ep.14 乱立の舅姑小舅
化面の竜の一件が片付き、ヘロンたちは竜人族の村を離れようとしていた。
「メアや…… 本当に行ってしまうのか? 」
カリエンテスが竜人族の族長とは思えぬ情けない声を出していた。
「親爺殿もダーリンがオレたちが歯の立たなかったドラゴンの頭、吹っ飛ばすとこ見ただろ? この村にオレより強い奴は居ねえがダーリンは間違いなく強い! 」
だが、ここでカリエンテスも食い下がる。
「あれは強さではなく知恵や知識だ。お前が魔法を覚えればEランクの冒険者のよりも強くなれる。」
「いやいや、たった今、親爺殿も言っただろ。たとえオレが魔法を覚えてもあそこでアイスボールは選らばねえ。きっと最大魔法をブッ放すと思う。もう力ずくでなんとかなる時代じゃねえ。その状況に応じた判断力って奴が必要なんだ。ならオレとダーリンの子供なら両方持った竜人族の跡継ぎが出来ると思わねえか? 」
メアに自分より強い奴にしか嫁にやらんと言って育てた手前、自分たちが足止めも出来なかった化面の竜を1人で倒してしまったヘロンの実力を認めない訳にはいかない。ただ倒し方が低級魔法というのが納得いかなかった。
「何度も言うがヘロンの嫁は私だ。」
「だから竜人族は一夫多妻だって……オレはアトリが正室でオレが側室でも構わないぞ。王都の貴族ん中にも奥さんに隠れて妾を囲ってる奴だって居るんだろ? オレはコソコソしたくねえからさ。そっちが認めてくれりゃそれでいい。」
あまりにも堂々と言われたのでアトリもつい認めそうになってしまう。
「そう……ではない。私は認める訳にはいかないのだ。だが……ついてくるのは勝手にするがいい。」
「ならば我も勝手にさせてもらうぞ!」
勢いに流されるようにヘロンたちはプルム村へと帰ってきた。
「ああ帰って来た帰って来た。ヘロン、お客さんがお待ちだよ。」
クレイン叔母さんに言われて家に戻るとヘロンより先にアトリが反応した。
「父上、母上!」
待っていたのはアトリの両親だった。
「君がヘロン君か。君たちの結婚についてはヒルンド家のステナ様より事情は賜った。まさかEランクの冒険者に嫁がせる事になるとは夢にも思っていなかったが、あのステナ様の事だ。君たちも断れなかったのは察しがつく。ヒルンド家に仕える立場のブルフィンチ家としては異存はない。だが…… どうして我々を式に呼んでくれなかったのだ! 娘の晴れ姿をどうして見せてくれなかったのだあ! 」
唐突に慟哭するアトリの父にヘロンもアトリも戸惑いを隠せなかったが、アトリの母がドンと机を叩いた。
「あなた、騎士の家系たるブルフィンチ家の当主が人前で情けない。ステナ様のわがままにも困ったものです。アトリは自分より強い方に嫁ぎたいと申しておりましたのにEランクとは…… 」
今度はアトリがドンと机を叩いた。
「ヘロンは私よりずっと強い!」
「そんな、まさかアトリはBランクでも実力はAランクにひけをとらない筈でしょ。それがEランクに…… 」
ヘロンの母親の言葉を遮ったのはヴァルメロだった。
「いや、ヘロンは俺より強い。」
マリヴェルが続く。
「魔力もあたしなんかより数段上。」
「防御力でも敵わない。」
アイリスが言ったところで三人はランク証をアトリの両親に見せた。
「クリスタル!? そんな、まさか。Sランクより強いEランクなど聞いたこともありません! 」
すると再びアトリが口を開いた。
「事実です。ここに居る皆が証人です。掟神テミスティアナに誓って嘘偽りはありません! …… ですが、この事実は他言無用にお願いします。もし話せば……親子の縁を切らせてもらいます。」
静かな口調がアトリの本気を示していた。ランク制度が崩壊するなどと言うよりアトリの、特に父親には娘に縁を絶たれる方が効果的であった。
「わ、わかった。誰にも言わん。だから親子の縁を切るとか言わんでおくれ。」
アトリの母親も渋々頷いた。
「はぁ……どうせ言っても誰も信じないでしょうしね。それに人望もあるようです。今日は娘婿がどのような人物か見定めに来ただけなので、これで帰ります。あなた、行きますよ!」
「あ、ああ。」
名残惜しそうにするアトリの父親を引き連れて王都へと帰っていった。すると入れ替わるように甲冑を纏い巨大な盾を背負った男が入って…… こようとして入り口に盾が引っ掛かっていた。
「兄者……何をなされているのですか? 」
アイリスが苦笑しながら声を掛けた。
「いや、お前が俺様の留守中に代わりに仮面の竜を討伐に向かったと聞いて心配で慌てて飛んできたのだ。仮面の竜は何処だ? 」
「それならば旦那様が成敗された。」
旦那様と聞いてアイリスの兄はキョロキョロと辺りを見回した。
「おお、王都で開かれた模擬迷宮探索大会に現れた仮面の肬猪を退治したと言う戦士ヴァルメロ殿ではないか。お前たち、いつの間に…… 」
「違うっ! 我の旦那様はこちらのお方だっ! 」
アイリスの指した先を見てアイリスの兄は自分の目を疑った。
「まさか、そのEランクのゴミ…… 」
兄の言葉に足をドンと踏み鳴らしたアイリスだった。




