だからね。一つの協議とかで括れるもんじゃない。」
「ふむ。所詮は他人の寄せ集め……とは言いますまい。夫婦などは概ねは他人同士、一対一であれ一対多であれ多対多であれ他人の性癖などに興味は無い。むしろ寄せ集めに倒されたとあっては、ますます化獣の商品価値が下がってしまいますからね。」
「そろそろ化獣の売り込みは諦めた方がいいんじゃない? 」
ヘロンの提案にメイカーは首を振る。
「いやいや。本来、化獣は草食ベースであれ肉食ベースであれ一対一であればSランクを凌駕する代物なのです。それを倒してしまう君たちを倒す化物となれば大ヒット商品間違いなしでしょう。まあ、その為には君たちファミリアの知名度と実力をもっと世間に知らしめていただかないとなりませんが。」
ヘロンからすればメイカーの思惑など知った事ではない。
「前にも言ったよね。僕は騎士でも勇者でも英雄でもないってさ。だから知名度を上げるつもりなんて、これっぽっちもないんだ。」
想定通りの回答とはいえ、それはメイカーにとって都合のいいものではない。
「なら、こちらで勝手にリークさせて貰うかな。」
「・・・本気で言ってる? 」
「もちろん・・・冗談さ。まだ君の実力の底が知れないからね。あちこちに仮面の獣が現れてては、Sランク以上の誰かが討伐している。この表向きの状況はボクにとっても都合がいい。そのSランクを倒す方が容易いからね。化獣よりも強い化物を売り込むには簡単だ。問題は化物すら君が同じように倒してしまったら商品価値は半分どころかゼロに等しい。それに君の事をリークするというのは君の言う処の今の生活を脅かす事になるのだろうしね。次こそは君の実力を計れるような化獣を用意しないと。」
「それならオレたちの実力も計った方がよくないか? 」
ヘロンとメイカーの会話にメアが割って入った。
「竜人族のお嬢さんか。確かに人間のようなランク証を持たない相手の実力は計った方がいいかもしれないな。」
「そこじゃない。いいか、オレたち三人の共通点はヘロンの嫁であり、ヘロンを選んだ理由が自分よりも強いからだ。つまり言い方を変えればヘロンの次に強いって事さ! 」
豊かな胸を震わせてメアはドヤ顔でメイカーを睨み付けた。
「もったいない。実にもったいない。君たちファミリアほど、この世界のランク証などという下らない階級制度に縛られない実力の持ち主たちが、この世界を守ろうとするなんて。」
「僕が守りたいのは世界じゃない。今の生活だよ。」
「同じ事さ。まあ、このまま話しても平行線だろう。次こそは君の全力を見せて欲しいものだ。」
「その前に私が……私たちが、ヘロンに代わって止めてみせよう。」
アトリたち三人は本気で化獣を打ち倒す覚悟を決めていた。




